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雨の朝パリにキュン死す⑥
ベッドでしてないって……じゃあ、田頭とサクラ、どこでしたわけ?って、今はそこが問題じゃない!
「柴牧」
「……」
オレが皇とヤったって、サクラに完全にバレたってこと?!
うおおおお!
あっ!しかも、あの貝の軟膏、ほぼなくなったんですけど。
あれって、持って帰っていちいさんに返さないといけないのかな?いや、なくしちゃったとか言って、知らんぷりすればいいかな?
うおおおおお!どうしよう!
「柴牧」
「……」
いや、でもいちいさんは、皇とオレがヤってたほうが喜ぶわけで……。
いや、っていうか、緊急時ってなんだったの?いちいさーん!
「柴牧!」
「うおおおおおお!」
「うおっ!どうした?具合が悪いのか?」
あ。
心配そうにオレを見ている先生と目が合った。
朝ご飯の途中、いつものように先生が来たんだった!
先生の存在とか忘れるくらい、オレは内心ワタついていた。
「あ、すいません。大丈……」
「本当に大丈夫?体、つらいんじゃないの?先生!ばっつんの看病は僕に任せてください!この中で、ばっつんの苦しみがわかるのは僕だけです!え?そうだよね?先生もかにちゃんも右側じゃないでしょう?」
「あ?」
何を言ってるのかよくわからないけど……サクラはこれが通常運転だ。放っておこう。
とりあえず、オレと皇がそんな関係だと知っても、サクラはいつもと全く変わらないんだなって、ちょっと安心した。
先生は訝しげな顔でサクラを見たあと『修学旅行はどうだった?』と、腕を組んでみんなに向いた。
田頭が『はい!』と手を挙げた。
真面目か。
「俺はいつもとは違う環境に置かれることで、親と友人のありがたみを感じました。もっと外の世界を知りたいとも思ったし。今は留学もいいかなぁ、なんて思ってます」
うわぁ、田頭っぽい返事!
「僕も。いつもすごく恵まれてたんだなってわかりました。それから、家にいたら絶対にしなかっただろうお風呂掃除をしていて、新しいコンセプトのウエアを思いついたんです!」
おお!サクラ!さすがアパレルメーカー社長の息子!
「俺はいつでも世界と繋がってて、結構世界を知ってるつもりでいたんすけど……こうして生活してみないとわからないことがたくさんあるんだなっていうのが、わかったっていうか。いつもより不便だったからこそ、大事なことがわかった感じっすかね」
おお!ネット依存症のかにちゃんらしい感想だ。
先生はかにちゃんの答えに大きく頷くと、その隣の皇に視線を移した。
「私は……この先の決心が出来ました」
先生の視線に気付いた皇が、短くそう答えた。
この先の決心?って、何?何の決心?皇、何か迷ってたの?
オレが皇の答えを聞いてぼーっと考えていると、先生に『柴牧はどうだ?』と、促された。
「あ」
うーん。どうだ?って言われても……みんなみたいに、何かすごい感想を言おうと頑張ってみても、かっこいい感想は何にも出てこない。
もう思ったまんま話そうと、口を開いた。
「あの……すごく楽しかったです。サプライズ旅行とかいうから、どんなんかと思って心配してたんですけど。普通の観光旅行より、全然良かったなって。オレ、この五日間のこと、きっとずっと忘れないです」
この五日間で、皇のことをもっと知ることが出来た気がするし、オレのことも、知ってもらえたような気がする。
皇と一緒に生活出来た、オレにとってすごく大事な五日間だった。
皇がこの旅行中に、何を決心したのかはわからないけど、きっと皇にとっても、すごく重要な五日間だったんだろうなって思う。
そんな時に、皇と同じ場所にいられたんだって……すごく嬉しく思った。
「ばっつんって、ホントかわいいなぁ、もー!」
嬉しそうな顔をしながら、オレに抱きつこうとしたサクラの襟首を掴んだ皇は、そのままサクラを田頭に渡した。
「ぐはっ!がいくんが過保護過ぎてツライっ!」
サクラは田頭に抱えられながら、そう叫んだ。
過保護って……。
ぎゃーぎゃー叫んでいるサクラを無視して、先生は大きなカバンをみんなの前に置いた。
「さて。お前たちにとって、この旅行が有意義なものだったのがわかったところで、これからが本当の自由時間だ。集合時間の二時まで、羽目を外さない程度に好きにしていいぞ」
先生はカバンの中から、初日に回収したオレたちの財布と携帯電話を取り出した。
「うおおおおおお!」
財布と携帯をもらった途端、田頭とサクラとかにちゃんは『買い物三昧だー!』と、あっという間に外に出て行った。
「……」
えっと……さっきの高尚な感じの三人のコメント、何だったの?
「そなたは行かぬのか?」
「……行く!」
それからオレたちは、散々お土産を買い漁って、無事日本に帰国した。
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