215 / 584

雨の朝パリにキュン死す②

皇の腕の中で目を瞑った途端、聞きたいことがあったのを思い出した。目の前の皇を見上げると、皇の呼吸が穏やかになっていた。 ……寝そうなのかな? 皇の顔に見とれていたら、この唇が、オレの、を……とか、皇にされたお仕置きが、頭の中にどわーっとわいてきて……下半身が反応し始めた。 いかーん! 「あっ!明日の帰国準備しなくちゃ!」 これ以上くっついていたらオレ、どこまで反応しちゃうかわかんない! オレは無理矢理そんなことを言って、皇の腕から飛び出した。 「……ん?落ちたぞ?」 慌てて持ち上げたカバンから、何かが床に落ちた。 ぼうっと目を開けた皇が拾ってくれたそれは、旅行に出る日の朝、いちいさんがオレに持たせてくれた小さな巾着袋だ。 「あ」 いちいさんから『緊急時に開けてください』と言われて持たされて、カバンの奥に入れっぱなしだった巾着だ。 何が入ってるんだろ?緊急時に開けろなんて、いちいさんのことだから、また絆創膏とかかな? オレは皇から巾着袋を受け取って、中身を取り出した。 「何これ?」 最初に出てきたのは、装飾された、ん?ハマグリ?でっかいアサリ?とにかく、貝だ。 「一位に持たされたのか?」 何故か皇が鼻で笑った。 「え?うん。何でわかったの?」 「それは鎧鏡家に代々伝わる軟膏だ」 「軟膏?塗り薬?」 貝の蓋を開くと、中には透明のゼリーのような物が入っていた。 「それは人肌に温まると、粘りのある液体に変わる」 「ふうん。傷に塗る薬?」 そう聞くと、皇はまたふっと笑って『傷にならぬように塗る物だ』と言った。 傷にならないように塗る?何言ってんの?と思いながら、まだ何か入っている巾着袋を振ると、中に入っていた物が、音もなく床に落ちた。 ん?と思ったのも束の間、それがコンドームだとすぐにわかった。 「ぅえっ?!」 ちょっ……いちいさん!緊急時に開けろって……開けた途端、緊急事態が発生したんですけどー! いやいやいやいや……ちょっと待って! 『緊急時に開けてください』とか『人肌に温めると粘る液体』とか『傷にならないように塗る』とか……えっと、つまりこの巾着袋って……アレのための準備グッズ……みたいな物、なんでしょうか?いちいさぁぁぁん!それならそうとはっきり言っておいてー!緊急時って何!緊急時ってー! 「落ちたぞ」 皇がコンドームを床から拾って、オレに差し出した。 「ちっ……違っ……オレは、何にも……」 あわあわしているオレの手首を掴んで、皇はオレをベッドに押し倒した。 「ちょおおおお!」 「一位の期待に応えなくて良いのか?未使用のまま持ち帰っては、落胆させるぞ?」 皇はずっとニヤニヤしている。 ううううう……いちいさんをガッカリさせる?それは嫌だけど……。 って、おーい!何、皇の口車に乗せられようとしてんだ、オレ!このままの状態で持ち帰ったら、いちいさんはガッカリするだろうけど!このままの状態で持ち帰らなかったら、皇とパリでヤったのが、バレバレってことじゃん!恥ずっ! 皇は、まだオタオタしているオレを見て鼻で笑うと、ゆっくり唇を重ねた。 「……やだ」 ホントは……イヤじゃないけど。 皇から顔を逸らした。 だって……これ以上キスとかしたら、その……絶対……やりそうだし!そんなことになったら、色々恥ずかしいことになっちゃうじゃん! 「雨花」 オレの指を強く握った皇に呼ばれて視線を戻すと、皇は真面目な顔でオレを見下ろしていた。 「……何?」 皇から、目を逸らせない。じっと見つめていると、皇が眉を下げた。 「嫌がられれば、余でも……傷付く」 この殿様気質の皇が『傷付く』とか……。 そんな風に言われたら……強く拒否、出来なくなる。そうじゃなくたって、ホントはオレだって……イヤじゃ、ないんだし。 「だって……」 でもこのまま流されたら、ものすごく恥ずかしいことになるじゃん! 「何が問題なのだ?言うてみろ。余が嫌だということか?」 「ち……そうじゃ……だって!……そんなことしたのがわかっちゃうの、恥ずかしいだろっ!」 いちいさんにも、みんなにもバレるじゃん! 「一位は喜ぶ」 「いちいさんは、そうかも、しれないけど……。でも!すぐ近くにみんながいるのに……そんなことしたら……わかっちゃうじゃん!このベッド……ギシギシ鳴るし……」 「ベッドが鳴らねば良いのか?」 「そ……え……」 まぁ、ベッドが鳴らなきゃ、みんなにはバレないかもしれないけど……って、何オレまたその気になりかけてんの! オレは、皇にうまい返しが思いつかなくて、若干キレた。 「何だよ!もー!修学旅行は授業の一貫なんだぞ!大人しく寝られないのか!お前はっ!」 「そなたこそ、大人しくしておれ」 「なっ……んっ!」 皇は、それ以上オレに何も言わせる隙も与えないみたいに、オレが抵抗するのをやめるまで、唇を離さなかった。 「はぁ……ズルいよ……バカ」 皇は、オレが我慢出来ずに、皇の首にしがみついた時、ようやく唇を離した。 もうオレのペニスは、痛いくらい勃ち上がっていて、そんなの、こんなにぴったり体をくっつけている皇には、絶対バレてる。 だって皇のだって……固くなってるの、オレにも、わかるもん。 「そなたと違って、狡いなどと言われようが、余は気にせぬ」 「はぁ……皇……」 皇の手は、あっという間にオレのパジャマの中に滑り込んで、パジャマの布に擦れるだけでジンジンしていた乳首に触れた。 「んんっ……」 「音を立てねば良いのであろう?そなたも声を出すでない」 二人しかいない静かな部屋で、オレの耳元で密やかに囁く皇の声に、体が大きく震えた。

ともだちにシェアしよう!