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雨の朝パリにキュン死す⑦

✳✳✳✳✳✳✳ 「ばっつん、これ」 学校で解散になった直後、サクラに分厚い封筒を渡された。 「何?」 「ふふーん。修学旅行、すっごい楽しかったね!じゃあ月曜日にね!」 サクラはものすごいウキウキした様子で、迎えの車に乗って行ってしまった。 なんじゃ、ありゃ。 もらった封筒を開けると、中からひらりと何かが落ちた。 ん?写真? 「おかえりなさいませ。雨花様」 「あ!いちいさん!」 落ちた写真を拾ってくれたいちいさんが、にっこりしながら立っていた。 学校にいちいさんが迎えに来てくれるなんて、初めてだよね?! いちいさんは拾った写真を見て『楽しかったようで何よりでございます』と、嬉しそうに笑うと、オレに写真を渡してくれた。 皇とオレが雨の中、相合傘をしながら、パリでお土産を買い漁り歩いている時の写真だ。またこれオレってば、皇を見ながらなんでこんな嬉しそうな顔で笑ってんだよ! っていうか、この封筒、全部そんな写真ってこと? 「お疲れでしょう。本日はごゆっくりお休みください」 「はい。ありがとうございます」 いちいさんに持たされたあの貝の軟膏のことを聞かれたらどうしようかと思ってたけど、いちいさんはそれには触れず、帰りの車の中で、修学旅行の話を楽しそうに聞いてくれた。 「はぁーここまで来ると、帰ってきたって気がします」 「曲輪が見えて参りましたね。皆、雨花様が戻られるのを楽しみにしておりました」 「オレも早く帰りたいです」 皇はもう本丸に着いたかな? 学校で解散になったあと、お迎えの人たちの波に飲まれて、皇の姿を見失ってしまった。 本丸の脇の道路を通る時、チラリと覗いてみたけど、中まで見えるわけもない。 何だか不思議な感覚がした。 修学旅行の間、皇が近くにいるのが当たり前になっていたから、今、皇は壁の向こう側にいて、姿さえ見られないってことに、違和感を覚えたんだ。 でもそれが、リアルなオレたちの距離なんだ。 小さくため息を吐くと、いちいさんが『今日はごゆっくりお休みください。明日からまた高遠先生がいらっしゃいますよ』と、ニッコリ笑った。 いちいさんの言葉に、あっという間に現実に引き戻された。 そうだー!皇がどうのとか言ってる場合じゃないじゃん。月曜日から期末テストだよ! 車が梓の丸に入ったと同時に、ウロチョロしているあげはが見えた。 いちいさんがふふっと笑った。 「あげはは大人しく玄関前で待っていられなかったようですね」 「あははっ」 あげはは車を見ると、玄関前に駆け出した。 梓の丸の屋敷前には、梓の丸の使用人さんたちが、ずらりと並んでいる。 「総動員のようですね」 そう言っていちいさんは、眉を下げて笑った。 「おかえりなさいませ!雨花様!」 「ただいま戻りました!」 「ん……」 ここどこ?薄く目を開けると、窓の外が明るい。オレの隣で、シロがいびきをかいて寝ていた。 「ぷっ!」 そうだ。帰ってきたんだ。 朝、日本に着いて、梓の丸に戻ってから、みんなにお土産を渡して、お昼ご飯を食べたあと、荷ほどきしながら、いつの間にか寝ちゃってたんだ。 荷ほどきの途中で、サクラにもらった写真を見始めたところまでは、記憶にある。 「んー……」 起きようと手を伸ばすと、ベッド脇のチェストの上に、サクラにもらった写真が綺麗にまとめて置かれているのに気付いた。 「っ!?」 オレ……写真をチェストに置いた記憶がない。いちいさんがまとめてくれたのかな? うわぁ……サクラにもらった写真、見られた? ううっ、サクラが撮った写真なんて、どれもこれも恥ずかしいヤツばっかりじゃん! 急いでチェストの上を見ると、帰りの飛行機の中、雑誌をめくる皇にぴったり寄り添って寝ているオレの写真が、一番上に置かれていた。 「っ?!」 ぎゃあ!よりによってこの写真が一番上とか! さらにその写真の脇に”あの”巾着袋が置かれているのに気付いてしまった。 「っ!!」 そうだ。 荷ほどきしてる途中で寝ちゃって、この巾着袋も、こっそりどこかに隠すつもりでいたのに、他の荷物と一緒に床に転がしたまま……だった? ぎゃあああ! 恐る恐る巾着袋の中に入っている貝を開けてみると、ほとんどなくなっていたはずの軟膏が、未使用かってくらい、たっぷり入っていて……え?増えた? 「……」 勝手に増えるわけないじゃん。これ、間違いなく、補充、されたんだ。 軟膏のこと、何も聞かれなかったから安心してたけど……バレバレ?ですか?うおおおお! オレはがっくりしながら、巾着袋をそっとチェストの引き出しにしまった。 結局、この軟膏を緊急時に開けてくださいって言われた意味が今もよくわからないけど……オレには、それを訊く勇気はない。 若干の謎と羞恥心を残して、オレの修学旅行は無事?終わった。

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