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パリで一緒に③
「何っ?!」
何でそんな悪そうな顔してんの?サクラ!
「心理テストだよ。知らない?どの指を選ぶかで、その人をどう思ってるかわかるってやつ。薬指を選んだ意味、今ここで教えてあげようか?」
そう言ってサクラは、さらに悪そうな顔をした。
さっきのDNA鑑定の話、まさかねーなんて思ってたけど、こいつなら本当にやりかねない!
そんなサクラの心理テストなんて、ろくでもないに決まってる!
今ここでその結果を発表されたら、間違いなくオレは、いたたまれない状況に陥るという予感がした。
「いっ……いい」
「ぷふっ。じゃあ、あとでこっそり教えてあ・げ・る!」
サクラは『ふぅろぉそうじぃぃ、できるかなぁぁ』と、妙な歌を歌いつつ、踊りながらお風呂場に消えて行った。
『ばっつんに自分の気持ちを教えてあげる』という、サクラの言葉が頭に浮かんだ。
そのいい方法を思いついたって言ってたけど、さっきのがそれ?まさかの心理テストかよ。
何するのかとドキドキしてたけど、サクラは所詮サクラだった。すごいおかしなことされなくて、安心したけどさ。
「あ!そういえばがいくん、ベッドが合わないんだよな?」
皇が風呂に入ると、皇の前に風呂に入っていたかにちゃんが、冷蔵庫からミネラルウォーターを出しながらそんなことを言い出した。
うっ……。
苦し紛れについたオレの嘘が、未だに生きてる!忘れてくれて良かったのに。
でも皇が眠れないのは本当だし。理由は違うけど。
「がいくんは、ばっつんの部屋で寝るんでしょ?」
サクラが”何言ってんの?”的に、そんなことを言い出した。
「いや!ちょっ、だってセミダブルだし!男二人で寝るとか無理だよ!」
焦って反対すると、サクラはきょとんとして首を傾げた。
「え?僕、二人で一緒に寝たらなんて言ってないけど?」
「っ?!」
なぬぅ?!さっきは一緒に寝たらって言ってたじゃん!
……確かに今は……言ってなかった?いや!だって!さっきは一緒に寝たらって言ってたから!
サクラめ!罠か?罠なのか?
「じゃあばっつんその気だし、一緒に寝たら?」
そう来たか!オレが皇と一緒に寝たがってる感じに持っていくとは!完全にサクラの罠じゃん!恥ずっ!
いやでも、このまま本当に一緒に寝ることになったとしたら狭いって!皇、いつもはすごい大きいベッドで寝てるし。
皇もオレも寝不足だったから、さっきはぐーぐー寝ちゃってたけど……。
「狭いっつの!」
「え?セミダブルでしょ?二人で寝られるんじゃないの?何で狭いって思うの?実際に二人で寝てみてもいないのに?」
サクラがまた悪い笑みを浮かべた。
こいつ、さっきの"皇のシャツが濡れてた事件"の犯人をオレにすること、まだ諦めていなかったのか?!
オレがアワアワしていると、田頭が『あ』と声を上げた。
田頭ー!助け舟出してくれるんだね!お前ホントいい奴だ!
「そういやぁ、ばっつんとふっきーの部屋のベッド、同じ種類なんじゃないのか?がいくん、ばっつんのとこのベッドで寝られるなら、ふっきーのとこのベッドでも良いんじゃね?」
なっ!何言っちゃってんの?!田頭!
それって……皇とふっきーが一緒に寝るのも有りって、こと?
ベッドが合わないなんて、オレが咄嗟についた嘘なのに!
え……どうしよう。本当のこと、話す?でも、そしたら皇がオレのベッドで寝てたのは何でってことになるじゃん!うおおお!
「そっか。すめは僕のベッドでも眠れるってことだ。どうする?どっちがすめと一緒に寝る?」
ふっきーは、オレに向かってニッコリ笑った。
ちょっと待って!いつの間に皇と一緒に寝るのが前提になったの!
っていうか、それよりも……。
「ふっきー、ちょっと」
オレはふっきーを引っ張って、自分の部屋に連れて行った。みんなの前で話すには、オレたちには秘密にしていることが多過ぎる。
「何?」
オレの部屋のソファに座ったふっきーが、またニッコリ笑った。
「どっちが一緒に寝るかって……オレが皇と一緒に寝ても、ふっきーはいいわけ?」
ふっきーはいつもそうやって、余裕顔でオレと皇を二人きりにしてきたりして……。
皇がいいならそれでいいって言うけど、ふっきーは本当にそれでいいの?自分以外の候補と皇が一緒に寝るように勧めるなんて、オレなら絶対出来ない!
「すめが眠れるならどっちでもいいよ。それがすめにとって一番大事なことでしょ?」
ものすごいふっきーらしい答えに、言葉を失った。
オレは……そんな風に思えない。
「オレは違う」
「え?」
「ふっきーが……そんな立派な理由でオレに皇を譲ろうとするから!オレだって……皇のこと、ふっきーに譲らなきゃいけないのかな、とか、思うんじゃん!」
オレがふっきーと同じ理由で、皇と同室になろうとするなら、きっと自分のこと、ズルいなんて思わなかったのに……。
「何それ?」
ふっきーはため息を吐いて腕を組んだ。
「僕がどう思おうが勝手じゃない?雨花ちゃんもどう思おうが勝手だけど、素直にすめと一緒にいたいって言えないのを、僕のせいにするのはおかしくない?」
「っ!」
ふっきーはまたため息をついて『別にいいけどね。それですめを僕に譲るっていうんならさ』と、オレを睨んだ。
「……」
「じゃ、僕がすめと一緒に寝るから」
「……やだ」
「え?」
「どっちかが皇と一緒に寝る必要ないだろ!皇はここに一人で寝かせる!オレはリビングのソファで寝る!それで決まり!」
オレはベッドスプレッドを掴んで、部屋を飛び出した。
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