207 / 584
パリで一緒に④
みんな各々部屋に入ってしまったリビングは静かで、耳鳴りがする。
ベッドスプレッドを体にグルグル巻きつけて、リビングのソファでふっきーのことを考えていた。
いつも優しくしてくれるふっきーに、あんな言い方されるなんて……思ってなかった。
でもふっきーが怒るのも当然だ。
皇をふっきーに譲らなきゃいけないなんていうのは、オレが勝手にそう思っただけで、ふっきーに頼まれたわけじゃない。
そんな風に考えちゃうのをふっきーのせいにするとか……最低だ、オレ。
「はぁ……」
リビングに戻った時、ちょうど風呂から出てきた皇を捕まえて『今夜はオレの部屋で寝ろ!』と、オレの部屋に押し込んだ。
その時ふっきーがオレの部屋から出て来たけど、一言も話さないまま、ふっきーは自分の部屋に入ってしまった。
オレ……このままふっきーと、仲が悪くなっちゃうのかな。
そう思うと、胸が痛い。
もともとふっきーはライバルなんだし、仲が良いほうがおかしいって思ってたし、ふっきーのこと、敵対視してたわけだし……。
「……」
なのに、ものすごく心がザワつく。
だって、完全にオレが悪いじゃん。
ふっきーの言うとおり、自分が素直になれないのをふっきーのせいにして、言い訳ばっかりしてきたんだ。
「駄目だ!」
このままじゃ眠れない。オレ、悪い奴のままじゃ嫌だ!
リビングのソファから立ち上がって、ふっきーの部屋のドアをノックした。
「はい」
「……オレ」
「……どこのオレ?」
そう言いながら、ふっきーはドアを開けてくれた。
「あの……」
「うん」
「ごめん!」
「……何が?」
「色々、ふっきーのせいにして……」
自分らしく行動したら、皇に選ばれないかもしれないって、怖かった。
だから、奥方候補ナンバーワンって言われてる、ふっきーみたいにならなきゃって思ったんだ。
でもオレは、ふっきーみたいにはなれなくて……それを全部"お手本"のふっきーが悪い!なんて、ふっきーのせいにしてたんだ。
「オレ、ふっきーみたいになりたいって思ってて……。ふっきーみたいにならなきゃ、皇の嫁には選ばれないって、思ってた。ふっきーが……羨ましかったんだ。でももう、そんな風に思うのやめる」
どんなにふっきーみたいになりたいって思ったって、オレはオレのまんまでしかいられないんだ。どう頑張ったって、ふっきーみたいに、皇が良ければ他の候補様に譲るなんてこと、絶対嫌なんだもん。
オレのまんまじゃ、皇に認めてもらえないかもしれないなんて怖がって、ふっきーみたいになろうと思ってたけど、もうやめる。
「オレは、ふっきーや駒様みたいに、皇がいいなら誰かに譲ってもいいなんて……そんなふうに思えない。だから譲らない。誰にも」
オレは皇を誰にも譲りたくないんだから譲らない!
ふっきーにはっきりそう言ったら、今までのモヤモヤがスカッとした。
「何か、意外。雨花ちゃんがそんなにすめのこと好きだったなんて」
「……好きだよ、すっごく。だからもう、ふっきーにも遠慮しないから」
ふっきーがオレに皇を譲るようなことをするのは、ふっきーが言った通り、ふっきーの勝手なんだし!
ふっきーに皇を譲られたって、気が引ける必要ないんだから!
「今まで僕に遠慮してたんだ?」
「してたよ。でももう遠慮しないから」
「うん。望むところだよ!」
何故かふっきーはおかしそうに笑って、オレをギュッと抱きしめた。
「ふえっ?!」
なんで?え?なんでこうなるの?普通はほら、もっとなんていうか、バチバチ!みたいな、そんな風になるところでしょ?
「はぁ……雨花ちゃんって、ホント可愛いね。改めてよろしく」
ふっきーはオレの体を離すと、このうえなくにっこり笑った。
「え、あ……うん。よろしく」
ふっきーは『じゃあ雨花ちゃんがすめと一緒に寝る?』とか、またそんなことを言ってきたから『オレはズルはしない!』と答えた。そうしたらふっきーは『何がズルなんだか。ま、いっか。おやすみ』と笑って、ドアを閉めた。
「……」
何がズルなんだかって……だって、みんなに嘘をついて皇の部屋を移動させておいて、そこでオレが一緒に寝るとか、何かズルいじゃん。
皇と一緒に寝たくて嘘ついたみたいでさ。それは本当に違うもん。それを証明するためにも皇と一緒には寝ない!
って……誰に対しての証明だって話だけど。
「……」
でもふっきーにハッキリ伝えられて、スッキリした。
ふっきーと仲が悪くなるかもって思ったけど、そうならなかった、んだよね?さっきの。
やっぱりふっきーって、いい奴、だよね。オレの普通とは大分考え方が違うけど……。
ふっきーがいい奴だから余計、自分が嫌な奴に思えちゃうんだ。
でももう、ふっきーにも遠慮しない。
好きなら誰にも渡したくないって思うのは、オレ的に当然なことだもん。母様だって、お館様のことは誰にも譲れないって言ってたし。そうだ!オレ的には全然間違ってない!
オレ……オレのまんまじゃ皇に選ばれないとか思ってたけど、でも……ふっきーの真似っこのオレじゃなくて、オレのまんまのオレを、皇に好きになってもらいたかったんだ、多分。
ともだちにシェアしよう!