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梅生誕祭⑪
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「雨花」
「ふわぁ……い」
「余は出るぞ」
ぽやんと目を開けた瞬間、皇にキスされた。
どわあっ!え?もう朝?
「え……」
もう、帰るの?
「雨花」
「ん?」
「本日、通達が出る」
「通達?何の?」
「本日より展示会が終わるまでの期間、余は候補との接触を禁じられた。その旨、朝のうちに伝達があろう」
「……そう、なんだ」
とうとう皇に会ったらいけなくなるんだ。
急に胸がドキドキしてきた。
今日から展示会までって……あと、何日?
ドキドキが酷くて頭が回らない。今日が13日だから……4月2日まで……え?あと何日?
「雨花」
「え?」
いつものように肘を付いて、横になっている皇は、オレの髪を一房掴んでキスをした。
「まだ夜は寒い。庭を愛でるのも、大概に致せ。体を冷やす」
「……うん」
髪を離した皇は、今度はオレの指先を掴んでキスをした。
「夕べ風呂に入っておらぬのだ。余がここを出たら、湯浴みするのだぞ」
「……ん」
指先を離した皇が、オレの眉をなぞって、キスをした。
「生徒会の仕事は大切であろうが……何より体をいとえ」
「……それお前もだから」
そう言うと、皇は片眉を上げた。
「余を案じておるのか?」
皇は、オレの頬に指を滑らせて、唇にキスをした。
「……案じてるよ」
どうして今朝は、こんなに素直になれるんだろう。
皇がふっと笑った。
「……案ずるな」
ふわりと微笑んだ皇は、布団から出て立ち上がった。
……行っちゃうんだ。
そう思ったら、咄嗟に皇の着物の裾を掴んでいた。
「どう致した?」
優しい顔に、泣きたくなる。
皇を少しでも引き止めようと、何か適当な話題を探そうとするのに、行かないでとか……皇を困らせるような言葉しか頭に浮かんでこない。
「また、ね」
ようやく出てきた言葉は、そんなもので……。
「……ああ」
皇は、もう一度オレにキスをして、振り返らずに和室を出て行った。
「……」
次会える時は……皇が新しい候補様を選んだあと……。
その時皇は、今のまま変わらないでいる?
皇の優しい顔が頭に焼きついてる。次皇に会った時、違う誰かにあんな風に笑いかけてたら……オレ……。
「ふぅぅっ……」
皇が出て行ったってことは、もうすぐいちいさんがここに来るかもしれない。泣いてたら心配かけちゃうと思うのに……どうしても、涙を止められない。
枕に顔を埋めて、声を殺して泣いた。
もう……こんな風に待つの、やだ。
つらくて……つらくて……もう……こんなのいやだよ。
どうしてまた新しく候補を迎えるんだよ?!どうして……。
オレ、来年選ばれたら、良かった。オレより新しく選ばれる候補がいなきゃ、ここまでモヤモヤしなくて済んだのに。
「っく……」
ふっきーは、候補に何かあったら、皇は鎧鏡家の当主になれないから、候補は多いほうがいいって言ってたけど……。
そんな理由だけじゃ、気持ちが全然、納得出来ない。
皇が嫁にしてもいいって人を、新しく選ぶなんて……。
皇、オレのこと、誰かと比較したりしないって言ってたけど……最後は、候補全員を比較して嫁を決めるんじゃん!
……嘘つき。
朝ご飯も断って、学校の支度もせずに和室に閉じ籠っていると、いちいさんが、伝達の方がいらっしゃいましたと、呼びに来た。
急いで謁見の間に行くと、今日からお休みに入ったという駒様の代わりに、お館様の上臈である櫂 様が待っていた。
「伝達致します。本日より展示会終了時まで、候補様方には、若様との直接的接触を控えていただきたく存じます」
「……万が一会ったら、どうなりますか?」
「雨花様!」
「梓の一位殿、構いませんよ。……雨花様が若様とお会いになられましても、別段、懲罰等は決められておりません。ただ若様が、新たな奥方様候補ご選択の際、雨花様のご思念に囚われお苦しみになられる可能性がある……と、いうだけのことかと存じます」
櫂様はそう言って頭を下げた。
皇と会えないこの期間は、皇が新しい候補を選ぶ時、オレたち候補の思念が皇の選択を鈍らせないよう、物理的距離を置くためのもの……だという。
オレが皇に会えば……皇が苦しむだけって……それが……一番嫌じゃんか。
「……会いません」
「賢明かと存じます。では確かに伝達致しました」
櫂様はニッコリ笑って出て行った。
「雨花様……」
心配そうな顔をしているいちいさんを見ていたら、また泣きたくなった。
「大丈夫です。皇に、会ったりしませんから」
「いえ。そうではなく……雨花様が、心配なのです」
「いちいさん……」
そのあと、オレは目が腫れるまで泣き続けて……学校を休んだ。
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