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パリは萌えているか⑤
翌朝六時に目が覚めて、朝ご飯を作っていると、サクラが一番に起きて来た。
「うわぁ、いいにおーい!」
「おはよ、サクラ」
「おっは」
「あのさ、夕べ、変な音聞こえなかった?」
サクラと田頭の部屋は、オレの部屋のすぐ隣だ。皇たちとふっきーの部屋は、リビングを挟んだ反対側だから気付かなかったかもしれないけど、サクラたちだったら、あのギィギィいう音が聞こえたかもしれない。
「え?変な音?」
「うん。ギィギィっていう、何か、木がぶつかるみたいな音」
「ん?……あっ!」
「サクラも聞こえた?!」
「ベッドの音かな?」
「……は?」
ベッドの音?え?
「ここんとこご無沙汰だったもんで、夕べ、きみやす激しかったから」
「……」
ベッドの音って……激しかったって……。
「ばっつん?あれ?わかんない?きみやすがシャトルランで……」
「やめいっ!」
田頭がシャトルランって何?!
意味はわからないけど、激しかったって……そういう、ことしてたってことでしょっ?!
オレ、そんな音を怖がってたわけ?とてもじゃないけど、皇には言えない。夕べ、何回もオレのとこに様子を見に来てくれて……皇、絶対寝不足だよ。
そんな音を怖がって皇を寝不足にしちゃったなんて思ったら、ものすごく申し訳ないじゃん!
うう……サクラめ!っていうか、ギシギシさせたのは田頭のほうか?……いや、そんなのどっちだっていい!
とにかく幽霊とかじゃなくて良かった!五日も幽霊を怖がりながら一人で寝るなんて、ちょっと無理だもん。
朝ご飯は簡単にと思って、オープンサンドのタルティーヌにした。バタールを切って野菜とか卵とか、お皿に盛り付けただけの簡単なものだ。
起きてきたみんなに、こんな風に食べるんだよと、見本として作ったタルティーヌを、何気なーく皇のお皿に乗せた。
「ちょっと、ばっつん!何でがいくんにばっかりあげてんの?ズルイ!」
サクラが目聡く突っ込んで来た。
ズルイってサクラ……オレのこと応援するって言ってなかった?食べ物に関しては別なの?ねえ!
あ。そういえばサクラって、未だに野菜サンドにハマってたんだっけ。
っていうか、サクラにズルイって言われても、何とも思わないんだな、オレ。
昨日はあんなに自分のことズルイって責めてたのに。
ま、相手がサクラだからか。
「皇、不器用だから」
本当はオレのせいで、寝不足にしちゃった皇に、お詫びがしたかったからなんだけど。
っていうか!その原因、お前らだろうが!……言えないけどっ!
「嘘だ!がいくんが不器用なわけないじゃん!」
ホントだもん!こういう簡単そうなことこそ、皇には出来そうにないんだもん!
「美味い」
言い争うオレとサクラを尻目に、タルティーヌを一口食べた皇が、本気で驚いたように呟いた。
うわ……何か、キュンって……。
何だ、これ!自分で作った料理をウマイとか言われるのが、こんなキュンとくるなんて……恥ずっ!オレ、顔赤くなってるんじゃない?!
「ホント、マジで美味いよ、ばっつん!いつもは大らか通り越してズボラなのに、こんな繊細な味を出してくるとはな」
田頭のテンションには慣れてるつもりだったけど、なんなの?このウザいハイテンションは!
ウマイって言われるのは嬉しいけど、それ、ほとんどオレ、料理してないから。むしろ繊細な味にしたのは、具材をチョイスしたお前だから。
「……」
田頭のこの無駄なハイテンションの理由が、昨夜のサクラとのアレなのだろうと思うと、ちょっとムカつく。こっちはあんなに怯えたっていうのに!
まぁでも、今夜またあの音が聞こえてきても、怖がらずに眠れると思えばいい……って、いいわけあるか!そんな音がしてきたら、田頭とサクラが、そんなことしてるってことじゃん!
うおおおお!ちょっと!そっちのほうがある意味眠れないじゃん!
悶々としたまま朝食は終わり、オレは気分を変えるためにも、早々にマルシェに向かうことにした。
昔住んでいた16区のマルシェに行ってみたいとみんなに話すと、皇が『自転車で行くか』と、一緒に行く気マンマンなことを言うので、ふっきーのことも誘ってみた。
昨日は気分的にモヤモヤしたし、やっぱりここはフェアにいこう!って思ったから。
でもふっきーから『自転車苦手なんだ』と、断られてしまった。
え?いいの?断っていいの?オレが皇と二人で買い物行っちゃっていいの?
『いいの?』とふっきーに聞くと『雨花ちゃんに頼みっぱなしでごめんね』と、謝られてしまった。
オレなら、ふっきーと皇が二人でお出かけとか、もう絶対にヤキモキするのに……。
『行くか』と、オレの背中を皇が押すと、田頭が『オレも行ってみたい』と言い出した。
えっ?マジで?
するとサクラもすかさず『僕も行く!』と、手を挙げた。
「サクラ自転車乗れるのか?」
田頭がそう聞くとサクラは『あ、乗れないかも』と、顔を赤くした。
何だ?このこそばゆい雰囲気は!乗れないって、まさか……。
「サクラ自転車乗れなかったっけ?」
昨夜のことを知らないかにちゃんが、そんな素朴なツッコミをするから、サクラは顔を赤くしたまま『乗れるけど、今日は乗れそうにない』と、はにかんだ。
『は?』と、本気でわかっていないかにちゃんに、サクラは『夕べきみやすに乗られたから』とか言いながら、顔を隠した。
何だ、それ?!無駄にうまいこと言いやがって!ちょっとウケちゃったじゃん!もー!昨夜のオレの恐怖心を返せっ!
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