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ざわわ①

4月18日 晴れ 今日は、生徒会主催新入生歓迎会です。 今日の新入生歓迎会は、実質、部活勧誘会だ。準備は大変だったけど、本番当日の今日は、各部の部長に張りきってもらえばいいわけで、生徒会役員はただ座って見ているだけでいい。 この新歓が終われば、五月の生徒総会の準備が待っている。生徒総会は、生徒会にとって、一番重要な行事と言っていい。生徒会の役員になるなんて、去年の今頃は考えてもなかったから、完全なる他人事で出席していた前回の生徒総会は、全く記憶に残っていない。 そんなことを思っていると、入場の音楽が流れてきた。 拍手で迎えられた一年生たちは、まだまだ子供っぽくて可愛い印象だ。オレも一年の時はあんなだったんだろうなぁ。 その時、一人の一年と目が合って、にっこり笑い掛けられた。 すごく可愛い子だ。線が細くて、一見女の子みたいで。あれだけ可愛いと狙われそうだなぁ、あの子。 「ひゅー!」 「可愛い!」 ほらね。 案の定、二年も三年も、明らかにその子を見てきゃいきゃいしている。 ご愁傷様……と思っていると、その子は三年のほうに向かって、ひらひらと手を振った。 え?三年に知り合い有り?あ!中学からの持ち上がりの子かな? なんとはなしに、その子の視線の先を追うと、顔をしかめた皇がいた。 え?まさか、皇と知り合い? 皇の隣にいるふっきーが、その一年を指差して、皇と何か話している。 皇は腕を組んで何かを話すと、ふっきーが大きく頷いてニッコリ笑った。 やっぱりあの一年、皇の知り合いなのかな? まぁ、どんな知り合いでもいいけど。あれだけ可愛くても嫁候補じゃないんだし。恐るるに足りず! ……だよね?   とは思ったものの、何だかモヤモヤしたまま新歓は終わり、一年が退場して行くのを近くで見送った時、その一年の名札を確認した。 『藍田』と書かれている。 アイダ?だよね?多分。 藍田さんなんて……鎧鏡の家臣さんに、そんな名前の人はいなかったと思う。 鎧鏡の家臣さんたちには、何かっていうとお礼状を書いてきたから、名前は大体覚えてる……つもり。 そもそも、鎧鏡の家臣さんが、皇にあんな親しげに手を振ったりするわけない。 じゃあ……一体何者? 皇は明らかに不機嫌そうだった。どんな知り合いなんだろう? いつもの如く、後片付けをしてから体育館を出ると、教室に向かう廊下には、一年を部活に勧誘する二、三年が未だに溜まっていて、先生から『あとにしろー』と注意を受けていた。 その集団の中、頭一つ飛び抜けている皇にすぐ気付いた。 こんな集団の中に、いつまでも残ってることないのに。珍しい。 そう思いながら近づくと、皇のお腹に、誰かがひっついているのに気付いた。 「ぅえっ?!」 あ。つい驚いちゃった。 「あ!雨花ちゃん、お疲れ!」 皇の隣で、オレを見つけたふっきーが、ニコニコしながら手を振った。 いやいや、ふっきー!何笑ってんの?!その皇のお腹にひっついてるの、何?! 皇は、ひっついている人をグッと引き剥がした。 「何でー!すーちゃーん!冷たいじゃん!」 引き剥がされた奴の顔を見ると、あの『藍田』だ。 っていうか、すーちゃん?! って……皇のこと?ホントこいつ何者なの?! 「あ!会計先輩だ!」 会計先輩?……オレのこと? 皇に引き剥がされた『藍田』は、そう言ってオレに一歩近付いた。 その瞬間、オレは腕を掴まれて、皇の背中に隠されるように引っ張られた。 何だよ!急に! 文句を言おうと思ったら、『藍田』が『もしかして会計先輩もすーちゃんのアレ?』と、首を傾げた。 アレって何だよ?アレって……。 『藍田』は、皇とオレの周りをぐるぐる回ると『ふぅん』と言いながら、オレをジロジロ眺めた。 「他のと全然タイプ違うじゃん」 は?他の、って何? 「ねぇ、何て名前?」 「は?」 オレに言ってんの?二歳上の先輩に対して、どんだけフレンドリーだ!お前はっ! 「雨花だ」 オレより先に皇がそう返事をした。 『雨花だ』って……え?そっちの名前?そっちの名前で紹介するとか、本当にこいつ、何者なの? 皇と藍田を交互に見ていると、ふっきーが笑い出した。 「雨花ちゃん、全く訳わかんないって顔してる。雨花ちゃん、この子、すめの幼馴染なんだって」 ふっきーがそう言って、藍田に視線を投げた。 「え?」 幼馴染み?……あ!修学旅行で話してくれた、あの特殊な幼稚園の……かな? 「正確には幼馴染みの弟だ。衣織(いおり)、お前どうしてここにいる?」 「え?すーちゃんに会いたかったから」 そう言って『藍田』は、また皇のお腹に抱きついた。 ちょおおおおお!どういうこと?! いやいや、落ち着け!オレ!幼馴染みだって!幼馴染って言ってた!うん。候補じゃないんだから、どんだけひっついてようが、皇とどうとかあるわけないから! 「離れろ」 皇はまた『藍田』を引き剥がして、オレの腕を掴むと、早足に歩き出した。 「ちょっ……皇!」 「……」 「皇ってば!」 皇を止めるように腕を引くと、ようやく足を止めた皇が、オレをギロリと睨んだ。 「何だ?」 「ふっきーは?ふっきー置いてきちゃっていいの?」 驚いた顔をした皇が、大きくため息を吐いた。

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