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パリで一緒に①
「顔洗ってくる!」
洗面所に逃げるように入って、顔を洗っていると、サクラが追うように入って来た。
「ばっつん」
「……何?」
「あのがいくんのシャツの変色が、ばっつんのよだれの跡ならいいのに」
「っ?!」
本当にビックリした時、人は声が出ないらしい。
「違う?」
「しっ……知らない」
「ふうん。……あ。がいくんのあのシャツのシミ、DNA鑑定しよう!そうだ!科学的にばっつんとがいくんがラブラブだっていう証明をしてみせる!じっちゃんの名にかけて!」
「お前のじっちゃん、アパレル会社の会長だろ!」
「あ、そうだった」
こいつのこの推理力の高さ、何?!
「いいじゃん、別に。僕ときみやすがヤってたのもバレちゃったんだし」
「バレちゃったじゃない!お前が勝手にバラしたんだろ!」
「そうだっけ?まぁどっちにしろ、僕ときみやすだって付き合ってるんだから隠すことないじゃん。仲間!仲間!」
「……」
サクラが田頭のことを、かにちゃんと取り合ってるとか言うなら、相談しないこともないけど……。
「ん?」
「別に……皇とは、付き合ってる、とかじゃ……」
「うえええ?!嘘でしょ?付き合ってない?……ちょっ、まさかがいくん、本当にふっきーと付き合ってるの?」
「……わかんない」
何をどうしたら”付き合ってる”になるわけ?
キスもセッ……も、してるけど……皇は、オレとだけしてるわけじゃないんだよ?
それでも皇はオレと"付き合ってる"になるの?ふっきーと"付き合ってる"になるの?
「でもがいくんは、断然ばっつんだと思うんだけど」
「えっ?それは……サクラがオレと仲いいからそう思うだけだろ」
「えーそうかな?」
「そうだよ」
「うーん、そう言われちゃうと反論出来るだけの確証はないけどさ。僕の勘なだけで。何かばっつん見てると、応援したくなるんだよねぇ。がいくんのこと大好きなのに、ツンツンしちゃってそうなとことかさぁ」
「はぁ?!嘘っ?!何それ!」
何で?!皇が好きなんてサクラに話したことないのに!
「自分じゃわかんないか。周りはみんなわかってるのに本人だけはわかってないとか、あるあるだよね」
「……ほぅ」
サクラのくせに、何かすごいまともなこと言った気がする。
「あ!いいこと考えた!」
「何?」
「ばっつんに自分の気持ちを教えてあげる方法だよ」
「はぁ?」
サクラは上機嫌で洗面所を出て行った。
オレに自分の気持ちを教えてあげる?
サクラはオレが皇のことを好きだって、自分で気付いてないとでも思ったのかな。
自分の気持ちなんて……とっくにわかってるよ、サクラ。
っていうかサクラ、一体何する気?
若干サクラが何をするのかビクつきながらリビングに戻ると、ふっきーが、オレと皇は昼ご飯を食べてないんじゃないかって、聞いてきた。『二人は全然観光してないんだから外で食べて来たら?』とか、言ってくれちゃって……。
っていうか、どうしてふっきーは自分からオレと皇を二人にするようなことが言えるわけ?
皇がいいならそれでいいって言ったって、二人っきりにしなくたっていいじゃん。
オレならそんなこと、絶対したくない!
「さっきふっきーもデザートしか食べてないよな?腹減ったんじゃん?」
田頭がふっきーにそう聞くと、皇が『食べに行くか?』と、ふっきーに声をかけた。
「あ、うん。雨花ちゃんは?」
ふっきーがオレに声をかけてくれたけど、オレは『お腹すいてないしパリ観光は飽きてるから』と言って、断った。
オレ、嫌な奴だ。
だって……皇は今、ふっきーのことを誘ったんだもん。だったら二人で行ってくればいいじゃん。
「じゃあ、みんなで行こうよ!」
サクラがそう言うと、田頭がすぐに『疲れたからパス』と言って、ソファに寝転がった。
「ええ?!かにちゃんは?」
「オレも嫁を愛でるタイムだからパス!」
かにちゃんは部屋に入ってしまった。
「サクラ、行く?」
ふっきーがそう聞くと、田頭がサクラの袖を引いた。
サクラはふっきーに『行かない』と、返事をした。
「そう?じゃあ行ってくるね」
皇とふっきーはコートを羽織って、玄関を出て行った。
玄関が閉まったと同時に、サクラが田頭に食ってかかった。
「何で止めたの?!」
「ふっきーのことも考えろよ。こっち来てから、オレら三人とずーっと一緒に行動してるけど、ふっきーはがいくんと二人のほうが、気ぃ使わねーんじゃねーの?」
田頭って、ホント生徒会長なんだよなぁ、こんなとこが。
あの二人と一緒に出掛けなかったオレの理由が、ただ拗ねただけとか、あまりに残念で、猛烈に自分が嫌になった。
「きみやすは正しいことばっか言ってムカつく!」
そう言って、サクラは自分の部屋に入ってしまった。
「オレ、政治家の息子だしなぁ」
田頭は、サクラを追おうとしなかった。
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