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クールビューティーと双子の弟⑧
ふっきーと二人でお弁当を持って中庭に出た。
「何だよ!さっきの!」
ムカムカがおさまらない!
今回ばかりは落ち込んでいるだろうと思っていたふっきーは、オレを見てふふっと笑った。
「何で雨花ちゃんがそんなに怒ってるの?」
「だって!」
「雨花ちゃんだって僕のこと敵視してたでしょう?」
う……そう……だけど……。
「オレは!皇に怒ってんの!」
そうだよ。皇め!
「え?何で?」
「だって!ふっきーのこと置いて、二人で行っちゃうとかありえない!」
そう言って口を尖らせると、ふっきーはビックリした顔をしたあと、爆笑した。
「何っ?!」
なんで笑うの!そんな爆笑されるようなこと言ってない!
「はぁ……雨花ちゃんって面白いね」
「は?どこが?!」
「だって、ついこの前、僕とすめが上手くいってないほうがいいって言ってたのに、今は僕とすめのこと、応援してるみたいなこと言ってるから」
「べっ!別に……そういうわけじゃ……。だって!学校で皇と一番仲良い友達はふっきーじゃん!」
編入してきた時からそれが当然で、そこに入ったらいけないって思ってた。
なのに、あいつは何の遠慮もなくズカズカ入ってきてさ!
「雨花ちゃん、それで僕に遠慮してたの?」
「え?……うん」
「やっぱり雨花ちゃんって変わってるね」
「は?!オレから言わせれば、皇がよければそれでいいなんて言って譲っちゃうふっきのほうがよっぽど変だから!」
「言っとくけど、僕は自分の願望に忠実だよ?雨花ちゃんみたいに我慢なんてしてないし。楽様がすめと二人にしろなんて言ってきても、別段腹も立たないんだ。楽様は当然の欲求を口に出しただけだからね」
そこでふっきーは、お弁当をじっと見ながら『あの言い方はちょっと腹立たしかったけど』と言って、ごはんを口に入れた。
「……皇には、ムカつかないの?」
そう聞くと、ふっきーは驚いた顔をしたあと、にっこり笑った。
「すめに?まさか。すめの決定に腹を立てるくらいなら、最初から『すめがいいならそれでいい』なんて言ってないよ」
「……」
「僕はね、すめがどんな決定を下しても、それを叶えられる人間でいたいと思ってるんだ。それが僕の一番の願望」
ふっきーは、そう言ってまたにっこり笑った。
そんな話を聞いちゃったら、また自己嫌悪に陥りそうだよ。
ふっきーがカッコイイことを言えば言うだけ、オレは自分と比べてへこむんだ。
「楽様は素直な人なんだろうね。わかりやすくていいんじゃないの?雨花ちゃんはわかりづらいもんね。僕を敵視してるのかと思えば肩を持ってくれたりして。……でも、ありがと」
「え?」
「さっきの、僕のために怒ってくれたんでしょ?」
「ふっきーのためじゃ……」
「”一番の友達”の僕を置いていったすめに怒ってくれたんでしょ?それって、僕のためってことじゃない?ありがと」
「……」
オレがムカついたのは、本当にふっきーのためじゃないのに……ふっきーはそんなふうに考えられるんだな。
新しい候補様が来て、色々へこんでたけど……やっぱり誰よりふっきーはすごいなって……改めてへこんだ。
「そうだ!さっきの楽様を逆に利用してさ。すめと一緒にお昼ご飯を食べるの、候補みんなで交代制にしない?」
「え?」
「大人しく引き下がるだけっていうのも、腹立たしいかなぁって思って。ははっ。雨花ちゃんの怒りが伝染ったのかな」
「え?オレのせい?」
口を尖らせながらふっきーを見ると、ふっきーは急に真面目な顔になった。
「そうだよ」
そう言ったふっきーは、いつもと雰囲気が違って……何か、怖い。
何の返事も出来ずにいると、ふっきーは『怒る時は怒らないとね!』と、すぐにいつものふっきーに戻った。
「じゃあ、あとで”若様”にその交代制の提案をしておくね。雨花ちゃんもそのメンバーに入れていいの?」
「え?」
「お昼、サクラとかと一緒のほうがいいなら抜かすけど?」
そんなことわざわざ聞くとか……意地悪?いや、ふっきーが意地悪するわけない。
「……入る」
「雨花ちゃんって、たまーに素直になるのがたまらないのかもね」
ふっきーは『すめの前でもそんななの?雨花ちゃんみたいなのツンデレって言うんでしょ?確かにいいかも。僕も今度やってみようかな』と、笑った。
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