214 / 584

雨の朝パリにキュン死す①

「オレ、今夜ふっきーの部屋で寝ていい?」 夕飯を食べながら、突然かにちゃんがそんなことを言い出した。 「は?何で?」 「ばっつんは気にならないのか?クローゼットの中でガサガサしてたのがなんなのか」 ああ、そういえばふっきーが脱臼したのって、クローゼットの中で何かがガサガサしてたのを確認するためだった。 っていうか、そんなの怖くてふっきーの部屋で寝ようなんて、オレは絶対思わないんですけど。 「ならないよ。でもまぁ部屋を変わるのは、誰もいないんだしいいんじゃないの?ね?」 田頭とサクラに向いてそう聞くと、サクラが『あ、じゃあ!』と、何か閃いたような顔をした。 ちょいちょいちょい!何を言う気だ?こいつは。嫌な予感がするー! 「僕と田頭がかにちゃんの部屋で寝る」 「はぁ?」 何が『じゃあ』なんだ?どうしてそうなる? 「ばっつん、僕たちの部屋で寝たらいいじゃん」 「何でそうなるんだよ。オレがかにちゃんの部屋で寝ればいいじゃん」 「環境が変わると気分も変わるんだよ。ねー?」 サクラが田頭をチラリと見ると、田頭はニヘーっという顔をした。 わかっちゃいたけど、こいつらの力関係、今のでハッキリわかったね。 「何か、都合悪い?」 「え?別に」 「じゃあ、決まり」 と、いうことで、何故かオレは、田頭とサクラが使っていた部屋で寝ることになった。 いつものように、一番最後に風呂に入り部屋に戻ると、サクラが『忘れ物したー』と、部屋に入って来た。 「え?何?」 あたりを見渡しても、それらしい物は見当たらない。 「こっちこっち」 ベッドのヘッドボードに付いている収納の引き出しを引いて、サクラは何やら取り出した。 「何忘れたの?」 「コンドームとジェル」 「……はあっ?!」 サクラは『にゃはは』と笑うと『あ、そうだ』と、また閃いたような顔をした。 頼む!もうおかしな閃きはしないでくれ! 「昨夜の心理テストの結果、教えてなかったよね」 「あ……うん。でも別に結果とか……」 「選んだ指でね、その人をどう思ってるかわかるんだって」 オレの反応なんかお構いなしに、サクラは話を始めた。 「親指を選んだら、相談相手。人差し指を選んだら、仕事のパートナー。中指は友達で、小指は自分より下だと思ってるんだって」 「ふうん」 「で、ばっつんが選んだ薬指はー」 サクラは自分の薬指を引っ張って、ニヤリと笑った。 「結婚したい人だってさ」 「……」 まぁ……そんな気、してたけど。所詮、心理テストなんて占いみたいなもんだし。 っていうか、結婚したい人で、合ってるんだけど。 いや、それについて、オレに何をどうコメントしろと? 「男同士で結婚とか無理だろうけどさ。ばっつん、それだけ好きってことだよね?がいくんのこと」 「……」 いや、皇は男と結婚するんだけど……。 「まだ認めないの?じゃあ、グウの音出ないくらいわからせてあげるよ。ばっつんの気持ちがモロ出しの証拠を持ってくるからちょっと待ってて」 サクラは部屋から出て行くと、すぐにカメラを持って戻ってきた。 「うちの学校のホモップル事件簿ブログに載せるために撮ってた写真なんだけど」 そう言って、サクラはデジカメの液晶画面を、オレに見えるように突き出した。 「はい、これは初日にリビングでコーヒー飲んでるばっつんとがいくん。で、これがマルシェに買い物に行った帰りのばっつんとがいくん。そんでこれが、ばっつんのお姉さんと三人で出掛けて行く時のばっつんとがいくん。これが、昨日夕飯作ってる時のばっつんとがいくんでー……」 サクラのデジカメには、オレと皇の姿が、これでもかと収められていた。 こんなに撮られてたなんて、全然気付かなかった!うおおっ!これ、さっき皇のポケットに手を入れてるオレじゃんか! 今思えば、何でオレ嫌がらずにこんなことしたんだろう……こんなとこまで撮られてたなんて!