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ざわわ⑧

「あの、皇?」 「あ?」 「オレ、もう大丈夫だよ?」 「そなたの大丈夫など信じておらぬ」 ひどっ!確かに、大丈夫とか言って、本当は大丈夫じゃないことも、多いけど……。 「何故言わなかった?」 「え?」 「晴れがそなたのその傷の原因ということは、先程余が晴れをここに連れて参る際、すでにその傷を負っておったということであろう?」 「そんな、痛くなかったし。大丈夫だと、思ってたから……」 本当は痛かったけど……痛いとか、言えなかったし。 「……」 皇は、オレのおでこをそっと撫でた。 「痛っ!」 「それのどこが痛くないだ!」 「あの時はまだ痛くなかったの!」 そう言うと、皇は大きく溜息を吐いた。 「……」 そんな……ガッカリしないでよ。 「余は……万能ではない」 「え?」 「そなたが隠せば、余はいつまでもそなたの痛みを知れぬのだ」 「……」 「何故……余を頼らぬ?何故藤咲は頼るに、余は頼らぬ?」 「だっ、て……」 あの時は、塩紅くんのほうが大変そうだったじゃん!あんな塩紅くんを前にして、お前に痛いなんて、泣き言言えるわけないじゃん! 「余はそなたにとって……それだけの存在か」 何だよっ!人の気も知らないで! 「あの時は!塩紅くんのほうが具合悪そうだったじゃん!オレはちょっとおでこぶつけただけなのに、あんな状態の塩紅くんを前に、お前におでこ痛いなんて言ってる場合じゃなかったじゃん!普通は言えないよ!少なくともオレは言えなかったの!」 皇はふっと息を吐くと『やはり痛かったのではないか』と言って、オレをふわりと抱きしめた。 「……」 「痛むか?」 「……痛いよ」 「そなたはすぐに大丈夫だなどと偽る。だが、余にだけは偽るな。余は……そなたの苦しみを受け入れられぬほど、弱くないつもりだ」 オレの顔を見た皇が、悲しそうな顔をした。 「……ごめん」 その顔を見たら、素直に謝ってた。 皇……傷付いたんだ。 さっきも、オレのこと心配してるから怒ってるって、言ってた。 それなのにオレは何も言わなかったから、皇、傷付いたんだ。 「雨花……」 「ごめんね」 皇の背中に腕を回して、抱きついた。 あの時、おでこが痛いって言えなかったのは、皇を頼ってないからじゃないし、そんなんで傷付く必要ないのにって思うけど……オレ、皇を傷付けたんだ。 皇は、ほんの少し、抱きしめる腕に力を入れた。 「此度は許す。故に、そなたの異変に気付けずにおった余も、許せ」 許せって……オレ、全然怒ってないのに。でも……。 「怒ってないけど……許す」 皇は『かたじけない』と、ふっと笑ってキスをした。 二限から授業に出て、昼休み開始のチャイムが鳴って早々、今日皇と一緒にお昼ご飯を食べる”ランチ当番”の梅ちゃんがやって来た。 「鎧鏡せんぱーい!お昼食べましょうよー!」 相変わらず可愛らしい梅ちゃんに、教室はざわめき立った。 だけど珠姫ちゃんと一緒にいる時の男らしい梅ちゃんを知っちゃってるオレは、可愛らしい梅ちゃんが嘘臭く見えて仕方ない。 梅ちゃんが皇と一緒に教室を出て行くと、サクラがオレに詰め寄った。 「ちょっと!何、アレ!」 「え?二年の……」 「みーちゃんは知ってるよ!……いいの?」 「いいんじゃないの?」 実際、梅ちゃんならてんでいい。 サクラにそう言ってニッコリすると『ばっつんが珍しく余裕!』とか、失礼なことをぬかした。 「ふっきー!一緒にご飯食べようよー!」 弁当を掴んだふっきーを呼ぶと、ふっきーはニッコリしながら、こちらに来た。 「いいの?」 「もちもち!」 サクラがそう言って、近くの机をもう一つくっ付けた。サクラは案外ふっきーと仲がいい。 みんなで椅子に座った途端、教室前方のドアが思い切り開いた。 「ばっつーん!」 塩紅くんだ。 「お昼一緒に食べようよ」 「え?!いつの間にそんな仲に?」 サクラが顔をしかめた。 何か不機嫌? 「え?いつの間にか?」 「……ふーん」 塩紅くんは、近くの椅子をオレの机の脇に置いて、ちょこんと座った。 「ばっつんって、すごい人たちとお昼食べてるんだね」 「え?」 「生徒会役員の有名人さんたちと、成績学年一位の吹立くんと一緒なんて」 塩紅くんの言葉にサクラが『ばっつんも生徒会役員なんだから当然じゃん』と、ボソリと呟いた。 「そっか!そうだったね。あははっ。ねーばっつん、屋上行かない?」 「え?」 「今日さ、天戸井に酷いこと言われて……」 そこで塩紅くんは、机に突っ伏して、下からオレを見上げた。 やっぱり塩紅くんって、子犬系だ。 天戸井くんに酷いことを言われた? それをわざわざオレのとこに来て話すってことは……候補絡みの話、かな? だったら確かに、ここでは話せない。 「うん。じゃあ屋上行こうか」

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