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クールビューティーと双子の弟⑨

✳✳✳✳✳✳✳ 「晴れ様って、しらつき病院の外科部長のご子息様だって今日聞いたんです!」 夕飯を食べながら、あげはが急にそんな話をし始めた。 「え?」 しらつき病院って、母様の病院じゃん! 「だから晴れ様もお医者様を目指しているんだそうです」 「へぇ」 でもB組ってことは、そこまで頭がいいわけじゃないって、こと? そうは言っても、神猛に編入出来たってことは、それなりに頭はいいんだろうけど。 「小さい頃からしらつき病院に出入りなさってて、御台様にも可愛がられていらっしゃるんだそうです」 「そう……なんだ」 母様に、可愛がられてる? 「しらつき病院に出入りしてたってことは、若様とも前々からお知り合いなのかもしれませんよね」 「そう……かも、しれないね」 皇が晴れ様のことを、前から……知ってた、かも? そう聞いて、ドキドキしてきた。 皇がオレと晴れ様のこと、全然似てないって言ったのって……本当に晴れ様が皇にとって特別な人、だから? 「若様、まだお忙しいんでしょうか。全然お渡りなさらないですね」 「……そう、だね」 そう……なのかな?本当はこっそり渡ってたり、してるんじゃ……。 だって皇、オレのところにだって、こっそり会いに来たりしてたじゃん。 四月一日だって……。 あの日、オレのところにだけ来たのかと思ってたけど、みんなのところにも行ってたのかもしれない。 新しい候補を迎えていいかって、聞きに来ただけなら、みんなのところにだって行ったよね、多分。 オレ……何、うぬぼれたこと、思ってたんだろう。 「……」 あの時、オレが背中を押してやらなきゃなんて思ったけど……オレが押さなくても、他の候補様たちに散々背中を押されたあとだったのかもしれない。 皇は、ちょいちょい、何て言うか……我慢できないみたいなことを言って……オレのこと……その、手篭めっていうか……そんなん、するから。 そんな風にされたら、オレを選んでくれるんじゃないか、とか、思っちゃうじゃん。 でも本当は……。本当は? オレは……大事なものがたくさんある皇にとって……今……どんな存在なの? 「雨花様?」 「あ……ごめん。何か、お腹いっぱいで苦しくなっちゃった」 「そうなんですか?でもまだ全然召し上がっていないようですけど」 「あ……がっ……学校で!ちょっと軽く食べて来ちゃって」 って、嘘だけど。 「そうなんですか?あ!そうだ!学校っていえば、晴れ様って、雨花様に似てるって、学校で噂になってるんですか?曲輪の中でも、お二人が似てるって話を聞きました」 「え?」 曲輪の中でも、似てるなんて言われてるの? 「晴れ様、展示会の日、ずぶ濡れだったそうなんですよ」 「えっ?!」 展示会でずぶ濡れ?!何、それ!それじゃホントに、去年のオレみたいじゃん! でも……鎧鏡一門の普通の家で育ってたら、展示会にずぶ濡れのまま出席するなんて、オレみたいなことは絶対しないだろうって、今ならわかる。 ってことは、もしかして晴れ様って……オレとおんなじ?!もしや奥方教育受けてない人、なのかも!だから駒様も、腕が鳴るって言ってたんじゃないの? だってそうじゃなきゃ、あの展示会にずぶ濡れで参加とかありえないよ! 「雨花様も展示会の時、曲輪の中で迷って、ずぶ濡れだったんですよね?」 「う……それってさ、鎧鏡の家臣さんの中では、有名な話なの?」 「んん……この曲輪の中で知らない人はいないかもしれませんけど、曲輪勤めじゃない家臣さんたちまでは出回ってないと思います。曲輪勤めの人たちって、特別意識が強いから、曲輪情報をそうそう外には漏らさないんだそうですよ」 「へぇ」 そんな感じする! 「そういえば、雨花様が曲輪の中で迷って、展示会に濡れたままご参加したって話、八位さんから聞いたんですけど、雨花様らしいねって笑ってましたよ」 「うわあっ!あげは!何てことを!」 後ろに控えていたやつみさんはあわあわしてるけど……それを聞いて何か……嬉しかった。 オレ、鎧鏡の家臣として、考えられないようなことをしたのに……。 「ありがとうございます、やつみさん」 「へ?」 「笑って、受け入れてくれて」 「雨花様……」 安心したように笑ったやつみさんの隣で、いちいさんが涙目になっていた。 オレが候補に選ばれてから、もう丸一年が経ったんだ。 どうか来年も、こんなふうにみんなと笑っていられますように……。

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