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パリは萌えているか⑥

サクラが自分だけ行けないなんてと駄々をこね始めたので、結局皇と二人で出掛けることになった。 二月のパリはものすごく寒い。そんな中、皇と二人、自転車を借りてマルシェに向かった。 引越したあとも、何度かパリには遊びに来たけど、マルシェにはここ何年も行ってない。 ここに住んでいた頃は、柴牧の母様とよく一緒にマルシェに買い物に行ったっけ。すごく懐かしい場所だ。 もしかすると、オレの中にある一番古い記憶って、マルシェで迷子になったことかもしれない。 後ろからついてくる皇の自転車姿は、思った以上に様になっていた。 皇って、何をしたらカッコ悪くなるんだろう? 口開けて寝ててもカッコイイんだから、トイレに入ってても、ロダンの彫刻みたいかも。 マルシェに着くと皇が『自転車もいいものだな』と、腕を組んだ。 うん、それは本当に同意する。 ちょっとさむいけど……。 「何をにやついておる」 「え……オレも、自転車楽しいなぁって思って」 皇と二人乗りとかしてみた……って、女子か!自分の妄想があまりに恥ずかしくて、顔が熱くなってしまった。 「そうか、楽しいか。次の誕生日まで待てるか?」 「は?」  何の話? 「余が贈るゆえ、いくら楽しいとはいえ、自ら買うでないぞ。雨花に自転車を贈らぬよう、皆にも言うておかねばならぬ」 「何それ」 「そなたへの贈物にはいつも悩まされるゆえ、これは逃せぬ」 お前の中でどんだけわがままキャラだよ?オレ。 「他の人には迷わないの?」 「他の者は何を贈っても喜んで見せるが、そなたは違う」 「そんなことないよ!」 この前の誕生日も、同じようなこと言われた気がする。 えー!?オレ、石ころ一個でも、そこに皇の気持ちが入ってるなら、すっごく大事にするよ? 皇は『そなたに会うまでは、余からの贈物は誰でも、どのような物であっても喜ぶものなのだと思うておった』と笑った。 何それ!オレがお前からプレゼントを貰って、喜ばなかったみたいじゃん! 『お前から何か貰って嫌だなんて言ったことないじゃん!』って言うと、『都合の悪いことは忘れるのだな』と、おでこを突かれた。 えー?!オレ、皇からのプレゼント、気に食わないなんて言ったことあった? 何の心当たりもない。 首を傾げると皇は『消しゴムだ』と言って顔をしかめた。 消しゴム? また首を傾げると『そなたが消しゴムを忘れた時、余がくれてやると言うたに、それは好まぬと断りおったではないか』と、ちょっと口を尖らせた。 あ……思い出した! 席替えで皇の隣になったばっかりの頃、三日連続で消しゴムを忘れた時の話だ! 確かにオレ、消しゴムくれるって言った皇に『そういうの好きじゃないから』って言って、断った。 でもそれ、その消しゴムが嫌って意味で言ったんじゃなくて、物を貰うのが嫌って意味で言ったんだ。 その前にシャープペンの芯も貰ってたし、貰ってばっかりは気が引けて……。 結局、その翌日も消しゴムを忘れてあっさり貰ったんだけど……。 『あれ、そんな気にしてたの?』と言うと、皇はため息を吐いて『翌日余は違う種類の消しゴムを用意し、ようやくそなたは受け取ったのではないか』と、オレを睨んだ。 「いや、あれは!あの消しゴムが嫌って意味で言ったんじゃなくて、物を貰うのが嫌って意味で言ったんだよ。オレなりに遠慮してああ言ったのに」 皇ってちょいちょい、おかしな思い違いをするんだから。 「遠慮しておる者が、好まぬから要らぬなどと申すか?」 「実際申しちゃったんだから仕方ないだろ」 「どちらにしろ、そなたは余に対し畏怖の念がないということだ。鎧鏡を知る者で、余を鎧鏡の次期当主として扱わぬのは、昔馴染みの者共とそなたくらいだ」 「昔馴染み?」 そう聞くと皇は、同じ幼稚園に通っていた”幼馴染”と、今も交流があるのだと言った。 皇が通っていた”幼稚園”は、女人禁制の家の子ばかりが通う特殊な場所で、そんな特殊な家柄に生まれた者同士、気が合うのだろうと、笑った。 「えっ?!ちょっと待って!他にも鎧鏡みたいなうちがあるの?」 「ああ。女人禁制を守る一族は鎧鏡が唯一ではない」 うっそー!鎧鏡家みたいな日本昔話なおうちが他にもあるなんて! マルシェの中を歩きながら、皇はその昔馴染みの話を、楽しそうに話してくれた。 「皇、友達いたんだね」 「あ?そなたは余をどれだけ見くびっておるのだ」 「え?別に見くびってないよ。浮世離れはしてるなって思うけど。話し方とかさ」 そうだそうだ!皇って、カッコ悪いとこなんてあるのかなって思ってたけど、こいつはとにかく話し方がおかしかったんだっけ! 慣れすぎちゃってどうも思わなくなってたけど、普通の人ならドン引きだよね。 「普通に話したほうが良いのか?」 「え?皇が楽なほうでいいんじゃん?」 「浮世離れと申したではないか」 「嫌とは言ってないじゃん。むしろ……」 そんな話し方のほうが、皇っぽくて……好きっていうか。 「ん?」 「お前、話し方がおかしいくらいでちょうどいいよ」 「やはりおかしいのではないか!」 「あははっ!」 「余とて変えようと思えば……」 「無理して変えないでいいってば」 だってオレ、そのまんまの皇が……好きなんだから。 「そのままがいい」

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