……恥ずっ! 「ばっつんの顔ったら、どれもこれも……」 「……何?」 サクラはデジカメの液晶を見ると『こぉぉいぃぃしちゃったんだぁぁ』と、歌いだした。 「……サクラ、音痴だな」 「ええっ?!そこは今いいの!ほら、ばっつんの顔、そんな感じモロ出しじゃん!」 「……」 確かに……自分で見ても恥ずかしいくらい、皇を見てるオレの顔……めちゃくちゃ、嬉しそう。自分がこんな顔して皇のこと見てただなんて……。 めちゃくちゃ……。 めちゃくちゃ……。 めちゃくちゃ……。 恥ずかしいぃっ! オレに自分の気持ちをわからせるって、心理テストのことじゃなかったのか!こんな証拠を持ってくるとは……本当にグウの音も出ないじゃん! 「どう?がいくんのこと、好きって認める気になった?」 「……」 コクリと小さく頷くと、サクラは『うおおおお!』と雄叫びを上げた。 ……怖いっつの。 「じゃあ、がいくんこっちに呼んだら?ベッドが合わないのなんて、愛の力でどうにでもなるっしょ?」 「はぁ?そんなの……」 オレが口篭ると、サクラは『ほら。これ一個分けてあげる』と、オレにコンドームを差し出した。 「いっ……いらないっつうの!」 「ええー。ばっつんとがいくん、二人が奏でるラップ音が聞きたいなぁ」 「知るか!早く戻れ!田頭が待ってるんだろ!」 オレがそう言いながらベッドに寝転がると、サクラは『よーし!こうなったらがいくんを強制召喚だ!』と言いながら、オレの上にダイブした。 「うわぁっ!」 オレがビックリして声を上げると、すぐにドアが思い切り開いて、皇がズカズカ入って来た。 「おっ、わ!ちょっ……」 サクラは無表情の皇に襟首を掴まれると、あっという間に部屋の外に出されてしまった。 「……」 何、ホントに強制召喚されてんだよ。 「何だ?その目は?藤咲だけはそのようなことはないと思うておったに……」 「サクラはオレを襲おうなんて思ってないよ」 「どうであろうが、そなたが余以外の者に押し倒されるなど許さぬ。……今夜は余もここで休む」 「はぁ?」 皇は、そのままオレのベッドに入って来た。 「ちょおっ!」 オレに手を伸ばす皇を制するように胸を押すと、皇は顔をしかめた。 「この手はどういう了見だ?」 皇を近づかせないようにしているオレの手を、皇が握った。 「だって、部屋余ってるのに、一緒に寝るとか……おかしいじゃん」 どう考えたって、おかしいだろ! 「そなた、詠に余を守るよう言われたのではなかったか?余を守るつもりがあるなら、傍におるのが当然であろう?」 さっきは、何かなんてあるはずないとか言ってたくせに!守るつもりがあるならとか言われたら、一緒に寝るしかないじゃんか。 皇の腕の中で大人しくなったオレの頭に、皇は軽くキスをした。 ほんのちょっと顔を上げると、すかさず皇がキスしてきたから、オレは慌てて皇の胸に顔を埋めた。 「何だ?」 「駄目だってば」 この体勢で、皇にキスとかされたら……そのまま、そんなことになっちゃいそうで……。 キス以上のことをしたら、絶対みんなにバレる!それは、駄目だ! サクラの『二人のラップ音が聞きたい』って言葉が頭に浮かんだ。 そんなん……絶対駄目! 「オレはお前を守るために一緒に寝てやるんだから!」 そう言って皇を押しのけようとした時、ふと、さっきのお仕置きを思い出した。 押しのけたりしたらまた『余を拒むとは仕置きだ』とか言って、無理矢理やられる可能性がなくもない! オレは『守られる気があるなら大人しく寝ろ』と言いながら、皇の胸に顔を埋めてみることにした。恥ずっ! でも、みんながいるのに、そんなことするとか、絶対ありえない!それを防ぐためなら、恥ずかしいとか言ってられるか! 「……わかった」 皇はオレを抱きしめて、大人しく目を瞑った。 おお!オレの作戦、成功した! オレ、皇の扱い、上手くなってるー!

ともだちにシェアしよう!