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ざわわ④
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「ん……」
頭が痛いなぁと思いながら目を開けると、そこに母様の姿があった。
え?!
「か……」
「大丈夫。もう大丈夫だからね」
母様、来てくれたんだ。
そう思ったのと同時に、塩紅くんが倒れた場面が頭に浮かんだ。
「あ!塩紅くんは大丈夫なんですか?オレは平気なので、塩紅くんのところに……」
「大丈夫。ゆきちゃんはもう屋敷に帰ったよ。青葉のほうが重症そうだ」
青葉?え?母様が青葉って……。
ぐるりとあたりを見回すと、部屋にはオレと母様だけだった。
「この様子だと、花見会の最中も具合が悪かったんじゃないの?」
そう聞かれて、泣きそうになった。
母様は、わかってくれてるんだって……嬉しくなったからだと思う。
オレ、本当に倒れそうだったけど、塩紅くんが先に倒れてびっくりして……これでオレまで倒れて、家臣さんたちを余計不安にさせたらいけないって思ったんだ。
そしたら気力で頑張れたっていうか……。
でも、倒れそうになる不安で……花見会の間中、ずっと怖かった。
「オレ……候補としてちゃんと、最後まで出席したくて……」
「うん。そっか。でもね、無理はし過ぎないこと。私なんてほら、幽閉されてた話、したでしょう?一度も行事参加しなかった年があるんだから」
母様はそう言って笑った。
「え?!」
「それでも今、私はここにいるんだよ。ね?無理して出席しなくちゃなんて頑張らなくていいんだよ?行事を仕切ってる私が言ってるんだから間違いないよ」
「母様……」
「あー、青葉を慰めるネタに使えたなぁ、私の暗い過去。あんな過去が役に立つとはね」
母様は相変わらず優しくて……オレはボロボロ泣いてしまった。
「青葉……」
母様はベッド脇に座って、オレの頭を撫でた。
「青葉は頑張り屋さんだ。でも頑張り過ぎ屋さん」
「え?」
「青葉はさ、今日倒れたゆきちゃんに、ちゃんと候補らしくもっと頑張れなんて言う?」
そう聞かれて、大きく頭を横に振った。
「うん。だったら青葉自身にも、そんなこと言わないであげて」
そんな言葉にオレは……母様にしがみついて、わんわん泣いた。
「青葉は頑張ってるよ?すごくすごく頑張ってる」
母様はそう言いながら、ずっとオレの背中をさすってくれた。
少し気持ちが落ち着いて、涙を拭こうと手を上げた時、初めて自分が寝間着を着ていることに気が付いた。
「あ、れ?寝間着……」
着物を自分で脱いだ覚えがない。
え……いちいさんが着替えさせてくれた、とか?もしかして母様が?
誰かに着替えさせてもらったと思ったら、ものすごく恥ずかしくなって、あっという間に涙が引っ込んだ。
「ああ、さっき千代が着替えさせて……って、あ、戻って来たかな?」
「え?」
廊下のほうから、急いでこちらに近付いてくる足音がする。
ダンっと急にドアが開かれて、驚いてそちらを見ると、息を切らしている皇と目が合った。
「雨花!」
皇はあっという間にオレのところに来ると、母様の腕の中にいたオレを引っぱって、ギュウっと抱きしめた。
「なん、で?……いいの?」
「何がだ?」
「ここにいて、いいの?」
皇は一旦オレを離して顔を見ると、もう一度胸に抱きしめた。
「そなたが望まぬなら、本丸に戻る」
「……」
お前、最近いっつもそういう言い方するんだから。
オレが望んだら、ずっとここにいてくれるってこと?だったらずっと……ここにいてよ。
ギュッと皇の着物を握ると、皇はさらに強くオレを抱きしめた。
「御台殿、雨花はもう大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思うよ?何よりの薬が来たしね」
「っ?!」
何よりの薬が来たって、皇のことですか?!うわあっ!母様!何てことを!
「千代、占者様は?」
「送って参りました」
占者様を送ってきた?占者様、ここに来てくれてたの?
そっか。占者様が来てくれてたから、いちいさんたちがいないのかもしれない。
母様は『そっか。さて、それじゃあ私はこれで一旦戻るね。あとでまた様子を見に来るからね。今日は激しい運動はしたら駄目だよ』と言って、部屋を出て行った。
「皇……」
皇の腕の中は、本当に安心して……頭が痛いのも和らいでいく。
今日はもう会えないって思ってたから、余計……安心するのかもしれない。
皇の前で倒れたわけじゃないし、来てくれるなんて思ってなかった。なのに……来てくれた。こんなの……期待するなってほうが、無理だよ。
「ん?」
「……」
オレが望めば、本当にここにいてくれるの?オレの他に、今、誰かお前を望んでいる人が、いても?
「どうした?」
「……」
「ん?」
そうだとしてもオレ……もう、泣きたいくらい……離せない。
「……帰らないで」
誰がお前を求めてても……。
「雨花……」
「帰らないで」
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