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パリは萌えているか①
2月17日 晴れ
今日から神猛学院高等部の修学旅行です。
朝早く学校に集合して、パスポート確認のあと乗り込んだバスは、あっという間に発車した。
どうやら羽田空港に向かっているらしい。
神猛の高等部は、どの学年も1クラス24人で4クラスある。
クラスごとに乗り込んだバスの中で、担任から初めて『旅のしおり』なるものが配られた。
いや、しおりというにはあまりに分厚い!こんなに書くことあるなら、もっと早く渡してよー!
中をペラペラとめくると、分厚い上に文字だらけだ。
何なの、この取扱説明書的しおり……。
「さて。そこに書いてある通り、これからお前たちにはパリで生活してもらう」
うん。パリで……生活?え?何か言い方おかしくない?しかも書いてある通りって、先生!どこに書いてあるんですか?
1ページ目を読んでみると、この修学旅行について、一切の口外を禁止するという旨の内容が、延々と書かれていた。
サクラが言ってた口外禁止って、本当だったんだ?
「そのための班分けを10分間で終わらせるぞー。六人で一つの班を作れ!」
担任の言葉を聞き終わらないうち、すぐ後ろに座っていたサクラが『ここ決まりましたー!』と、自分の手を挙げなげら、田頭とかにちゃんと、オレの手を挙げさせた。
まぁ、この四人は決まりだよねって思ってたけど……あと二人は?
ふと後ろを見ると、サクラの後ろで、すでに皇とふっきーが手を挙げさせられていた。
……うん。何かそんな気、してたよ、サクラ。
班分けはすぐに決まって、それから空港まで、今回の旅行についての説明を受けた。
これからオレたちはパリに行くこと。
そこから各々決められたアパルトマンに向かい、そこで五日間、自分たちだけで生活をすること。
いつもは家族に守られ、家事なんてしたことがないだろうこの学校の生徒に、いかに自分たちが普段支えられ生きているのかっていうのを実感させるのが、この修学旅行の目的なのだということ。
この修学旅行が、来年の進級の際のクラス分けの、最終選考なんだということ、などなど……。
さらにオレたちは、空港に着く前に、先生に財布と携帯を預けさせられて、この修学旅行での簡単なルール説明を受けた。
五日間、一人だけで外出してはいけない。
決められた金額の中で、五日間生活しなければいけない。
外食は一日一回だけしかしてはいけない。
親に助けを求めてはいけない。
毎日必ず班でどこかに観光に行き、証拠写真を付けた日記と、毎日の会計報告を提出しなければいけない……などなどだ。
「あとの細かいルールはしおりを読んでおくように。ルール違反があった場合、ペナルティが課される。ペナルティ一つで毎日支給されるユーロが半額だ。三つで停学処分だぞ。いいなー!」
いいなーって、先生!良くないでしょ?
「ま、オレたちには生徒会特権があるからな」
オレの隣でかにちゃんがそんなことを言うと、先生はすかさずそれに反応した。
「生徒会特権なんぞこの修学旅行では無効に決まってるだろ!蟹江、お前今回の旅行の目的を聞いていたのか?」
「ええっ?!」
確かに、先生が許しても、他の生徒がそんな特権認めないでしょ?
「先生ー!外食一日一回って、あとの二回はどうしろって言うんですか?」
後ろのほうからそんな声が聞こえてきた。
え?作ったらいいんじゃないの?
どんだけ坊っちゃんなんだ、こいつら。
「それは自分たちで考えろ。食べないも良し、料理するも良し、物乞いするも良し。毎日、金の使い方をチェックするから三食外食しようもんならすぐわかるぞ!ごまかしたのがわかれば即ペナルティな。そのつもりでごまかすなら全力でごまかせよ」
「厳しいっすよ!先生!」
「一人でどうにかしろと言っているわけじゃないんだ。六人で協力して友情を育め!本当に困ったことがあったら私に電話しろ!」
そう言って先生は、班長に携帯電話を二台配った。
「その携帯で通じるのは、先生たちの携帯と、班のもう一台の携帯にだけだ。お前たちの親からはすでにこの旅行について了承を得ている。下手に親に助けを求めても無駄だからな」
バスの中がザワザワしている間に、羽田に着いた。
チャーター便は、オレたちが乗り込むとすぐに羽田を飛び立った。
「え?っつかホント、どうしろと?オレ、フランス語わかんねーよ?」
かにちゃんがそう言うと、サクラが『英語でイケるっしょ?』と親指を立てた。
「日本で英語話すよりは、通じるよ、多分」
オレがそう言うと田頭が『ばっつんフランス詳しいのか?』と、食いついてきた。
「詳しいっていうか……」
小さい時だけど、三年ぐらい?住んでたし。
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