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求愛①
4月22日 雨
今日は、オレが”ランチ当番”の日です!
今日、ふたみさんに持たされたお弁当は、皇のと二人分だ。
皇と一緒にお昼ご飯を食べることになったという話をした日から、ふたみさんは本丸の賄い役さんたちに色々とリサーチして、今日のお弁当を作ってくれたらしい。
『皇の分までふたみさんが作ることないんじゃないですか?』って言ったんだけど『一つの物を二人で食べるからいいんです』と、ふたみさんが力説するので、素直に二人分のお弁当を持って登校することにした。
学校の昇降口で上履きに履き替えていると、後ろから皇の独特な香りが漂ってきた。
うわー……皇と二人でお昼ご飯を食べるなんて初めてで、昼休みのことを考えると妙に緊張して、皇が後ろにいるのはわかってるのに振り向けない。
上履きに手をかけたまま固まっていると、隣に立った皇が、オレの前髪をすっと上げた。
「ちょっ……」
「まだ痛むか?」
昨日出来たタンコブは、朝にはだいぶ腫れが引いていた。
「……ちょっとだけ」
腫れは引いたけど、まだ痛みはある。
いつもなら『大丈夫』と言っちゃうくらいの痛みだけど、昨日皇に『余にだけは偽るな』って言われたし、オレが皇の立場でもそうして欲しいだろうと思ったから、小さなことでもちゃんと言おうと、そう返事をした。
皇は『酷くなるようならすぐ申せ』と、オレの頭をポンっと撫でた。
「ん」
「これは余が持って参る」
皇は、オレの脇に置いてあったお弁当を持ち上げた。
「えっ?」
「余の分も入っておるのであろう?そなたが持っておっては、田頭に食われかねん」
確かに!
「じゃあ、まあ、持って行っても、いいけど」
ちらりと皇を見上げると、皇は鼻で笑って『参るぞ』と、オレの前を歩き出した。
「ん」
オレもすぐに皇の隣に並んで、一緒に教室に向かった。
昼休みのチャイムが鳴るのを、とにかくドキドキしながら待っていた。四限はほとんど記憶にないくらいだ。
いつも一緒にお昼を食べる田頭たちにはすでに、今日のお昼は別に食べると話しておいたからいいとして……一番肝心な皇には、何て声を掛けたらいいの?!
そんな風にうだうだ悩んでいる間にチャイムが鳴り、それと同時に教室のドアが勢い良く開いた。
「すーちゃあん!」
げっ!藍田?!
「……」
皇は藍田に返事もしないでお弁当を持つと、無言でオレの腕を掴んで、教室を出た。
静かだったA組の教室から上がった雄叫びが廊下まで響いて、オレにも聞こえてきた。
っていうか、そんなことより……。
「藍田、放っておいていいの?」
藍田のことは、皇が気を付けろって言うし、警戒してはいるけど、藍田に対する皇の態度があまりに冷たいから、かわいそうな気さえしてくる。
「衣織はしつこい。急ぐぞ」
「え?」
その時、後ろから『待ってよー!』という声が聞こえてきた。振り返ると、藍田が走って近付いて来る。
うわ!
追いかけられると、逃げなきゃと思うじゃん!
オレは皇に手を引かれるまま、藍田がかわいそうなんて思っていたのも忘れて、駆け出した。
「すーちゃん!待ってよ!」
藍田は可愛い外見からは想像出来ないくらい、ものすごく足が速かった。
あっという間に追いついて、オレの腕を掴んで引いた。
「おあっ!」
「酷いよ!逃げないでよ!」
皇は、オレが腕を掴まれているのに気付いて、足を止めた。
「今すぐその手を離せ」
「すーちゃんが逃げないって約束してくれたらね」
皇は、オレの肩を掴んでいる藍田の右肩口に手を置いた。
「今すぐ雨花を離さねば、お前の腕を使えなくする」
えっ?!
「そんなこと出来ないくせに」
ニヤリと笑った藍田の肩に、皇は手の平をトンッと当てた。
「うあっ?!」
その瞬間、オレの腕を掴んでいた藍田の手から力が抜けて、藍田は肩を押さえてうずくまった。
皇は呻く藍田を見下ろすと、何も言わずにオレの手を引いて歩き出した。
「え?!いいの?!」
いくら何でも、あの状態の藍田を置いて行くとかあり得ない!
保健室に……と思ったのに、皇は『痛みはすぐに治まる。早う参れ』と、更にオレの手を引いた。
「どこ行くの?」
「零号温室だ」
「ゼロゴウオンシツ?」
どこ?それ?
皇は、生徒会室直通エレベーターの『△』ボタンを押した。
え?このエレベーターに乗るの?
詳しいことを何も聞けないまま、エレベーターの扉が開くと、皇に背中を押されて、先に乗せられた。
背中に当てられていた皇の手が離れた瞬間、後ろに感じていた皇の気配まで離れた気がした。
「……皇?」
咄嗟に振り返ると、思った通りそこに皇の姿がない。
え?!皇?
皇の姿を探してエレベーターから降りようと一歩踏み出したところで、ものすごい勢いでエレベーターに乗り込んできた藍田が『閉』ボタンを連打した。
「な……」
……に?この状況、何?!
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