258 / 584

求愛⑥

✳✳✳✳✳✳✳ 「ところで。五時間目は、どこで何の勉強をしていたのだね?ばっつんくん」 皇と時間差で教室に入ると、後ろからヌッとサクラが現れた。 「ぎゃっ!」 「がいくんと二人、手を取り合って教室出たあと、どこでナニしてたの?!」 「何って……お弁当、食べに……」 「今日ばっつんが、一緒にお昼を食べられなかった理由が、まさかのがいくんなんてっ!」 サクラはオレの肩を掴んで、ガクガク揺らした。 「何で言っておいてくれないんだよ!知ってたら覗きに行ったのに!」 覗きにー!?あっ!あんなとこ覗かれたら、恥ずかしさで死ねる! 「だから言わないんだよっ!」 そう言うと、サクラは声にならない声を上げて、ガックリ肩を落とした。 「ってことは……覗かれたら困るようなことをしていたんだね?」 「っ!」 なんつう、鋭さ! 「はー……見たかった。見たかったよおっ!僕だって、これはヤるなって時は、適度に遠慮するのに!」 「適度に遠慮ってなんだよ!」 「はあー……ヤリ終えた交尾は見られないって言うもんね。次回に期待するよ」 「格言みたいに言うな!」 「でもとりあえず良かったじゃん。がいくんとお昼一緒に食べるの、初めて?」 「……うん」 「あー!わかった!それで昨日、みーちゃんが、がいくんと一緒にご飯食べに行っちゃっても、余裕だったんだ?」 「余裕って……」 梅ちゃんは、"違う"って知ってるから……。 「それはいいとして……で?あの一年、どうなったの?」 「え?」 「がいくんのとこに来た一年。二人で一緒にぶっちぎって出て行ったじゃん」 「ああ、藍田?」 「それそれ!可愛いって一年の中では人気らしいけど大丈夫だった?ばっつん」 「へ?」 「え?」 「何でオレ?」 「え?あの一年、ばっつん狙いでしょ?」 「ぅえええっ?!」 サクラ!何でわかったの?!オレはさっきのさっきまで、藍田は皇狙いなのかと思ってたのに! 「え?違った?」 「いや……確かに、そんなこと言ってたけど……サクラすごいな。オレ、あいつは皇狙いだと思ってた」 「ふっ……僕にはわかるんだよ。ばっつんを狙うハイエナの気配が!」 ちっちっと指を振ったサクラは『がいばつを邪魔する者は、なんぴとたりともこの僕が許さない!』と、こぶしを握って、よくわからないヒーロー的ポーズを決めた。 「はあ」 「まあ僕的には、あれくらいの当て馬がいたほうが萌えるからいいんだけどね」 「はあ?」 「あ、でも!食べられないように気をつけなよ?」 「何を?」  「ばっつんをだよ!」 オレが藍田に食べられる?まさか! 「あいつ、オレがいいってわけじゃないから大丈夫だよ」 さっきのあいつの話っぷりだと、あいつが欲しいのは『鎧鏡の嫁候補』って肩書きを持った人間だ。 『オレ』を狙ってるわけじゃない。 何人もいる嫁候補の中から、何でオレに目を付けるんだよ!オレなら落としやすいとでも思ったのか?落ちるわけないじゃん! オレは、皇じゃなきゃ……。 授業が終わって、生徒会の仕事が始まっても、サクラに根掘り葉掘り、皇とのランチの様子を聞かれ続けた。もちろん、途中のアレは話してないけど。 サクラに話しているうちに、藍田のことは吹っ飛んで、皇との昼休みは、すごい……幸せだったなって、何だかほんわかしてた。 はあー……ランチ当番って、いいなぁ。 そう思うと、当番制を作るきっかけになった天戸井くんにも感謝だなーなんて、思ったりした。天戸井くんのこと、いい印象ないとか思ってたのに……。いい印象は相変わらずないけど、それと感謝はまた別だもんね。 翌日の昼休み、皇は迎えに来た天戸井くんと一緒に、教室を出て行った。 「どうなってるんだ?がいくんは」 田頭が二人の背中を見ながら、オレに聞いた。 「……友達増えたんじゃん?」 「ふーん、そっか」 『僕が好きなのは鎧鏡くん』とか言ってた天戸井くんが、皇の友達じゃないことは、誰にでもわかることだろうけど、相変わらず田頭は、それ以上突っ込まないで納得してくれたらしい。 深く聞かないのは、それだけオレのことを信用してくれてるから、だよね。 そう思うと、田頭に色々と隠していることに罪悪感がわく。 いずれ話せる日が来たら、ちゃんと全部話すからね。 「ばっつーん!」 ガラリと教室のドアを開けて、塩紅くんが入ってきた。『一緒にご飯食べようよ!』と、持っていたお弁当を軽く上げてこちらに見せてくる。 野菜サンドを抱えながら購買から戻ってきたサクラが、塩紅くんの後ろから近付いて『B組に友達いないの?』と、声を掛けた。 どうもサクラは、塩紅くんがあまり好きではないらしい。 「サクラくんって、副会長のくせに言い方感じ悪いよね」 「はあ?サクラとか呼ばないでくれる?」 そっちかよ! 普通、感じ悪いって言われたことに、まずはツッコむだろ。 「ばっつん、一緒に食べていい?」 塩紅くんはサクラを完全無視して、オレに可愛らしい笑顔を向けた。 ここでいいって言えば、サクラがむくれるだろうし、嫌とか言ったら、塩紅くんが傷付くだろうし。 オレが返事に困っていると、ふっきーがお弁当を持ち上げてにっこりした。 「たまには僕とばっつんと三人でどうかな?ね?雨花ちゃん」 ふっきぃぃぃー!

ともだちにシェアしよう!