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賽は投げられた②

「ふっきーに誕生日プレゼントもう渡した?」 「いや。あとでケーキと共に持って参る」 皇と並んで一緒に教室に向かった。 並んで歩いてるだけなのに、何か、すごく嬉しい。 こういう普通の日常で、隣に皇がいることが、嬉しい。 「そっか」 あ!オレが自分でプレゼントを持って行ったら、松の丸で皇に会うかもしれない。だからいちいさんが、代理で行くとか言ってくれたのかも。 そんな気を使わなくても……なんて一瞬思ったけど……松の丸で皇に会うことを想像したら、やっぱり、皇がふっきーのところにいるのは、見たくない、と思った。 仲良くしてる皇とふっきーなんて、学校で散々見てるけど。 学校で見るのと曲輪の中で見るのとは……全然違う気がする。 鎧鏡のためなら他の候補とうまくいってもいいとか……オレは相変わらず、そんなふうには思えない。 皇が望んでオレじゃない他の誰かを……抱く、とか……考えたくもない。 皇が喜んでるならそれでいいなんて、ふっきーみたいに思えないよ。 つい二日前、オレにあんなことをしておいて、今日はふっきーに同じことをするのかと思ったら、吐き気がするくらいムカムカする。 皇とまだ夜伽をしていなかった時は、皇とふっきーが一緒にいたって、そんな想像しなかったのに……。今は二人の絡みを、したくもないのに生々しく想像してしまう。 あのふっきーが、あんなことされてるとか……。 皇がふっきーにも、オレと同じことをしてるなんて……やだ。 もしかしたら、皇はふっきーには、オレとは全然違うことをしてたり、して……。 そっちもやだ。そっちのほうがやだ。 ……全部、やだ。 「どうした?」 「何が?」 「……いや」 皇は、オレの頭をポンっと撫でた。 そんな優しい顔で、ふっきーのことも見るんだよね。 もしかしたら、ふっきーのほうが、オレより全然優しくされてるのかもしれない。 他の候補様たちと比べない!って思うのに、どうしたって比べちゃうよ。 ふっきーや駒様と自分を比べて、妄想でへこむの繰り返しだ。 妄想してへこむ暇があったら、嫁になれるように頑張れ!って、思うけど……。 だって、何をどう頑張ったらいいんだよ? 最近頭の中は、そんなんでグルグルだ。 「浮かぬ顔だな」 「朝から浮かれてるほうがおかしいだろ」 「そうか?そなたは朝のほうが浮かれておることが多いではないか。土曜の朝も……」 「なっ!……んの話してんだよっ!」 「元気なようだな」 皇はふっと笑うと、またオレの頭をポンっと撫でて、先に教室に入って行った。 土曜の朝は、お前のせいで寝不足で……テンション高かっただけだ!バカ! ……ホント、バカ。 心配……してくれたんだよね? 「はぁ……」 何度グルグルしても、最後は同じ。 最後にわかるのはいつも、皇が好きって、ことだけ。   「これでいかがでしょうか?」 とおみさんがオレをくるりと回して、いちいさんに確認した。 「ええ、上出来です」 いちいさんは満足そうに、大きく頷いた。 学校から帰ってすぐ、着物に着替えるよういちいさんに言われた。 ふっきーのところにプレゼントを渡しに行くだけなのに、着物ですか?と思っていると、何か言いたげなオレを察したのか、いちいさんが『本日は候補様同士の正式な交流でございますので正装がよろしいかと存じます』と、にっこりした。 「では、参りましょうか」 「はい。お願いします」 いちいさんは、オレが帰って来てからずっと時計を気にしていた。 皇が松の丸に渡るだろう時間までに、プレゼントを持って行って、オレが松の丸で皇とかち合わないようにって、思ってくれてるんじゃないかなって思う。 オレも、そうしたいし。 いちいさんに代理でプレゼントを渡しに行ってもらうことも考えたけど、ふっきーにはお世話になっているし、自分でお祝いを伝えておきたかった。 学校でふっきーにおめでとうは言ったけど、学校と曲輪はまた別だ。 白いベールを被らされて、梓の丸の屋敷を出た。 父上が揃えてくれた黒の袴姿の側仕えさんたちが何人か、プレゼントを持ってオレの後ろを付いてきてくれる。 梓の丸の使用人さんたちはこの黒い袴を、正式な集まりの時のユニフォームみたいに使ってくれていた。 「松の丸への渡り廊下は、やはりまだ通れないとのことですので、遠回りですがこちらから」 「はい。あの、この工事っていつ終わるんでしょうか」 「もうすぐ出来上がるそうですよ」 皇と買い物に行った翌朝から、うちの屋敷の増設工事が始まったという。 あの朝、目が覚めるくらい大きな音がしていたのは、この工事のための重機が入って来た音だったようだ。 『増設工事』ってだけで、何を増設しているのか、いちいさんすら知らないという。 皇に何を増設しているのか聞いたら『そなたか望んだのであろう』と、顔をしかめただけで、教えてくれなかった。 オレ、何か増設してくれなんて望んだっけ?……全く覚えがない。 増設している場所は白い布で覆われていて、どんな建物を作っているのかすらわからない。 松の丸との続き廊下も、そのせいで通れなくなっていた。 まぁ、そこが通れなくても、そこまで困ることはないんだけど……。 急に冷たくなった夕暮れの風に身震いしながら、気持ち早足で松の丸の屋敷へと急いだ。

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