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梅生誕祭①
2月28日 晴れ
今日は、神猛学院高等部の期末テスト最終日です。
修学旅行から帰国してすぐ期末テストって、ホント鬼だ、この学校。
さらに生徒会の決算と春のイベント準備が大詰めになっていて、オレはこの一週間、テスト時間以外、生徒会室に入り浸りだった。
「ううー」
生徒会全体としても忙しいのに、学期の切り替えと決算を迎えようとしている今日この頃、会計のオレには、処理しないといけない業務が山積みだ。
「大丈夫?ばっつん?」
生徒と先生の調整役でもある副会長のサクラは、先生との打ち合わせを終えて戻ってくると、パソコン前で唸るオレに声をかけて、生徒会専用キッチンに消えて行った。
「なんでこれ、まとめて入金して、帳簿だけ分けるとかしないのー!」
オレが文句を言っていると、トレーにカフェオレボウルとお菓子を乗せて、サクラがキッチンから出てきた。
「ちょっと休憩しようよ」
「……うん」
書記のかにちゃんは、家で書類作成をすると言って、今日は早々に帰っちゃったし、田頭は前会長の鏑木先輩の家に、卒業イベントと生徒総会の相談に行ってしまっていた。
「パリで買ったマカロンがようやく届いたんだ」
サクラはピンクのマカロンをポイッと口に入れた。
「あ、そういえば!僕があげた写真うまく撮れてたでしょ?マカロン屋さん前に佇む相合傘の二人が、僕のお気に入りの一枚だから」
「はぁ」
あまりにうまく撮れ過ぎてて、机の奥深くに封印したくらいだ。
だってどれもこれも、自分で見ててあまりに恥ずかしいんだもん。
「あんまりにもいい出来だから、がいくんにもあげたんだぁ」
「うええっ?!」
「え?何?」
なんで皇にもあげるんだよ!オレがものすご嬉しそうな顔して皇を見てる写真なんて!
うおおお!恥ずっ!どんな顔して皇に会ったらいいんだよ!
って……修学旅行から帰って来てから、皇とは一言も話していない。
同じクラスだから姿は見るけど、学校で皇を見るってことは、もれなく隣にふっきーがいるのを見るってことで……。
まだ腕を固定してるふっきーを、皇がさりげなく労わっているのを目の当たりにするってことだった。
皇はふっきーを大事にしてる。
でもオレのことだって……大切にしてくれてる、と……思ってる。
皇は候補みんなを大事にしなくちゃいけないんだって、納得してるつもりでも、他の人を大事にしてる皇を見ちゃうとやっぱり……モヤモヤするのは……仕方ないじゃん。
だってオレ、皇みたいに恋愛対象として複数の人を大事にしようなんて……思えないもん。
このどうにもならないヤキモチで、オレの頭はまたグルグルで……。
だからなんとなく皇に話しかけるのも躊躇しちゃってて……。
またこのヤキモチループだよとか、自分でもわかってるんだけど……。
このまま皇の誕生日が過ぎるまで、こんな状態が続くのかもしれない。
そのうち皇に会うことを禁じられる期間に入ってしまう。皇の姿を見ることさえ出来なくなるのに……。
「はぁ……」
つい、ため息ついちゃった。
「え?がいくんにあの写真あげたの、そんなにダメだった?」
「あ……ううん。サクラが撮った写真をオレがどうこう言うのもおかしいじゃん」
「まぁね。もうあげちゃったし。でもさ、あの写真、絶対がいくん、喜んでくれると思うよ?渡した時は相変わらず無表情で『どうも』とか言ってたけどさ。うちに大事に飾ってたりしてね」
「……んなわけあるか」
何を夢見ちゃってんだ?お前は。
オレだって……そうならすんごく、嬉しいけどさ。
現実的にそんなことするわけない。あの皇が。
「すごくキレイに撮れてるのにー!」
「そうだな。……さて、処理しちゃわないと。ごちそうさまでした。サクラは帰るの?」
「ううん。来週、各委員会へのプレゼンが待ってるじゃん?それの資料まだ終わってないから作っちゃう」
「そっか」
それから夜の9時まで会計処理をして、生徒会室に戻って来た田頭と、資料作りを終えたサクラと一緒に校舎を出た。
梓の丸に戻っていつもより遅くしてもらった高遠先生の授業を受けると、あっという間に夜中の12時を過ぎていた。
「はあ……」
皇がすぐ隣にいた記憶が、どんどん遠くなってる気がする。
だけど、本当はこっちが現実なんだもんなぁ。
ちょっとでいいから、触りたい。
寒いからそんな風に思うのかも。
皇っていっつもあったかいし。
あったかさで言ったら、シロのほうがあったかいんじゃん?
オレを包むように寝ているシロのおなかを撫でた。
やっぱりシロのほうが断然あったかい。
シロに抱きつくと、シロはオレの頭に、頭を擦りつけた。
「シロ……」
シロのほうが断然あったかいはずなんだ。なのに……。
……足りない。
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