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クールビューティーと双子の弟⑨
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「晴れ様って、しらつき病院の外科部長のご子息様だって今日聞いたんです!」
夕飯を食べながら、あげはが急にそんな話をし始めた。
「え?」
しらつき病院って、母様の病院じゃん!
「だから晴れ様もお医者様を目指しているんだそうです」
「へぇ」
でもB組ってことは、そこまで頭がいいわけじゃないって、こと?
そうは言っても、神猛に編入出来たってことは、それなりに頭はいいんだろうけど。
「小さい頃からしらつき病院に出入りなさってて、御台様にも可愛がられていらっしゃるんだそうです」
「そう……なんだ」
母様に、可愛がられてる?
「しらつき病院に出入りしてたってことは、若様とも前々からお知り合いなのかもしれませんよね」
「そう……かも、しれないね」
皇が晴れ様のことを、前から……知ってた、かも?
そう聞いて、ドキドキしてきた。
皇がオレと晴れ様のこと、全然似てないって言ったのって……本当に晴れ様が皇にとって特別な人、だから?
「若様、まだお忙しいんでしょうか。全然お渡りなさらないですね」
「……そう、だね」
そう……なのかな?本当はこっそり渡ってたり、してるんじゃ……。
だって皇、オレのところにだって、こっそり会いに来たりしてたじゃん。
四月一日だって……。
あの日、オレのところにだけ来たのかと思ってたけど、みんなのところにも行ってたのかもしれない。
新しい候補を迎えていいかって、聞きに来ただけなら、みんなのところにだって行ったよね、多分。
オレ……何、うぬぼれたこと、思ってたんだろう。
「……」
あの時、オレが背中を押してやらなきゃなんて思ったけど……オレが押さなくても、他の候補様たちに散々背中を押されたあとだったのかもしれない。
皇は、ちょいちょい、何て言うか……我慢できないみたいなことを言って……オレのこと……その、手篭めっていうか……そんなん、するから。
そんな風にされたら、オレを選んでくれるんじゃないか、とか、思っちゃうじゃん。
でも本当は……。本当は?
オレは……大事なものがたくさんある皇にとって……今……どんな存在なの?
「雨花様?」
「あ……ごめん。何か、お腹いっぱいで苦しくなっちゃった」
「そうなんですか?でもまだ全然召し上がっていないようですけど」
「あ……がっ……学校で!ちょっと軽く食べて来ちゃって」
って、嘘だけど。
「そうなんですか?あ!そうだ!学校っていえば、晴れ様って、雨花様に似てるって、学校で噂になってるんですか?曲輪の中でも、お二人が似てるって話を聞きました」
「え?」
曲輪の中でも、似てるなんて言われてるの?
「晴れ様、展示会の日、ずぶ濡れだったそうなんですよ」
「えっ?!」
展示会でずぶ濡れ?!何、それ!それじゃホントに、去年のオレみたいじゃん!
でも……鎧鏡一門の普通の家で育ってたら、展示会にずぶ濡れのまま出席するなんて、オレみたいなことは絶対しないだろうって、今ならわかる。
ってことは、もしかして晴れ様って……オレとおんなじ?!もしや奥方教育受けてない人、なのかも!だから駒様も、腕が鳴るって言ってたんじゃないの?
だってそうじゃなきゃ、あの展示会にずぶ濡れで参加とかありえないよ!
「雨花様も展示会の時、曲輪の中で迷って、ずぶ濡れだったんですよね?」
「う……それってさ、鎧鏡の家臣さんの中では、有名な話なの?」
「んん……この曲輪の中で知らない人はいないかもしれませんけど、曲輪勤めじゃない家臣さんたちまでは出回ってないと思います。曲輪勤めの人たちって、特別意識が強いから、曲輪情報をそうそう外には漏らさないんだそうですよ」
「へぇ」
そんな感じする!
「そういえば、雨花様が曲輪の中で迷って、展示会に濡れたままご参加したって話、八位さんから聞いたんですけど、雨花様らしいねって笑ってましたよ」
「うわあっ!あげは!何てことを!」
後ろに控えていたやつみさんはあわあわしてるけど……それを聞いて何か……嬉しかった。
オレ、鎧鏡の家臣として、考えられないようなことをしたのに……。
「ありがとうございます、やつみさん」
「へ?」
「笑って、受け入れてくれて」
「雨花様……」
安心したように笑ったやつみさんの隣で、いちいさんが涙目になっていた。
オレが候補に選ばれてから、もう丸一年が経ったんだ。
どうか来年も、こんなふうにみんなと笑っていられますように……。
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