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微触⑧

✳✳✳✳✳✳✳ 「ん……」 何か、重い。 ん……何? 腕に乗る重みを確かめるように触ると、指らしき物がピクリと動いて驚いた。 「っ!」 あ、そっか。これ、皇だ。ん?ちょっ……あれ? 覚醒していく頭で、状況判断するに……オレは現在、こたつに入っていて、後ろから皇に抱きしめられているらしい。 あのまま、こたつで寝ちゃったんだ。すぐそこに布団が敷いてあるっていうのに。畳の上で組み敷かれて、そのまま……。 恥ずぅっ!! 時計を確認すると、4時を過ぎたところだった。 いくらなんでも起きるには早いかな? 皇の腕が重くって、体制を変えようと身動ぎすると、皇がビクッと体を震わせた。 「あ」 起こしちゃった? 「……早いな」 掠れた声が、頭の中で、夕べのアレと直結する。 ……恥ずっ! 「オレ、夕べお風呂入ってないから入って来る」 このまま皇の腕の中にいるのが恥ずかしくなって、オレはそんな理由をつけて、こたつを出た。 「どぅあっ!!」 こたつを出てすぐ、自分の下半身が真っ裸なのに気が付いた。上はセーターを着てたから、全然気付かなかった! ぎゃあ! 「良い眺めだ」 肘をついてオレを見上げている皇が、そう言ってニヤリと笑った。 「見るなっ!」 こたつ布団を足で蹴り上げて、皇の顔にかぶせると、オレはその場にしゃがみこんだ。 オレのパンツどこっ!?ズボンはっ?! 「今更隠そうが、余の頭には、そなたの裸体がすぐ浮かぶ」 こたつ布団から顔を出した皇の手には、オレのパンツが握られていた。 「浮かばせんなっ!パンツ返せ!」 皇はあっという間にこたつから出て来ると、素肌に羽織っただけの着物を広げて、オレを腕の中にふわりと包み込んだ。 「なっ……に、してんだよ」 「余に見えねば良いのであろう?早く風呂に入れ。風邪をひく」 皇は、着物で包んだままのオレをヒョイっと持ち上げて、お風呂場に向かって歩き出した。 見えねば良いのであろうって!もっと別の方法がいくらでもあるだろうが! 「そっ、ちょっ!ちょおおおっ!」 ……で。結局そのまま、当然という顔で一緒にお風呂に入って来た皇に『この和室が気に入ったなら礼に背中でも流せ』とか言われ……流しているうちに、何故そうなったのか、いつの間にかオレが洗われていて……。なし崩しに……その……いやらしい展開に……。 「うっ」 また朝っぱら、ハレンチなことをしてしまった。 「どうした?のぼせたか?」 湯船に一緒に浸かっている皇は、オレを後ろから包み込んで、オレの髪をつまんでは離すという動作を繰り返していた。 ……この無駄に機嫌のいい感じが、何かムカつくんですけど。 「お前、急がないでいいの?」 「ん?」 「毒見役さん、待たせたら駄目なんじゃないの?」 皇はオレの髪にキスをすると『そうだな』と、ため息混じりに呟いた。 「もうここで朝餉はとれぬ。急ぐとするか」 「え?!何で?」 何それ?もう一緒に朝ご飯は食べられないってこと? ビックリして皇を見ると”ん?”という顔をしたあと『ああ』と言いながら、頭の後ろで手を組んだ。 「ここで朝餉をとったのを家臣団に咎められた。そなたを優遇しておると噂が出ても良いのか、とな」 「えっ?!大丈夫なの?」 皇、怒られちゃったの? 家臣団って、いまいちよくわかってないけど、皇の話を聞いている限り、怖い人たちなんだろうって、オレの中にはインプットされている。 「ん?」 「咎められたって……」 皇がここで朝ご飯を食べていったのは、オレにだって責任がある。 「ああ、そなた余を案じておるのか?……たまには小言を聞くのも悪くないな」 皇がそう言ってふっと笑った。 「はぁ?大丈夫なの?」 皇は『余を誰だと思うておる』と、顔をしかめた。 「雪見の日、松の丸で朝餉をとった。来月は樺の丸で朝餉をとる。それで家臣団も納得するであろう」 皇は『案ずるな』と言って、オレにふいにキスすると、ザブッと湯船から外に出た。 「そなたはゆるりと入って参れ」 皇は脱衣所に消えて行った。 雪見の日、松の丸で朝餉をとったって……皇が雪見会の日、朝遅くまで松の丸にいたのって、オレが優遇されてるなんて言われるのを、防ぐ、ため? 急に体の中心から、ブワッと熱くなって、オレも急いで風呂を出た。 ……どうしよう。めちゃくちゃ、嬉しい。 あの日あんなに落ち込んだのに、あれがオレのためだったなんて……。 脱衣所から部屋に戻ると、すでに皇はキチッと着物を着終えていた。 「ああ、そういえば」 思い出したように、皇が顔をしかめた。 「昨日はバレンタインデーであったな。そなた、余のいぬ間に誰かに何かを貰ったりしておらぬであろうな?」 うわぁ!皇にもバレンタインデーなんて意識、あったんだ? っていうか!お前それ、墓穴掘ってるからな! 昨日、皇の机に入っていた小さな箱を思い出した。 誰かに何かを貰ったのは、お前だ!お前! オレに反撃のチャンス到来!

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