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パリで一緒に④

みんな各々部屋に入ってしまったリビングは静かで、耳鳴りがする。 ベッドスプレッドを体にグルグル巻きつけて、リビングのソファでふっきーのことを考えていた。 いつも優しくしてくれるふっきーに、あんな言い方されるなんて……思ってなかった。 でもふっきーが怒るのも当然だ。 皇をふっきーに譲らなきゃいけないなんていうのは、オレが勝手にそう思っただけで、ふっきーに頼まれたわけじゃない。 そんな風に考えちゃうのをふっきーのせいにするとか……最低だ、オレ。 「はぁ……」 リビングに戻った時、ちょうど風呂から出てきた皇を捕まえて『今夜はオレの部屋で寝ろ!』と、オレの部屋に押し込んだ。 その時ふっきーがオレの部屋から出て来たけど、一言も話さないまま、ふっきーは自分の部屋に入ってしまった。 オレ……このままふっきーと、仲が悪くなっちゃうのかな。 そう思うと、胸が痛い。 もともとふっきーはライバルなんだし、仲が良いほうがおかしいって思ってたし、ふっきーのこと、敵対視してたわけだし……。 「……」 なのに、ものすごく心がザワつく。 だって、完全にオレが悪いじゃん。 ふっきーの言うとおり、自分が素直になれないのをふっきーのせいにして、言い訳ばっかりしてきたんだ。 「駄目だ!」 このままじゃ眠れない。オレ、悪い奴のままじゃ嫌だ! リビングのソファから立ち上がって、ふっきーの部屋のドアをノックした。 「はい」 「……オレ」 「……どこのオレ?」 そう言いながら、ふっきーはドアを開けてくれた。 「あの……」 「うん」 「ごめん!」 「……何が?」 「色々、ふっきーのせいにして……」 自分らしく行動したら、皇に選ばれないかもしれないって、怖かった。 だから、奥方候補ナンバーワンって言われてる、ふっきーみたいにならなきゃって思ったんだ。 でもオレは、ふっきーみたいにはなれなくて……それを全部"お手本"のふっきーが悪い!なんて、ふっきーのせいにしてたんだ。 「オレ、ふっきーみたいになりたいって思ってて……。ふっきーみたいにならなきゃ、皇の嫁には選ばれないって、思ってた。ふっきーが……羨ましかったんだ。でももう、そんな風に思うのやめる」 どんなにふっきーみたいになりたいって思ったって、オレはオレのまんまでしかいられないんだ。どう頑張ったって、ふっきーみたいに、皇が良ければ他の候補様に譲るなんてこと、絶対嫌なんだもん。 オレのまんまじゃ、皇に認めてもらえないかもしれないなんて怖がって、ふっきーみたいになろうと思ってたけど、もうやめる。 「オレは、ふっきーや駒様みたいに、皇がいいなら誰かに譲ってもいいなんて……そんなふうに思えない。だから譲らない。誰にも」 オレは皇を誰にも譲りたくないんだから譲らない! ふっきーにはっきりそう言ったら、今までのモヤモヤがスカッとした。 「何か、意外。雨花ちゃんがそんなにすめのこと好きだったなんて」 「……好きだよ、すっごく。だからもう、ふっきーにも遠慮しないから」 ふっきーがオレに皇を譲るようなことをするのは、ふっきーが言った通り、ふっきーの勝手なんだし! ふっきーに皇を譲られたって、気が引ける必要ないんだから! 「今まで僕に遠慮してたんだ?」 「してたよ。でももう遠慮しないから」 「うん。望むところだよ!」 何故かふっきーはおかしそうに笑って、オレをギュッと抱きしめた。 「ふえっ?!」 なんで?え?なんでこうなるの?普通はほら、もっとなんていうか、バチバチ!みたいな、そんな風になるところでしょ? 「はぁ……雨花ちゃんって、ホント可愛いね。改めてよろしく」 ふっきーはオレの体を離すと、このうえなくにっこり笑った。 「え、あ……うん。よろしく」 ふっきーは『じゃあ雨花ちゃんがすめと一緒に寝る?』とか、またそんなことを言ってきたから『オレはズルはしない!』と答えた。そうしたらふっきーは『何がズルなんだか。ま、いっか。おやすみ』と笑って、ドアを閉めた。 「……」 何がズルなんだかって……だって、みんなに嘘をついて皇の部屋を移動させておいて、そこでオレが一緒に寝るとか、何かズルいじゃん。 皇と一緒に寝たくて嘘ついたみたいでさ。それは本当に違うもん。それを証明するためにも皇と一緒には寝ない! って……誰に対しての証明だって話だけど。 「……」 でもふっきーにハッキリ伝えられて、スッキリした。 ふっきーと仲が悪くなるかもって思ったけど、そうならなかった、んだよね?さっきの。 やっぱりふっきーって、いい奴、だよね。オレの普通とは大分考え方が違うけど……。 ふっきーがいい奴だから余計、自分が嫌な奴に思えちゃうんだ。 でももう、ふっきーにも遠慮しない。 好きなら誰にも渡したくないって思うのは、オレ的に当然なことだもん。母様だって、お館様のことは誰にも譲れないって言ってたし。そうだ!オレ的には全然間違ってない! オレ……オレのまんまじゃ皇に選ばれないとか思ってたけど、でも……ふっきーの真似っこのオレじゃなくて、オレのまんまのオレを、皇に好きになってもらいたかったんだ、多分。

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