238 / 584

クールビューティーと双子の弟④

このまま行くと……昇降口でばったり、会える?かも。 ……どうしよう。 うわ、なんか……バクバクしちゃって……どうしよう。 こんなんで皇に会ったら、倒れちゃいそう。 でも……会いたい。 結局この前は声を聞いただけで、一ヶ月近く、姿を見ていない。 え?ちょっと待って!さっき校庭を歩いたのって、皇、だよね?チラっと目の端で捉えただけだったけど、皇を見間違えるわけない。 しっかり確認しようと、もう一度窓の外を見てみると、さっきいたはずの、皇らしき人の姿はもうなかった。 「え?」 あんまり会いたいって思ってるから、幻覚見えた?とか? それでもどこかにいないかとキョロキョロ探していると、後ろから急にお腹を抱えられて、体が浮いた。 「うおあっ!」 なにーっ?! 「騒ぐでない」 「あ」 皇……だ。やっぱりさっき校庭歩いてたの、皇だったんだ。 「参れ」 皇はオレを肩に担いだ。 「ちょおおおっ!」 参れって、お前に担がれてるんだから行くしかないじゃん! 「え、ちょっ、何して……」 皇は、階段下の物置のドアを開けた。 前も一回、ここに押し込められたことがあった。 「そなたこそ何をしておる?」 オレを肩から下ろして、顔を覗き込んでくる。 「……」 皇と視線を合わせた途端、何も言えなくなって、皇の胸におでこをつけた。 皇もそれ以上何も言わないで、ぎゅうっとオレを抱きしめるから……オレも皇のシャツの背中を、ぎゅっと握りしめた。 うう……皇のにおいだ。 すぅっと皇の胸の中で、大きく深呼吸した。 会いたかった。 すごい、会いたかったよ。 展示会のあと、すぐに渡りを再開すると思ったのに、全然しないし。 会えてホッとしたら……我慢してた分、ものすごい腹が立ってきた。 皇の背中をきゅっとつねると、皇がビクッと震えた。 「何だ?」 皇を睨み上げると、皇がふっと笑った。 笑ってんなよ!オレは怒ってるんだから! 「何をむくれておる?」 「別にっ?!」 長く放っておかれて、ムカついてるとか言えるか! 鼻で笑った皇が、オレの髪をさらりと撫でた。 キス、される? そう思ったのに、皇はまたオレを胸に抱き込んだ。 「皇……」 キス……しないの? 皇の腕の中で顔を上げた時、廊下で予鈴が鳴り始めた。 今日はさすがに授業はないけど、ホームルームがある。 絶対自己紹介とかするはずだ。去年と全く同じメンバーだけど……。 「教室に参るか」 皇はオレを腕の中から解放して、背中を向けた。 本当に、キスもしないで、出て行くの? 「……」 もしかしたら、本当に新しい候補様を嫁にすることに決めて……だからオレとは……キスも、しないって、こと? でも本当に新しい候補様に決めたんだとしたら、オレのこと、こんなとこに引っ張りこまない、と、思う。 こんなところに連れ込んだくせに、キスも、しないとか……わかんない。皇が何を考えてるのか……わかんない。 胸がぎゅうぎゅう苦しいよ。 キス……しないの?本当に? 物置から外に出ようとしている皇の腕を掴んだ。 「雨花?」 「……」 すごく怖いのに……怖いから、皇の気持ちを今すぐ確かめたい。 振り向いた皇の胸倉を掴んで、ぐっと引いた。 驚いた顔をしてる皇の唇に、自分の顔を近付けると、皇にふいっと顔をそむけられた。 「っ!」 「ならぬ」 な……んで? なんで? 本当に、もうオレとは……キスも……したくない、の? 皇の胸倉を掴む手の力が抜けた。 ずるりと下に落ちそうになったオレの両手首を、皇が強く掴んだ。 「これ以上そなたに触れれば……余は今この場で、際限なくそなたを求める。良いのか」 な、んだよ。お前……どうしていっつもそうなんだよ! ものすごーく不安にさせて……そのあとものすっごく……喜ばせて! ホント、ムカつく! すごい怖かったじゃん! もうお前の側にいられないって……すごい……怖かった。 「オ、レ……」 オレは……梅ちゃんの誕生日の次の日、お前を送り出した時から、もうずっと……お前のこと……求めて、たよ。すごく、すごく……。 今言ったことが本当なら……いいに決まってる。 場所なんかどうでもいいから……今すぐ際限なく、求めてよ。 手首を掴まれたまま、もう一度皇の胸倉を掴んで、強く引いた。 「次、よけたら……怒る」 そう言って近付けた唇が、ほんの少し重なると、それから先は、本当に際限ないんじゃないかって、怖くなるくらい……求められた。

ともだちにシェアしよう!