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梅生誕祭④

「面子が揃いましたね」 梅ちゃんがぐるりと部屋を見回すのと一緒に、オレも部屋を見回した。 高座に座っている皇。 その近くに駒様。 ちょっと離れてまだ腕を固定されてるふっきー。 そんでもって……ふっきーから少し離れた隣にいるのが、誓様……だよね? 誓様は正座をしていても、すらりとした長身なのがわかる。ものすごい背筋が伸びていて、シュッとした印象だ。長めの黒髪は顔の周りでゆるくうねっていて、その奥から覗いている鋭い眼光。なんていうか、嫁候補っていうには、誓様はあまりに”男らしい”人だった。 駒様も男らしくカッコイイ人だけど、誓様は駒様以上に男らしいっていうか……男臭いっていうか。 改めて見ると結構ガッチリした体型だ。皇ほど身長は高くないかもしれないけど、体格的には誓様のほうがガッチリしてそうに見える。 まぁ皇も一見細そうに見えて、脱いだら結構筋肉ついてて……って、何を思い出してドキドキしてんだ!オレ!いかーん! あれ?でも誓様って何か、誰かと似てる。……誰だろう?誰だっけ? 思い出そうと誓様をガン見していると、隣に立っている梅ちゃんが大きな声を上げた。 「候補様方!釣り竿をお持ちください!これより、樺の丸主催、屋敷対抗釣り大会を開催いたします!」 ……へ? 屋敷対抗釣り大会? 誕生会っていうから、今日はみんなで何か美味しい物でも食べながら、愉快に談笑したりするんだろうと思ってた。だから皇とも、どっかで話したり出来るかなって、思ってたんだけど。 それが、誕生会で釣り大会? まぁ、この候補様たちと談笑するなんてオレには無理そうだから、むしろ釣り大会で良かったけどさ。梅ちゃん、グッジョブ! 「皆様にやる気を出していただくために賞品を何にしようかと、ずいぶん頭をひねりました」 へぇ。賞品が出るんだ?みんながやる気を出す賞品ってなんだろう?梅ちゃんのことだから体を動かす系の物とか、何か甘い物とかかな? 「この大会の賞品は……」 そこでにっこり笑った梅ちゃんは、高座でまったり座っている皇を振り返った。 「若様です!」 「うええっ?!」 周りはシーンとしている中、オレ一人で大声を上げてしまった。 高座にいる皇が鼻で笑ったのが聞こえできて……うおおおお!恥ずっ! っていうか!そんなことより、賞品が皇ってどういうこと?! 「この釣り大会で勝った候補が、今夜若様のお渡りを受けるということでいかがですか?これなら皆様、やる気が出ますよね」 「え?でも本日は梅様がお誕生日だというのに……」 ふっきーがそう言うと、梅ちゃんはにやりと笑った。 「ここはうちの釣り堀ですよ。万が一僕に勝てる方がいらっしゃるなら、素直に今宵の若様をお譲り致しましょう。まぁ負ける気はしませんけどね」 そう言って笑った梅ちゃんから、ものすごい茶番臭がしてきた。 梅ちゃん、負ける気がしないとか言ってるけど、むしろ勝つ気あるの? もしかして皇を誰かのところに渡らせて、自分は珠姫ちゃんのところにこっそり会いに行く気なんじゃないの?あの、お盆の時みたいに……。 あの時は、二の丸のほうから塀を乗り越えて来た梅ちゃんが、どうしてあんなところにいたのかわからなかったけど、あれってお盆で二の丸に来てた珠姫ちゃんのところに、こっそり会いに行った帰り、だったんだよね、多分。っていうか、そうとしか思えない。 今日珠姫ちゃんも誕生日なんだし、絶対梅ちゃん、皇を誰かのところに押し付けて、珠姫ちゃんのところに行く気だろ! 「若様を賭けの対象にするなど……」 駒様が苦い顔をすると、高座から皇が『良い。梅の誕生日だ。梅の好きに致せ』と言いながら、口端を上げて肘をついた。 駒様は小さく息を吐くと、そのまま無言で釣り竿を握った。 っていうか、これは……。 オレ、釣りが得意ってわけではないけど、候補らしい何かを競うよりは、自信ある! 小さい頃、父上がたまに釣りに連れて行ってくれたから。 梅ちゃんは勝つ気がなさそうだし、この勝負、オレが勝ってもいいかな? 梅ちゃんの誕生日に勝つとか、空気読めないヤツとか言われちゃうかな? いや!読めないヤツでもいい!この勝負に勝って、空気読めないとか言いそうな人第一位の樺の一位さんからは、すでにオレ、空気読めない奴だと思われてるだろうし。 チラリと皇を窺うと、何故かばちりと目が合った。 「っ?!」 嘘?!目が合ったってことは、皇もオレのこと……見てたって、こと? え?勘違い?驚いてキョロキョロ辺りを見回してから、もう一度皇を見ると、皇の唇がゆっくりと弧を描いた。 う、わぁ。オレ、に、だよね? そんな風に笑いかけられちゃったら……。   「……」 満場一致で空気読めないヤツって思われてもいい!絶対、勝つ!……とか、思っちゃうじゃん!

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