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梅生誕祭②

3月1日 晴れ 今日は土曜日だっていうのに、生徒会の仕事で学校です。 「雨花様、おはようございます」 「おはようございます」 朝、オレを起こしに来てくれたいちいさんが、手に持っていた封筒をオレに渡してくれた。『雨花様』と書かれた白い封筒だ。 「誰からですか?」 封筒の裏を見てみても、差出人の名前は書かれていない。 「お梅の方様の生誕祭の招待状だそうです」 「せいたんさい?」 「お誕生会ですね」 いちいさんはカーテンを開けながら、ふふっと笑った。 「お梅の方様は、去年も盛大にお誕生日祝いの会を催されたと聞いております。候補様は皆様いらっしゃるかと存じますが、雨花様はいかがなさいますか?」 「あ、はい!行きます!ぜひ!」 「かしこまりました。ではそのようにお返事させていただきます」 「はい。お願いします」 封筒を開けて日程を確認することなく、行くとか言ってしまった。 土日も関係無く登校するくらい、今、生徒会の仕事は本当に忙しい最中だっていうのに……。 梅ちゃんの誕生会なら……皇も来るよね?とか思ったら、生徒会の予定なんて考えずに、行くって言っちゃったんだ。 そんな下心で出席するとか言ってごめん、梅ちゃん。 だって何か本当に、修学旅行以来、皇と全然話してなくて……誕生日会なら、ちょっとくらい話す機会もあるかもしれない。 本当は昨日ちょっと、期待してたんだ。 テスト最終日の金曜日だから、もしかしたら皇、オレのところに渡ったりして……なんて……。 当然のことながら渡りはなかったけど。 いつも渡りの再開は駒様から始まる。オレはいつでも五番目だ。来るわけないのはわかってたけど……勝手に期待して、いつもよりすごく……ガッカリした。 本当にこのまま春休みに突入しちゃって、次の展示会が終わらないと、皇の姿さえ見ることが出来なくなるかもしれない。 そう思ったら、生徒会の予定は二の次で、梅ちゃんの誕生会に行くことを選んでた。 「贈物はどう致しましょうか?外商を呼びましょうか?」 「あ、はい。お願いします」 今はふっきーの誕生日プレゼントを買いに行った時のように、外出している時間が取れそうにない。 外商さんに来てもらって、梅ちゃんへのプレゼントを選ぶことにした。 梅ちゃんへのプレゼントは、だいたい決まってる。 珠姫ちゃんの誕生日も同じ日だし、さりげなくペアの何かを、二人に贈ろうと考えていた。 あの二人が仲良しなのは、鎧鏡家の中では有名らしいから、ペアの何かを持っていても別段怪しむ人なんかいないだろう。 でもきっと珠姫ちゃんは喜んでくれると思うんだ。 珠姫ちゃんは背が高くてかっこいい見た目だけど、中身はすっごくかわいらしい女の子だから。 次の週から皇は学校に来なくなった。 修学旅行から、田頭、サクラ、かにちゃんと、以前より仲良くなったふっきーは、休み時間たびオレたちのところにやって来た。 ふっきーと二人になった時、皇の話になって、去年の三月もこんな感じだったと教えてくれた。 「去年もこのくらいから、展示会が終わるまで会えなかったの?」 「ふふっ……うん」 オレを見下ろしながら含み笑いをするふっきーに『何?』と聞くと、『そんなにすめに会いたいんだ?』と聞かれた。 「えっ?!」 なんで?!会いたいなんて一言も言ってないのに! 驚いているオレに、ふっきーはさらに笑った。 「あははっ。会えないなんて言うからさ。それって、会いたいのに会えないってことでしょ?」 う。その通りなんだけど。 「ふっきー、さ」 「ん?」 「新しい候補が入ってくるの、嫌じゃなかった?」 ふっきーはそんな風に思わないか。 「うーん。最初からわかってたことだしね。むしろ去年、雨花ちゃん一人しか選ばれなかったって聞いた時、少ないなって心配になったくらいで」 「え?」 「候補はサクヤヒメ様のご加護がないから、いつ何があってもおかしくないでしょ?候補がみんな病気や事故にあって、奥方様を迎えられないなんて事態になったら、すめは鎧鏡の当主になれない。だから候補は一人でも多い方がいいんだよ」 「そんな、候補がみんなどうにかなんて……」 あるわけなくない? 「わからないよ?みんないっぺんに食中毒とか事故とか……最悪の事態を考えたらきりがない。だから候補はなるべく一緒にいないほうがいいんだけどね」 いっぺんに事故?! それを聞いて、修学旅行が真っ先に頭に浮かんだ。 「え?まさか修学旅行でふっきーが先に帰ったのって……」 そんな理由で脱臼までする?いや、ふっきーならしそう! 「ああ、ううん。まさか。それが理由じゃないよ。サクヤヒメ様からご加護があるすめが乗ってる飛行機が堕ちるわけないでしょ?」 ふっきーは笑ってたけど『それが理由じゃないよ』って……じゃあ他に理由があって、わざと先に帰ったって、言ってるように聞こえた。

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