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微触⑥
「雨花様、お着替えをお持ち致しました」
高遠先生の授業に着物で出るのも疲れるだろうと、とおみさんが洋服を持って来てくれた。
高遠先生はあと三十分くらいで、こちらに到着するはずだ。
「皇、何して待ってる?オレの部屋でゲームでもしてる?」
「いや、そうだな。……そなた、いつ戻る?」
「授業時間は一時間の予定だけど」
「そうか」
着物を脱ごうと帯に手を掛けると、ふわりと皇の香りに包まれた。
「え……」
背中で結んである帯を、皇が解いた。
「ちょっ……」
「脱ぐのであろう?」
皇はオレの帯を解いて、腰紐に手を伸ばした。
スルリと紐が解かれて、締められていた体が、ほうっと解放された。
小さく息を吐くと、皇の手が襦袢の裾に、差し込まれた。
止める間もなく、皇の手が、素足の内股をなぞった。
「っ!」
さっきの熱が、あっという間に戻ってくる。
体が一気に熱くなった。
「一時間、そなたの肌を思いながらここで待つ。……忘れさせるな」
後ろから耳元で囁かれて、ビクリと体が震えた。
「先生が……んっ……」
皇の手首を掴んで止めたいのに、力が入らない。
一週間ぶりに皇に触れられる体が……頭を無視して、反応していく。
「はぁっ……あ、はっ……はぁ、あ……」
内腿をなぞっていた指が、下着の上からペニスの形を確かめるように滑っていった。
「あっ!」
おかしい。どうしよう。ダメだ、オレ。いつもより……何か……。
「すめ、らぎっ!や、だ……やめ……」
小刻みに震えるオレの体を抱えて、皇は耳元でフッと笑った。
「どうした?」
意地悪く笑った皇の指が、ペニスを下着ごと掴んで、何度か上下した。それだけで、オレはもう……我慢出来ない。
「だ……あ、皇!……や……は、なし……あ、ホントに……ダ……あ、もう……離し……っ……皇っ!」
後ろから覆いかぶさるようにオレを包んでる皇の腕を、思い切り掴んだ。
ガクガクと体が震えて、一人で立っていられない。
「あ……あっ……はっ」
も……ダメっ。
「ん?」
……出、ちゃった。下着の、中に……。
「はっ、はっ、あ……も……離してって……言ったのに!」
こんな早く……イっちゃうとか……うっ……だって……。
「堪えられぬほど好かったか?」
皇が嬉しそうにそんなことを囁きながら、さらにペニスをしごくから、オレは激しくブチ切れた。
「バカアッ!これから先生が来るって言ってるじゃん!何してくれてんだよ!パンツどうすんだ!バカ!」
「あ?」
うあああ。着替えは持ってきてもらったけど、下着の替えはここにないじゃん!どうすんの?パンツも履かずに授業とか絶対ヤダ!
「部屋までパンツ取りに行かないと……」
「そのような姿でウロウロするでない。余が行って参る」
「は?」
嘘?!
「どこにある?」
「……冷蔵庫が置いてあるタンスの、一番上の引き出し」
「わかった。そなたはあちらの湯殿で体を流せ」
皇は、オレがまだ開けていなかった扉を指差した。
ここ、お風呂場完備だったの?!すごい!
いや、そんなことより、皇がオレのパンツを取りに行くって、ホント?
「……」
「ん?何だ?その顔は?」
「皇、取って来られるの?」
若干、心配なんだけど。
だってこいつ、簡単な日常生活ほど出来なそうなんだもん。
「あ?そなたの下着を取りに行くだけであろう?赤子にも出来る」
そう言って皇は出て行ってしまった。
……大丈夫?かな?
でも皇にお願いするしかない。
オレは若干心配になりながら、お風呂場の扉を開けた。
「遅い!」
オレがお風呂場で軽く体を流して部屋に戻っても、皇はちっとも戻って来ない。
まさか、何かあったんじゃ?
……。
ものすごい嫌な予感がして、さっき脱いだ着物を軽く着ると、和室から自分の部屋に急いだ。
「先生、雨花がお世話になっております」
部屋の前まで来ると、中からそんな皇の声が聞こえてきた。
先生、もう来たの?
急いで部屋の扉を開けると、いくつも引き出しが開けられたタンスの前で、今まさに盗りたてです!みたいな感じで、オレのパンツを掴んでいる皇と、顔をしかめているいちいさんと、ニコニコしている高遠先生が立っていた。
「ちょおおおおお!先生!ごめんなさい!着替えたらすぐ行きますから!」
オレは皇の手を引っ張って、急いで和室に戻った。
「何だ?先生に失礼ではないか」
「オレのパンツ持ちながら、普通に挨拶してるお前に言われたくないよ!」
オレはさっと着替えて、勉強道具を抱えた。
「行ってくる!」
「ああ。先生に失礼を詫びるのだぞ」
失礼なのは、お前だと思うけど。
「わかった」
「行って参れ」
皇が、オレにふっとキスをした。
「……ん」
さっきはパンツ泥棒みたいだった皇に『行って参れ』なんて見送られるとか……何か……。
「……」
幸せ……かも。
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