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求愛②

藍田はエレベーターの扉が閉まりきる前に、屋上ボタンを急いで押した。 ……何で? 何で皇とじゃなくて、オレとお前がエレベーターに乗ってるんだよ! 藍田の目的がわからない。何されるの?オレ! もしかして……逃げ場を塞いで、皇に近付くな!とか、オレを脅すつもり? 藍田の目的が全くわからない恐怖で後退りすると、藍田も一歩オレに近付いた。 オレより小さいくせに、藍田は変な威圧感を纏っている。 いや!怖がってる場合じゃない!皇はどうしちゃったんだよ! 「お前、皇に何したんだよ!」 「え?!すーちゃんのこと、呼び捨てなの?」 「え?」 藍田がすごくびっくりしてるけど、今、そこ気にしてる場合か! 「へー……でも雨花とすーちゃんじゃ、釣り合わないよ」 「なっ!お前こそ呼び捨てすんな!」 2コも下のくせに、お前こそオレを呼び捨てとは何事だ!オレのこと、雨花って呼んでいいのは、皇だけなんだから! 藍田はぷっと吹き出した。 「それ今言う?自分の状況わかってんの?」 藍田はまた一歩オレに近付いた。 そうだった!もうオレの背中は、エレベーターの壁にくっついていて、これ以上逃げ場がない! 「すーちゃんって、気ぃ強いのが好みだったんだ?すーちゃんの嫁候補って、みんな気ぃ強そうじゃない?」 みんなって……こいつ、候補全員のこと知ってるの? いや、そんなことより! 「皇どこにやったんだよ!」 無事、だよね? 藍田は皇のことが好き、なんだよね?皇のあとを追って、この学校に入ったんだよね?それならきっと、痛いことはしていないと思うけど……。 「そこらへんで寝てるでしょ」 「え?!」 寝てる?って、何? 「すーちゃん、しばらく会わないうちに変わったなぁ。まさかすーちゃんに攻撃される日が来るとは思わなかった」 藍田は、さっき痛がっていた右肩を押さえて、何度か首をコキコキと鳴らした。 あんなに痛がってたのに、もう大丈夫なの?こんな可愛い顔をしてるのに、足は速いし頑丈そうって、梅ちゃんみたいじゃん! その間にも、エレベーターの階数表示が、三階、四階と上がっていった。表示が五階に変わった時、エレベーターの中に『チンッ』と、止まることを知らせる音が響いた。 藍田が押したのは、五階じゃなくて屋上ボタンだ。 ってことは、五階から誰かが乗ってくるってことだ! 五階には生徒会室がある。生徒会室に誰かいたんだ!誰でもいいから早く乗って来て! 助かったと思ったのも束の間、藍田は小さく舌打ちして、非常停止ボタンを押した。 エレベーターはガクンっと揺れて、扉が開く前に緊急停止した。 「なっ……」 何で?!本当にこいつの目的、何なの?! でも緊急停止なんかさせたら、すぐに警備員さんが来てくれるはず! そう思っていると、エレベーターの扉の間に、外からぬっと指が差し込まれた。 「えっ?!」 差し込まれた指が、少しずつ扉を開いていく。 「雨花!」 ほんの少し開いた扉の隙間から、皇の声が聞こえた。 「皇!?」 無事だったんだ! っていうか、いつの間に五階まで来たの?階段で?嘘! 「さすがすーちゃん。あんなんじゃ気絶なんかしないか」 気絶?!寝てるって、気絶させたってこと?!え?こいつ、皇のことが好きなんじゃないの? エレベーターの扉を素手でこじ開けた皇が、中に乗って来た。 「雨花!」 皇は藍田を押しのけて『無事か』と、オレを抱きしめた。 「うん」 皇……良かった……。 「衣織、お前の目的を言え」 オレを背中に隠して、皇は藍田と向き合った。 「すーちゃんに会いたかったって言ったじゃん」 「余に会いたがる理由を言え」 好きだから、会いたかったんじゃないの? 藍田はぷっと吹き出すと『さすがすーちゃん!』と、笑い出した。 「ねぇすーちゃん。現代の日本でさ、男の嫁を探すことが、どれだけ大変なことかわかる?嫁までお膳立てされてるすーちゃんにはわかんないだろうね」 男の嫁を、探す?え? 「知るか。それは藍田家のしきたりだ。嫁も探せぬような者に、藍田は継げぬということであろう」 藍田の家も女人禁制だって、皇が言ってた。 藍田の話っぷりからすると、この可愛い外見の藍田が、男の嫁を貰うってこと? 「あーあ、どうせ男の嫁を貰わなきゃなんないなら、鎧鏡家に生まれたかったなぁ。男の嫁を見つけなきゃ跡継ぎになれないとか、うち、酷くない?もーそんなん絶対無理って思ったんだけど、すーちゃんのことを思い出したんだよね」 「あ?」 「すーちゃんの嫁候補なら、男同士で結婚するのも納得済みじゃん?しかもすーちゃんの嫁候補に選ばれたくらいの奴なら、僕の嫁としても相応しいじゃんか」 え? 「どうせすーちゃんは候補の中から一人しか選べないんだからさ、すーちゃんが選ばない嫁候補、僕に一人頂戴よ」 はぁ?! 「ねぇねぇ、すーちゃん。僕、雨花が気に入ったなぁ。雨花を僕に頂戴!」 ……。 ……。 ……オレぇぇえ?!

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