253 / 584

求愛①

4月22日 雨 今日は、オレが”ランチ当番”の日です! 今日、ふたみさんに持たされたお弁当は、皇のと二人分だ。 皇と一緒にお昼ご飯を食べることになったという話をした日から、ふたみさんは本丸の賄い役さんたちに色々とリサーチして、今日のお弁当を作ってくれたらしい。 『皇の分までふたみさんが作ることないんじゃないですか?』って言ったんだけど『一つの物を二人で食べるからいいんです』と、ふたみさんが力説するので、素直に二人分のお弁当を持って登校することにした。 学校の昇降口で上履きに履き替えていると、後ろから皇の独特な香りが漂ってきた。 うわー……皇と二人でお昼ご飯を食べるなんて初めてで、昼休みのことを考えると妙に緊張して、皇が後ろにいるのはわかってるのに振り向けない。 上履きに手をかけたまま固まっていると、隣に立った皇が、オレの前髪をすっと上げた。 「ちょっ……」 「まだ痛むか?」 昨日出来たタンコブは、朝にはだいぶ腫れが引いていた。 「……ちょっとだけ」 腫れは引いたけど、まだ痛みはある。 いつもなら『大丈夫』と言っちゃうくらいの痛みだけど、昨日皇に『余にだけは偽るな』って言われたし、オレが皇の立場でもそうして欲しいだろうと思ったから、小さなことでもちゃんと言おうと、そう返事をした。 皇は『酷くなるようならすぐ申せ』と、オレの頭をポンっと撫でた。 「ん」 「これは余が持って参る」 皇は、オレの脇に置いてあったお弁当を持ち上げた。 「えっ?」 「余の分も入っておるのであろう?そなたが持っておっては、田頭に食われかねん」 確かに! 「じゃあ、まあ、持って行っても、いいけど」 ちらりと皇を見上げると、皇は鼻で笑って『参るぞ』と、オレの前を歩き出した。 「ん」 オレもすぐに皇の隣に並んで、一緒に教室に向かった。 昼休みのチャイムが鳴るのを、とにかくドキドキしながら待っていた。四限はほとんど記憶にないくらいだ。 いつも一緒にお昼を食べる田頭たちにはすでに、今日のお昼は別に食べると話しておいたからいいとして……一番肝心な皇には、何て声を掛けたらいいの?! そんな風にうだうだ悩んでいる間にチャイムが鳴り、それと同時に教室のドアが勢い良く開いた。 「すーちゃあん!」 げっ!藍田?! 「……」 皇は藍田に返事もしないでお弁当を持つと、無言でオレの腕を掴んで、教室を出た。 静かだったA組の教室から上がった雄叫びが廊下まで響いて、オレにも聞こえてきた。 っていうか、そんなことより……。 「藍田、放っておいていいの?」 藍田のことは、皇が気を付けろって言うし、警戒してはいるけど、藍田に対する皇の態度があまりに冷たいから、かわいそうな気さえしてくる。 「衣織はしつこい。急ぐぞ」 「え?」 その時、後ろから『待ってよー!』という声が聞こえてきた。振り返ると、藍田が走って近付いて来る。 うわ! 追いかけられると、逃げなきゃと思うじゃん! オレは皇に手を引かれるまま、藍田がかわいそうなんて思っていたのも忘れて、駆け出した。 「すーちゃん!待ってよ!」 藍田は可愛い外見からは想像出来ないくらい、ものすごく足が速かった。 あっという間に追いついて、オレの腕を掴んで引いた。 「おあっ!」 「酷いよ!逃げないでよ!」 皇は、オレが腕を掴まれているのに気付いて、足を止めた。 「今すぐその手を離せ」 「すーちゃんが逃げないって約束してくれたらね」 皇は、オレの肩を掴んでいる藍田の右肩口に手を置いた。 「今すぐ雨花を離さねば、お前の腕を使えなくする」 えっ?! 「そんなこと出来ないくせに」 ニヤリと笑った藍田の肩に、皇は手の平をトンッと当てた。 「うあっ?!」 その瞬間、オレの腕を掴んでいた藍田の手から力が抜けて、藍田は肩を押さえてうずくまった。 皇は呻く藍田を見下ろすと、何も言わずにオレの手を引いて歩き出した。 「え?!いいの?!」 いくら何でも、あの状態の藍田を置いて行くとかあり得ない! 保健室に……と思ったのに、皇は『痛みはすぐに治まる。早う参れ』と、更にオレの手を引いた。 「どこ行くの?」 「零号温室だ」 「ゼロゴウオンシツ?」 どこ?それ? 皇は、生徒会室直通エレベーターの『△』ボタンを押した。 え?このエレベーターに乗るの? 詳しいことを何も聞けないまま、エレベーターの扉が開くと、皇に背中を押されて、先に乗せられた。 背中に当てられていた皇の手が離れた瞬間、後ろに感じていた皇の気配まで離れた気がした。 「……皇?」 咄嗟に振り返ると、思った通りそこに皇の姿がない。 え?!皇? 皇の姿を探してエレベーターから降りようと一歩踏み出したところで、ものすごい勢いでエレベーターに乗り込んできた藍田が『閉』ボタンを連打した。 「な……」 ……に?この状況、何?!

ともだちにシェアしよう!