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賽は投げられた①

2月10日 晴れ   今日はふっきーの誕生日です。 賑やかなことが好きじゃないっていうふっきーは、誕生日パーティーはしないという。 と言っても、他の候補を呼んで大々的にパーティーを開く賑やか好きな候補は、梅ちゃんだけらしい。 「雨花様、学校からお戻りになり次第、松の丸に出向くということでよろしいですか?私が代理で贈物をお持ちしてもよろしいのですよ?雨花様の誕生日の際も、お詠の方様の代理で、松の一位が参りましたし」 「あ、いえ。直接渡したいので。それに、猫も見せてもらいたいし」 「ああ、可愛らしい黒猫ですね?」 「いちいさん、見たことあるんですか?」 「はい。こちらに何度か迷って入ってきたことがあるんですよ」 「ええ?!そうだったんですか?知らなかったです!」 「内密に松の丸にお返ししておりましたので。御台様からのプレゼントを見失ったとなると、松の丸の側仕えたちの信用問題になりかねませんから」 いちいさんって、松の丸の側仕えさんたちのことまで考えてあげたりしてるんだ。 何かちょっと……モヤっとした。 だって他の屋敷の側仕えさんたちって、うちの側仕えさんたちのことを、悪く言ってるんじゃないの? でも、そういえば樺の一位さんが、松の一位さんはうちのいちいさんのことが好き、みたいなこと、言ってたっけ。 いちいさんも、松の一位さんのことが好きなのかな?だから松の丸の心配までしてあげるのかも。 「雨花様、もうお支度なさいませんと間に合いませんよ」 「あ、はい!」 「おっ!」 学校の下駄箱を開けてビックリした。 少しずつ減り始めていた下駄箱の手紙が、今日はもう、一通も入っていない。 皇……だよね?皇が本当に断ってくれたんだ。 何て言って断ったんだろう? 休み時間たびに廊下に湧いていたギャラリーも、先週末にはほとんどいなくなってたし、ようやく落ち着いた学校生活が送れるようになった気がする。 ちょっとした祭りみたいなもんだったのかも……。 この学校の奴らって、ケタ違いの金持ちだからか、どっか特殊なんだよね。 まぁオレも、今は人のこと言えないくらい特殊な生活を送ってるけどさ。 「ばあああっつん!おーはーよー!」 未だ頭の中が祭りのままらしいサクラが、後ろからオレに抱きついた。 「おはよ、サクラ」 「あれ?ばっつん何か、がいくんの匂いがする」 「うえっ?!」 この前の金曜日、いつも通り皇が渡って来て、当然のように……シた。 皇……夜伽をするたび……ちょっとずつ、何ていうか、新しいこと?をしてくる気がする。 この前の金曜の夜は……あんなこと……うわぁぁぁぁ!思い出しちゃダメだ!ヤバイ! 皇の匂いがするなんて!もしかして、土曜の朝までそんなことしてたせい?でも二日前だよ?それが今も残ってるとかある?! 「ぷふっ!何焦ってんのー?まず僕、がいくんの匂いとかわかんないし」 「っ?!」 何ーっ!?騙されたーっ!! 「匂いがつくようなこと、しーたーのーかーにゃー?」 サクラはきゃっきゃしながら、階段を昇って行ってしまった。 『したのかにゃー』って、サクラ……。 「……」 逃げ腰だったちょっと前のオレなら、あんなこと言われたらワタワタしまくってただろうけど……今は開き直ってる。 ああ、しましたよ!匂いがつくようなこと! だって……オレ、皇の一番近くにいてもいい人になりたいもん。 でもどうしたら、皇の一番近くにいていい人になれるの? 決心出来たってだけで、どうしたらいいのかわからない。 思ってるだけの自分が、すごく歯痒いし、焦ってる。 駒様やふっきーみたいに、鎧鏡家のためになる人だって、家臣さんたちに認めてもらえたらいいの? でもどうしたらそうなれるんだろう? 「どうした?」 「うわっ?!」 後ろから急に後頭部を掴まれた。 顔を見なくても、それが誰かわかる。 サクラ、これが皇の匂いだよ……なんてね。 「おはよ」 「ああ。このようなところでつっ立って……冷えるであろうが」 後ろからふわっと抱きしめてきた皇が、頭に軽くキスをした。 「のわっ!」 こんなところで! 頭を抑えてキョロキョロすると、皇がぷっと吹き出した。 「何だ?」 「誰かに見られたかも!」 「好都合ではないか。そなたを狙おうなど無駄なことだと、誰もが心の底から思えば良い」 「……」 「ん?」 「ううん」 手紙が入らなくなったんだから、もうそんな奴いないってことだと思うけど……。 心配されてるのが嬉しくて、そこは反論しないでおくことにした。

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