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パリで一緒に⑨

オレははーちゃんとハグして別れると、アパルトマンまでの道を走った。 ふっきーが心配だからっていうのもあるけど……。 オレが鎧鏡を知らなかったから、オレのことを選んだって言った、さっきの皇の言葉が、すごく心に引っ掛かってる。 皇にそれがどういうことなのか、すぐに聞きたい。 皇がどうしてオレを候補に選んだのか、理由があるなら、すごく知りたい。 オレのこと、渋々選んだんじゃないって、前に皇に聞いたことはあったけど……どうしてオレを選んだのか、その理由までは聞いたことがない。 鎧鏡を知らないで育ったオレを選んだって……そんなオレで、良かったってこと? 父上が奥方教育をしなかった理由はわかったし、それについて父上を責めようなんて思ってない。 だけど、奥方教育を受けず、鎧鏡についても何も知らずに育ったってことは、オレの、嫁候補としての一番のコンプレックスに変わりない。 でも、お前はそれで、良かったの?何にも知らないオレで?   アパルトマンに戻ると、田頭がふっきーを病院に連れて行った先生と電話で話しているところだった。 すぐに皇と話したかったけど、今はそんなことしてる場合じゃないと、はやる気持ちをぐっと抑えた。 ふっきーは皇が言っていた通り、肩を脱臼していたそうだ。 何でそんなことになったのか聞いたら、ふっきーの部屋のクローゼットの上の方から、ガサガサと音が聞こえてきて、なんだろうと椅子に乗って覗き込んだところ、バランスを崩して床に転げ落ちたらしい。 脱臼するほどの勢いで頭を打たないで良かったと、先生が言っていたっていうけど、ホントそれ! ふっきーは脱臼の再発防止のために、しばらく安静が必要ということで、病院での治療を終えたら、すぐに帰国することになった。 昼過ぎ、腕を固定された状態で戻って来たふっきーは、すぐに荷物をまとめ始めた。 片手では大変だろうからと、荷造りを手伝っていると、ふっきーはふと手を止めた。 「雨花ちゃん」 「ん?」 「僕が帰ったら、何かあった時すめを守れるのは雨花ちゃんだけになっちゃうけど、よろしくね」 「え?」 ふっきーはオレの耳元でそう囁くと『準備完了』と、スーツケースを閉じた。 先生と一緒に空港に向かう車に乗り込んだふっきーは『僕の分も楽しんで来てね。お土産待ってるから』と、大丈夫なほうの手をブンブン振って、あっという間に行ってしまった。 っていうか。何かあった時、皇を守れなんて言われて……何だか急に緊張してきた。 皇、鎧鏡家の跡取りだし、いつも誰かに狙われてても、おかしくはない。でも、皇はサクヤヒメ様のご加護があるっていつも言ってるし、大丈夫なんじゃないの? って……オレ、鎧鏡のことをよく知らなかった頃は、サクヤヒメ様のことも、日本昔話かよなんて思ってたけど……いつの間にか完全に信じきってるじゃん。 そういえば、ワタワタしてて、皇が言ってた『鎧鏡を知らなかったから雨花を選んだ』ってことの意味……結局まだ、聞けてなかった。あんな風に言うんだから、皇がオレを選んだ理由を聞いても、いいんだよね?すごく聞きたい。聞きたい、けど……聞くのがちょっと、怖い気もする。 「ふっきー、腕は痛々しい感じだったけど、それ以外てんで元気そうだったし、大丈夫だろ?ふっきーも言ってたし、ふっきーの分も楽しんで帰ろうや」 ふっきーを見送りながら、田頭がみんなにそう言った。 確かにオレがふっきーでも、自分の怪我のせいで、他のみんなが旅行を楽しめないとか、そんなの嫌だ。 そんなこんなで、そのあとオレと皇はまた買い物に、あとの三人は観光に出掛けることにした。 自転車に乗るまでの距離でもない食料品店に向かうため、皇と二人、プラプラと街中を歩き始めてすぐ、皇が『詠に何か言われたのか?』と、聞いてきた。 「え?何で?」 「詠が帰り支度をしながら、そなたに何か囁いておったであろう?それからそなたは、どこかおかしい。何を言われた?」 こいつホント、変なとこ鋭いんだから。 「何かあったら、お前を守れるのはオレだけだからよろしくねって。でもオレ、てんで弱っちぃし……お前のこと守れるのかなって、思って……」 皇は『そのような……余に何かなど起きぬ』と、大きくため息を吐いた。 「わかんないじゃん」 「余にはサクヤヒメ様のご加護がある。何かなど起きるはずもない。あるとすれば、そなたの方だ」 「えっ?!」 「心配要らぬ。そなたのことは、余が守る」 「……ありがと」 オレ……万が一、本当に何かあったとしたら、お前のこと守れるのかなって、不安になるけど……。 でも……ふっきーに言われたからとか、鎧鏡の若様だからとかじゃなくて……お前のこと、守る。 絶対、守るから。

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