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雨の朝パリにキュン死す②
皇の腕の中で目を瞑った途端、聞きたいことがあったのを思い出した。目の前の皇を見上げると、皇の呼吸が穏やかになっていた。
……寝そうなのかな?
皇の顔に見とれていたら、この唇が、オレの、を……とか、皇にされたお仕置きが、頭の中にどわーっとわいてきて……下半身が反応し始めた。
いかーん!
「あっ!明日の帰国準備しなくちゃ!」
これ以上くっついていたらオレ、どこまで反応しちゃうかわかんない!
オレは無理矢理そんなことを言って、皇の腕から飛び出した。
「……ん?落ちたぞ?」
慌てて持ち上げたカバンから、何かが床に落ちた。
ぼうっと目を開けた皇が拾ってくれたそれは、旅行に出る日の朝、いちいさんがオレに持たせてくれた小さな巾着袋だ。
「あ」
いちいさんから『緊急時に開けてください』と言われて持たされて、カバンの奥に入れっぱなしだった巾着だ。
何が入ってるんだろ?緊急時に開けろなんて、いちいさんのことだから、また絆創膏とかかな?
オレは皇から巾着袋を受け取って、中身を取り出した。
「何これ?」
最初に出てきたのは、装飾された、ん?ハマグリ?でっかいアサリ?とにかく、貝だ。
「一位に持たされたのか?」
何故か皇が鼻で笑った。
「え?うん。何でわかったの?」
「それは鎧鏡家に代々伝わる軟膏だ」
「軟膏?塗り薬?」
貝の蓋を開くと、中には透明のゼリーのような物が入っていた。
「それは人肌に温まると、粘りのある液体に変わる」
「ふうん。傷に塗る薬?」
そう聞くと、皇はまたふっと笑って『傷にならぬように塗る物だ』と言った。
傷にならないように塗る?何言ってんの?と思いながら、まだ何か入っている巾着袋を振ると、中に入っていた物が、音もなく床に落ちた。
ん?と思ったのも束の間、それがコンドームだとすぐにわかった。
「ぅえっ?!」
ちょっ……いちいさん!緊急時に開けろって……開けた途端、緊急事態が発生したんですけどー!
いやいやいやいや……ちょっと待って!
『緊急時に開けてください』とか『人肌に温めると粘る液体』とか『傷にならないように塗る』とか……えっと、つまりこの巾着袋って……アレのための準備グッズ……みたいな物、なんでしょうか?いちいさぁぁぁん!それならそうとはっきり言っておいてー!緊急時って何!緊急時ってー!
「落ちたぞ」
皇がコンドームを床から拾って、オレに差し出した。
「ちっ……違っ……オレは、何にも……」
あわあわしているオレの手首を掴んで、皇はオレをベッドに押し倒した。
「ちょおおおお!」
「一位の期待に応えなくて良いのか?未使用のまま持ち帰っては、落胆させるぞ?」
皇はずっとニヤニヤしている。
ううううう……いちいさんをガッカリさせる?それは嫌だけど……。
って、おーい!何、皇の口車に乗せられようとしてんだ、オレ!このままの状態で持ち帰ったら、いちいさんはガッカリするだろうけど!このままの状態で持ち帰らなかったら、皇とパリでヤったのが、バレバレってことじゃん!恥ずっ!
皇は、まだオタオタしているオレを見て鼻で笑うと、ゆっくり唇を重ねた。
「……やだ」
ホントは……イヤじゃないけど。
皇から顔を逸らした。
だって……これ以上キスとかしたら、その……絶対……やりそうだし!そんなことになったら、色々恥ずかしいことになっちゃうじゃん!
「雨花」
オレの指を強く握った皇に呼ばれて視線を戻すと、皇は真面目な顔でオレを見下ろしていた。
「……何?」
皇から、目を逸らせない。じっと見つめていると、皇が眉を下げた。
「嫌がられれば、余でも……傷付く」
この殿様気質の皇が『傷付く』とか……。
そんな風に言われたら……強く拒否、出来なくなる。そうじゃなくたって、ホントはオレだって……イヤじゃ、ないんだし。
「だって……」
でもこのまま流されたら、ものすごく恥ずかしいことになるじゃん!
「何が問題なのだ?言うてみろ。余が嫌だということか?」
「ち……そうじゃ……だって!……そんなことしたのがわかっちゃうの、恥ずかしいだろっ!」
いちいさんにも、みんなにもバレるじゃん!
「一位は喜ぶ」
「いちいさんは、そうかも、しれないけど……。でも!すぐ近くにみんながいるのに……そんなことしたら……わかっちゃうじゃん!このベッド……ギシギシ鳴るし……」
「ベッドが鳴らねば良いのか?」
「そ……え……」
まぁ、ベッドが鳴らなきゃ、みんなにはバレないかもしれないけど……って、何オレまたその気になりかけてんの!
オレは、皇にうまい返しが思いつかなくて、若干キレた。
「何だよ!もー!修学旅行は授業の一貫なんだぞ!大人しく寝られないのか!お前はっ!」
「そなたこそ、大人しくしておれ」
「なっ……んっ!」
皇は、それ以上オレに何も言わせる隙も与えないみたいに、オレが抵抗するのをやめるまで、唇を離さなかった。
「はぁ……ズルいよ……バカ」
皇は、オレが我慢出来ずに、皇の首にしがみついた時、ようやく唇を離した。
もうオレのペニスは、痛いくらい勃ち上がっていて、そんなの、こんなにぴったり体をくっつけている皇には、絶対バレてる。
だって皇のだって……固くなってるの、オレにも、わかるもん。
「そなたと違って、狡いなどと言われようが、余は気にせぬ」
「はぁ……皇……」
皇の手は、あっという間にオレのパジャマの中に滑り込んで、パジャマの布に擦れるだけでジンジンしていた乳首に触れた。
「んんっ……」
「音を立てねば良いのであろう?そなたも声を出すでない」
二人しかいない静かな部屋で、オレの耳元で密やかに囁く皇の声に、体が大きく震えた。
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