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クールビューティーと双子の弟⑥

✳✳✳✳✳✳✳ 翌週月曜、学校に行くと、3年B組前の廊下には、転入生見たさと思われる人だかりが出来ていた。 転入生は、全く笑わない超絶美形が、天戸井晶(あまどいあきら)くんで、ずーっと笑ってる子犬系が、塩紅雪佳(いおべにゆきよし)くんという名前で、天戸井くんがお楽の方様、塩紅くんが晴れの方様だと、駒様に聞く前に梅ちゃん情報で知った。 梅ちゃんは土曜、わざわざ梓の丸までやって来て、一時間近くその話をしていった。 オレはお尻が痛くて、座っているのが辛かった。何でお尻が痛かったかって、階段下で皇としたアレが原因で……。 「っていうか、何でこっちの廊下まで見物人が出てるわけ?」 B組に人だかりが出来るのはわかる。でも人だかりは、うちのクラスの廊下にまで出来ていて、廊下の窓から代わる代わる不躾に、教室の中を覗きこんでいく姿が見える。 「転入生まつーりだよ!」 オレの席の前に座って、サクラがニヤリと笑った。 「おはよ、サクラ」 「はよ。もう具合大丈夫?」 「うん。もう大丈夫」 「良かった。ねえ!ねえ!転入生の天戸井くん、僕が言った通り綺麗だったっしょ?見た?」 「見た」 「あのツーンとしてるところがまたたまらなーい!とか、さっき廊下でそんなこと言ってるの聞こえたんだ。うちの学校、マゾ率高かったんだね。僕にはわかんないなぁ」 田頭の扱い見てたらわかる。お前は根っからのサディストだ。そんなサクラにはわかるまい。 「確かに綺麗だよね」 「だよね?かにちゃんめ!僕の綺麗は世界基準だっつぅの!」 「まぁ、うん。世界基準っていうか、世界に通じるね。あの綺麗さは」 皇は、ハーフかなって思う顔つきの純日本人だけど、どうやら天戸井くんは本当にハーフだかクォーターらしい。 本当に整った綺麗な顔立ちの人だ。 皇って面食いだったのか?でも、どんな人だって、天戸井くんみたいなあんな綺麗な顔に見つめられたら、ドキドキ、するよね。 う……でも皇は、顔だけで嫁を選ぶような奴じゃない!……はず! 「もう一人の子さ、ゆきちゃん?だっけ?あの子、あんな綺麗な子と一緒に転入してきたなんて可哀相だなぁって思ってたけど、どうやらあっちのほうが人気らしいよ?」 「はぁ」 どれだけ人気があるとしたって、塩紅くんは皇の嫁候補なんだから、皇以外の誰かとどうにかなるなんてこと、あるわけないけどね。 「ばっつん、ゆきちゃんと双子とか言われてるんだって?」 「ふーん」 似てる!とか、本人に言われたけど……オレはそんなに似てると思わなかったけどな。 「確かに、髪型とか顔の輪郭とか?は、似てなくもないかも」 「はぁ」 オレの髪型なんて、そこらへんにゴロゴロいそうな感じだけど。 あ、そんなこと言ったら、ななみさんに怒られちゃう。 ななみさんは側仕えの仕事の他に、どうやら本職で美容師さんの仕事もしているらしいから。 「気のない返事だなぁ、もー!」 だってそんなこと言われたって、似てるなんてちっとも思わないんだもん。 塩紅くんの方が、オレより明らかに小さいし。オレ、あんなにこやかな可愛いワンコ系じゃないし。オレから言わせたら、梅ちゃんに近い 「ばっつんだって、転入生まつーりの中心人物なのに」 「は?何でオレが……」 「ゆきちゃんの双子の兄でしょ?」 「似てないって」 「うちのクラスを覗いてる奴らの大半は、ばっつんとゆきちゃんの双子っぷりを堪能してるみたいだけど?」 「はぁ?」 「よし!ここはひとまず、あの人に聞いてまるっと解決だ!」 「え?」 サクラは、教室の窓側一番後ろの席に座っている皇のところに向かって行った。 うおおおお!ちょっ……それは……ええええ?! 昨日、塩紅くんがオレと似てるって話を聞いてから、ちょっと……皇に対して複雑なんだ。 塩紅くんを嫁候補に選んだのは……オレと似てる、から?とか……思ったりして。 でもそうだとしたら……嫌だなって思ってて。 何で嫌かって聞かれても……何かいや、としか言えないんだけど。 「がいくん!」 「ん?」 サクラに慌てて付いて行くと、サクラは躊躇なく皇に話しかけた。 皇の隣には当然のようにふっきーがいて、サクラに向かって『おはよ』と笑った。 「ふっきー、おはよ。ねぇねぇ、がいくんさ。隣のクラスの転入生、見た?」 「ん?ああ」 見てて当然っていうね。何なら皇がこの中で一番最初に、あの二人を見てるんだから。 「ゆきちゃんって呼ばれてる子、ばっつんと双子とか言われてるの知ってる?」 「柴牧と双子?」 皇は、学校のみんなの前では、候補のことを苗字で呼ぶ。 「そう。がいくんも似てると思う?ばっつんと隣のクラスの子」 サクラー!お前、他人事だと思って、ズバッと聞くよね! ちょっ……何か、ドキドキする。皇……何て言うだろう? 「ああ、髪型そっくりだよね。あと、動き方とか?」 皇が答えるより前に、ふっきーがそう言った。 「そうか?全く似ているとは思わないが」 皇は本当に不思議そうな顔をして、そう答えた。 その瞬間、胸がきゅうううって……。 皇に『似てない』って言われただけで、こんなに、嬉しい。

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