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パリは萌えているか②

そんなこんなで、ド・ゴール空港に着き、班ごとにミニバスに押し込められ、うちの班が連れて行かれたのは、エッフェル塔がすぐ近くに見えるパリ7区のアパルトマンだった。 先生は鍵を渡すと、自分は近くのホテルに滞在しているから、何かあったら電話をするようにと言って、すぐに出て行ってしまった。 サクラが一番に中に入って、閉まっている扉を、端からダンダン開けて行った。 「部屋割りどうしよっか?もちろん僕ときみやすは同室ね」 「は?」 田頭とサクラが同室?え?二人部屋なの? 一番近くの部屋を覗くと、ダブルベッドがデーンと置かれていた。 うっそ!ダブルベッド三部屋?! 焦って他の部屋も覗くと、ダブルベッドが二部屋と、セミダブルが二部屋の計四部屋のベッドルームがあった。 ダブルベッド三部屋より、この四部屋の方が部屋割りがややこしいんじゃないの?! 「んじゃ、あとは四人で部屋割りよろしくー」 田頭とサクラは、さっさとダブルベッドの部屋に入ってしまった。 ええっ?!あとは四人でって……この四人でどうしろと? 「まずは、誰と誰がダブルベッドで寝るか……だよな。どうする?オレとばっつんでいくか?」 かにちゃんがそう言うと、皇が即座に『駄目だ』と、反対した。 「そう?じゃあ、がいくんとばっつんがダブル……」 かにちゃんの言葉に、今度はオレが即座に反対した。 「それは駄目!」 オレだけ皇と一緒とか、駄目だよ!ふっきーもいるのに。 「じゃあ、がいくんとふっきーか?」 かにちゃんのその意見に誰かが反応する前に、オレは『はいっ!』と手を挙げた。 皇とふっきーが同室になるとか、そんなの……。 それなら、オレがふっきーと同室になったらいいじゃんか! かにちゃんが『はい、ばっつん』と、オレを指差した。 「オレとふっきーがダブル……」 そう言い終わらないうちに、皇が『駄目だ』と、さっきよりきつく反対した。 「えっ?!どうして?!」 お前の嫁候補同士なんだし、何の問題もないじゃん! どっちかがお前と同部屋になるより、よっぽど円満解決だろ! 「私と蟹江が同室になる」 「ぅえっ?!」 かにちゃんと一緒に、驚いて大声を上げた。 皇とかにちゃんが、ダブルベッドで寝る?! 「あー、まぁそれでもいっか。この際がいくんと友情を育もうじゃないか!オレの将来のためにもなー」 そう言ってかにちゃんは、ダブルベッドの部屋に入って行った。 え?マジ?!マジで皇が、かにちゃんとダブルベッドで一緒に寝るの?!五日間も?! 「……」 うわー……何かすごいやだ。 でも……皇とふっきーが同室よりは、まだモヤモヤ度は低い。うん、断然低い。 っつか!サクラとオレが同室で、田頭とかにちゃんが同室になれば良かったんじゃないの?!はい、それ! サクラだったらさすがに皇も反対しな……いや、するかな?ふっきーが駄目だったんだよ?それならサクラだって、駄目か? ……そう思ったら、もうこれ以上良い分け方はない気がしてきた。 「はあ……」 初日からこの前途多難感……先が思いやられるよ。 荷物を部屋に置いたあと、リビングでこれからどう生活していくか六人で話し合った。 決められた金額の中で、観光もして生活するとか、こいつらに出来るの? オレもここに住んでたって言っても、本当に小さかった頃だし。あとは観光でしか来たことないから、生活出来ます!とか、自信を持っては言えないけど。 とりあえずパリ云々よりも、家事を一切したことないとかほざいているこいつらよりは、散々家の手伝いをさせられてきたオレのほうが、家事能力は高そうだ。 そんなこんなで、オレが家事全般の指揮をとることに決まった。 この神猛に入ってから、初めてこいつらに勝ったと思えたのが家事能力っていうね。……全然喜べない。 「んじゃ買い物行ってくる。皆はエッフェル塔行って来て」 午後ここに着いたばかりで、今日から観光ノルマが課されるとか、過酷過ぎるでしょ。 でも、取扱説明書……あ、しおり!しおりを見てみたら、全員揃って観光をしないといけないわけではないみたいだから、オレは買い物、他の皆は観光と、手分けしてノルマ解消することにした。 「ばっつん、誰と行く?一人行動は禁止だぞ?」 「あ、そうだった!」 「僕たちフランス語わかんないし、何かあった時ばっつんの助けになれそうな、がいくんがお供がいいと思う!よろしくー!」 サクラが皇の背中を押した。 「えっ?!」 咄嗟にふっきーを見ると、ニコニコしながら頷いている。 ふっきーならそうしてくれるだろうって、見なくてもわかってたけど……。 だからこそ余計、皇と二人で行動するのが躊躇われるんだ。 何か、申し訳なくなっちゃって……。 あ、だったら! 「行くぞ」 皇がオレの背中を押した。 「え……あの!」 『ふっきーと三人で行こうよ』って、言おうと思ったんだけど……。 「そなたが行かねば皆が困る」 皇に小さい声で囁かれて、オレはそのまま皇と二人で外に出た。 三人で行こうって、言えなかった。言おうと思えば言えたのに……。 自分がすごくズルイことをしてしまった気がして……胸が、痛んだ。

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