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パリは萌えているか⑨

皇は、足が震えて立ち上がれずにいるオレを抱えて、オレの部屋まで連れて行った。 オレをベッドに座らせて見下ろすと、そっと目尻を撫でた。 「泣くでない」 「だって……あんなこと……」 「口淫を知らぬのか」 「し……ってる、けど……」 夜伽教育でも習ったし……その前から、知ってたけど! 「けど何だ?」 「……ビックリしたんだよっ!バカ!」 だって自分が、皇にあんなことされるなんて……思ってもなくて。 だって皇が……あんなとこ……舐めるとか! 「そうか。驚いただけなら良い」 「はぁ?!」 何がいいんだよ!バカ!バカ! 皇は鼻で笑うと、ベッドに横になって、頭の後ろで腕を組んだ。 「そなたには仕置きも出来ぬ」 「もう十分しただろっ!」 「あれが仕置きか?そうであるなら、そなたはいつでも余から仕置きを受けておるということだ」 「……」 「余に抱かれるのは、嫌悪でしかないか」 「っ……」 そういうこと、聞くなよ、バカ! 「……そうは見えぬ」 皇は、座っているオレの腕を引いて、胸に抱きしめた。 「ちょっ!」 「そなたはそのような憎まれ口を叩くが、余はこれでも……大事に扱っておるつもりだ」 「……」 そんなの……わかってるよ。 「雨花。候補は一門にとって、何より守るべき存在だ。だがそなた自身が望んで危険に身を投じては、余とて守りきれぬ」 だって、気をつけろなんて言われたって、ジルがオレのこと、そんな対象に見るわけないって、思ってたんだ。 でも皇がいなかったら、もしかしたら、本多先輩の時みたいな事になってたかもしれない。 そう思ったら怖くなって……素直に皇に謝った。 「ごめん」 「仕置きの甲斐があったようだな」 「お仕置きされたから謝ったんじゃないし」 皇の腕の中から顔を上げると、皇は目を瞑って、大きく一度呼吸をした。 「雨花……」 「え?」 「少し……寝て良いか?」 「え?どしたの?」 「夕べ、寝ておらぬ。余は、人前で寝込むなと、育てられたゆえ……どうしても蟹江の隣で、寝ることが出来なかった」 お前、いっつもオレの前でグーグー寝てるじゃん!オレだって”人”なんですけど! とか思ったけど……。 オレの前でなら眠れるのかと思うと、嬉しいほうが、全然大きい。 「うん。許す」 そう言うと、ふっと笑った皇が『かたじけない』と、目を瞑った。 かたじけない、だって。笑っちゃった。 夕べ、皇はオレを心配して何度も様子を見に来てくれてるんだと思ってたけど、もしかすると、かにちゃんの隣じゃ眠れないって言おうと思って来てたのかも……。 皇の胸の上から頭をどかそうとしたら『そのままでおれ』と、さらに抱きしめられたので諦めた。 穏やかに上下する胸に耳を当てていると、こっちまで眠くなってくる。 オレも夕べ、皇が気になって、そんなに寝てないんだった。 皇に抱きこまれたまま、みんなが持っていった携帯に"ランチは行けないかもしれない"って、何とかメールだけ送って、オレもそのまま眠りこけてしまった。 ビクッと皇の体が震えて、目が覚めた。 その時『ただいまー!』というサクラの声が、玄関の方から聞こえてきた。 「……うおっ!」 すっかり皇の腕の中に収まって寝ていたオレは、ベッドから飛び起きてリビングに向かった。 「ただいまー!」 「お、かえりっ!」 ドキドキして、妙なテンションになってしまった。 だって、ついさっきまで、皇の腕の中で寝てたとか……バレてないよね? ふっきーの顔が見られない。 でも一緒に寝てたのは、皇が寝てないって言うからだし。その前のアレは……オレが悪いことをした"お仕置き"だし! 聞かれてもいないのに、心の中で言い訳ばかりがグルグル浮かんだ。 「あー!ばっつん、よだれの跡がついてるよ?寝てたの?あははっ」 「えっ?!」 サクラに指をさされた左頬を触ると、カピカピしたものが頬に張り付いていた。 「ちょ、ちょっとさっきまで、そこで……リビングで!あの、うたた寝、しちゃった」 「風邪ひくよ?ベッドで寝たら良かったのに。って、あれ?がいくんは?」 そこに、肩をコキコキ鳴らしながら、オレの部屋から皇が出てきた。 のおおおおっ! 「いやっ!皇は……あの!ベッドが合わなくて!夕べ、あんまり寝てないって言ってて!オレのベッドなら、眠れそうとか言うから!オレの部屋に!」 おお!オレもたまにはうまい嘘が付けるじゃん! 「そうなんだ?だったら今夜から、ばっつんの部屋で一緒に寝たら?」 「うえっ!」 なんつうことを言うんだ!サクラ!ふっきーがいるっていうのに! オレがワタワタしている隣で、サクラが不思議そうな顔で皇の胸を指差した。 「あれ?がいくんそこ、なんか……ん?濡れてる?」 「ん?」 「っ?!」 皇のダンガリーシャツは、胸のあたりが広範囲で色が変わっていた。 濡れてる、感じ……だよね?……うん。 さっきまでオレ、ちょうどあのあたりに、頭、置いて、寝てた。 皇のシャツが何で濡れてるかって、それ……オレの……よだれ?でしょうか? うおおお!誰も気付かないでっ!!

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