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パリで一緒に⑤

「よし!」 気分もスッキリしたところで、お風呂場に向かった。 服を脱いで顔を上げると、鏡にうつった自分の姿に驚いて二度見した。 「どぅえっ!?」 鎖骨から下、肌がポツポツと赤くなってる。 病気?!と、一瞬心配になったあと、今朝キッチンで皇にされた”お仕置き”を思い出した。 体中、きつく吸われた感覚が蘇る。 多分これ、あの時の、痕だ。 あれから結構時間が経ってるのに、こんなに痕が残ってるなんて……。 「十分お仕置きじゃん」 『あれが仕置きか』なんて、皇は言ったけど、十分お仕置きじゃん。こんないっぱい痕が残るくらい、強く……してさ……。 ……とか思いつつ、体が熱くなる。 今朝された、衝撃的な”口淫”の感触が蘇って、体がブルリと震えた。 いかーん!何をサカろうとしてんだ?オレ! 顔をベチベチと叩いて、体を洗うのもそこそこに、あっという間にお風呂から出た。 明日もマルシェに行くつもりなんだから、変なこと考えてないで早く寝なくちゃ! ソファに戻って、またベッドスプレッドをグルグル巻きにして寝ようとすると、カチャッとドアの開く音が聞こえた。 音のする方向からして、皇だろうとすぐにわかった。 トイレにでも起きたのかも。 オレは寝たフリをすることにした。 近付いてくる足音が、オレのすぐ隣でピタリと止まって、あったかい手の平が、オレの頭をそっと撫でた。 「起きておるのであろう?」 「……寝てる」 目を瞑ったままそう言うと、ふっと皇が笑ったのがわかった。 「余がここで寝る。そなたは部屋で寝るが良い」 「オレでジャストサイズのこのソファでお前が寝たら、朝には確実にエコノミー症候群だよ」 それに、人前で眠れない皇が、誰がいつ起きてくるかわからないこのリビングのソファでなんか眠れるわけないと思うし。 「では余と共に部屋へ参れ。このようなところで寝ては、風邪をひく。そなたに風邪をひかせては、柴牧家(しばまきや)殿に顔向け出来ぬ」 「……お前と一緒には寝ない」 「何故だ?」 何故とか言うか?すぐそこにふっきーがいるのに! 皇のこういう無神経なところ、本当にわかんない! ふっきーに遠慮しないとは言ったけど!ふっきーがすぐ近くにいるこの状況で、お前と一緒に寝るとか、普通の神経してたら出来るわけないだろ! もともとはオレがついた嘘のせいで、こんなとこで寝ることになってるわけだし……自分でついた嘘の尻拭いくらい、自分でしたいよ。 「いいから、お前はオレの部屋で一人で寝ればいいの!これ以上つべこべ言ったら……」 言ったら……どうしよう?そのあとなんて言ったらいいか考えてなかった! 皇に対する脅し文句が出てこない。 えっと……鎧鏡家を出る!とか、冗談でも言いたくないし。皇を脅せるようなネタ……絞りだせばオレにだって何かあるはず!何か……。 あ、そうだ! 「言ったらなんだ?」 「自分で自転車買っちゃうからな!」 ……って、これ、全然脅してないしー! 「……わかった。そなたの部屋で一人で寝る」 脅しになってるー! っていうか、こいつはどんだけオレへのプレゼントに困ってるんだよ。 皇はスゴスゴとオレの部屋に戻って行った。 うわぁ!何だろう?この晴れやかな気分! 鼻の穴を膨らませて喜んでいると、皇はすぐにまた部屋から出て来た。その手に毛布を抱えている。 「そのような薄物では風邪をひく。もう一枚掛けて寝ろ」 そう言って、皇はオレに毛布を掛けて、上からキュッと抱きしめると、すぐに部屋に戻って行った。 「はあ……」 ホントはオレだって……一緒に……。 また体がジンっと熱くなり始めて、オレはギュッと目を瞑った。 ピンポーン……ピンポン……ピンポン、ピンポンピンポンピンポン……と、玄関チャイムがけたたましく鳴らされる音で目が覚めた。 「っん……ん?」 え、先生? 時計を見ると朝の6時だ。 こんな早くから何ごと? 「はい?」 眠い目をこすりながらモニターのついていないインターホンに出ると『あの』という、女の人の声が聞こえてきた。 あれ?先生じゃない。 うちの学校の先生は、養護教諭も含めて全員男だ。 「はい?」 え?誰?どこかのうちと間違えたのかな?と思ったけど、この人『あの』って言った。日本語じゃん! 「柴牧青葉は、ここにおりますか?」 「えっ?!」 まさか! 急いで玄関を開けると、そこに姉の葉暖(はのん)が、緊張した面持ちで立っていた。 「はーちゃん?!どして?」 「あ!あっくーん!良かったぁ!」 はーちゃんはオレの胸に飛び込んで、ギュウっと抱きついた。 っていうか、え?どうしてここに?しかも、こんな朝早くから……。 そういえば、はーちゃんには『会えないかも』って連絡をしたまま、放置してたんだっけ。 空港で携帯を取り上げられちゃったから、それ以降連絡も取れなかったし。帰ってから電話すればいいや、なんて思ってたら、まさか会いに来るなんて! オレがビックリして固まっていると、後ろから『うお!』という声がした。 「ばっつんが襲われてるぅっ!」 サクラの悲鳴に近い叫び声が、部屋中に響き渡った。

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