193 / 584
微触⑧
✳✳✳✳✳✳✳
「ん……」
何か、重い。
ん……何?
腕に乗る重みを確かめるように触ると、指らしき物がピクリと動いて驚いた。
「っ!」
あ、そっか。これ、皇だ。ん?ちょっ……あれ?
覚醒していく頭で、状況判断するに……オレは現在、こたつに入っていて、後ろから皇に抱きしめられているらしい。
あのまま、こたつで寝ちゃったんだ。すぐそこに布団が敷いてあるっていうのに。畳の上で組み敷かれて、そのまま……。
恥ずぅっ!!
時計を確認すると、4時を過ぎたところだった。
いくらなんでも起きるには早いかな?
皇の腕が重くって、体制を変えようと身動ぎすると、皇がビクッと体を震わせた。
「あ」
起こしちゃった?
「……早いな」
掠れた声が、頭の中で、夕べのアレと直結する。
……恥ずっ!
「オレ、夕べお風呂入ってないから入って来る」
このまま皇の腕の中にいるのが恥ずかしくなって、オレはそんな理由をつけて、こたつを出た。
「どぅあっ!!」
こたつを出てすぐ、自分の下半身が真っ裸なのに気が付いた。上はセーターを着てたから、全然気付かなかった!
ぎゃあ!
「良い眺めだ」
肘をついてオレを見上げている皇が、そう言ってニヤリと笑った。
「見るなっ!」
こたつ布団を足で蹴り上げて、皇の顔にかぶせると、オレはその場にしゃがみこんだ。
オレのパンツどこっ!?ズボンはっ?!
「今更隠そうが、余の頭には、そなたの裸体がすぐ浮かぶ」
こたつ布団から顔を出した皇の手には、オレのパンツが握られていた。
「浮かばせんなっ!パンツ返せ!」
皇はあっという間にこたつから出て来ると、素肌に羽織っただけの着物を広げて、オレを腕の中にふわりと包み込んだ。
「なっ……に、してんだよ」
「余に見えねば良いのであろう?早く風呂に入れ。風邪をひく」
皇は、着物で包んだままのオレをヒョイっと持ち上げて、お風呂場に向かって歩き出した。
見えねば良いのであろうって!もっと別の方法がいくらでもあるだろうが!
「そっ、ちょっ!ちょおおおっ!」
……で。結局そのまま、当然という顔で一緒にお風呂に入って来た皇に『この和室が気に入ったなら礼に背中でも流せ』とか言われ……流しているうちに、何故そうなったのか、いつの間にかオレが洗われていて……。なし崩しに……その……いやらしい展開に……。
「うっ」
また朝っぱら、ハレンチなことをしてしまった。
「どうした?のぼせたか?」
湯船に一緒に浸かっている皇は、オレを後ろから包み込んで、オレの髪をつまんでは離すという動作を繰り返していた。
……この無駄に機嫌のいい感じが、何かムカつくんですけど。
「お前、急がないでいいの?」
「ん?」
「毒見役さん、待たせたら駄目なんじゃないの?」
皇はオレの髪にキスをすると『そうだな』と、ため息混じりに呟いた。
「もうここで朝餉はとれぬ。急ぐとするか」
「え?!何で?」
何それ?もう一緒に朝ご飯は食べられないってこと?
ビックリして皇を見ると”ん?”という顔をしたあと『ああ』と言いながら、頭の後ろで手を組んだ。
「ここで朝餉をとったのを家臣団に咎められた。そなたを優遇しておると噂が出ても良いのか、とな」
「えっ?!大丈夫なの?」
皇、怒られちゃったの?
家臣団って、いまいちよくわかってないけど、皇の話を聞いている限り、怖い人たちなんだろうって、オレの中にはインプットされている。
「ん?」
「咎められたって……」
皇がここで朝ご飯を食べていったのは、オレにだって責任がある。
「ああ、そなた余を案じておるのか?……たまには小言を聞くのも悪くないな」
皇がそう言ってふっと笑った。
「はぁ?大丈夫なの?」
皇は『余を誰だと思うておる』と、顔をしかめた。
「雪見の日、松の丸で朝餉をとった。来月は樺の丸で朝餉をとる。それで家臣団も納得するであろう」
皇は『案ずるな』と言って、オレにふいにキスすると、ザブッと湯船から外に出た。
「そなたはゆるりと入って参れ」
皇は脱衣所に消えて行った。
雪見の日、松の丸で朝餉をとったって……皇が雪見会の日、朝遅くまで松の丸にいたのって、オレが優遇されてるなんて言われるのを、防ぐ、ため?
急に体の中心から、ブワッと熱くなって、オレも急いで風呂を出た。
……どうしよう。めちゃくちゃ、嬉しい。
あの日あんなに落ち込んだのに、あれがオレのためだったなんて……。
脱衣所から部屋に戻ると、すでに皇はキチッと着物を着終えていた。
「ああ、そういえば」
思い出したように、皇が顔をしかめた。
「昨日はバレンタインデーであったな。そなた、余のいぬ間に誰かに何かを貰ったりしておらぬであろうな?」
うわぁ!皇にもバレンタインデーなんて意識、あったんだ?
っていうか!お前それ、墓穴掘ってるからな!
昨日、皇の机に入っていた小さな箱を思い出した。
誰かに何かを貰ったのは、お前だ!お前!
オレに反撃のチャンス到来!
ともだちにシェアしよう!