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求愛⑥
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「ところで。五時間目は、どこで何の勉強をしていたのだね?ばっつんくん」
皇と時間差で教室に入ると、後ろからヌッとサクラが現れた。
「ぎゃっ!」
「がいくんと二人、手を取り合って教室出たあと、どこでナニしてたの?!」
「何って……お弁当、食べに……」
「今日ばっつんが、一緒にお昼を食べられなかった理由が、まさかのがいくんなんてっ!」
サクラはオレの肩を掴んで、ガクガク揺らした。
「何で言っておいてくれないんだよ!知ってたら覗きに行ったのに!」
覗きにー!?あっ!あんなとこ覗かれたら、恥ずかしさで死ねる!
「だから言わないんだよっ!」
そう言うと、サクラは声にならない声を上げて、ガックリ肩を落とした。
「ってことは……覗かれたら困るようなことをしていたんだね?」
「っ!」
なんつう、鋭さ!
「はー……見たかった。見たかったよおっ!僕だって、これはヤるなって時は、適度に遠慮するのに!」
「適度に遠慮ってなんだよ!」
「はあー……ヤリ終えた交尾は見られないって言うもんね。次回に期待するよ」
「格言みたいに言うな!」
「でもとりあえず良かったじゃん。がいくんとお昼一緒に食べるの、初めて?」
「……うん」
「あー!わかった!それで昨日、みーちゃんが、がいくんと一緒にご飯食べに行っちゃっても、余裕だったんだ?」
「余裕って……」
梅ちゃんは、"違う"って知ってるから……。
「それはいいとして……で?あの一年、どうなったの?」
「え?」
「がいくんのとこに来た一年。二人で一緒にぶっちぎって出て行ったじゃん」
「ああ、藍田?」
「それそれ!可愛いって一年の中では人気らしいけど大丈夫だった?ばっつん」
「へ?」
「え?」
「何でオレ?」
「え?あの一年、ばっつん狙いでしょ?」
「ぅえええっ?!」
サクラ!何でわかったの?!オレはさっきのさっきまで、藍田は皇狙いなのかと思ってたのに!
「え?違った?」
「いや……確かに、そんなこと言ってたけど……サクラすごいな。オレ、あいつは皇狙いだと思ってた」
「ふっ……僕にはわかるんだよ。ばっつんを狙うハイエナの気配が!」
ちっちっと指を振ったサクラは『がいばつを邪魔する者は、なんぴとたりともこの僕が許さない!』と、こぶしを握って、よくわからないヒーロー的ポーズを決めた。
「はあ」
「まあ僕的には、あれくらいの当て馬がいたほうが萌えるからいいんだけどね」
「はあ?」
「あ、でも!食べられないように気をつけなよ?」
「何を?」
「ばっつんをだよ!」
オレが藍田に食べられる?まさか!
「あいつ、オレがいいってわけじゃないから大丈夫だよ」
さっきのあいつの話っぷりだと、あいつが欲しいのは『鎧鏡の嫁候補』って肩書きを持った人間だ。
『オレ』を狙ってるわけじゃない。
何人もいる嫁候補の中から、何でオレに目を付けるんだよ!オレなら落としやすいとでも思ったのか?落ちるわけないじゃん!
オレは、皇じゃなきゃ……。
授業が終わって、生徒会の仕事が始まっても、サクラに根掘り葉掘り、皇とのランチの様子を聞かれ続けた。もちろん、途中のアレは話してないけど。
サクラに話しているうちに、藍田のことは吹っ飛んで、皇との昼休みは、すごい……幸せだったなって、何だかほんわかしてた。
はあー……ランチ当番って、いいなぁ。
そう思うと、当番制を作るきっかけになった天戸井くんにも感謝だなーなんて、思ったりした。天戸井くんのこと、いい印象ないとか思ってたのに……。いい印象は相変わらずないけど、それと感謝はまた別だもんね。
翌日の昼休み、皇は迎えに来た天戸井くんと一緒に、教室を出て行った。
「どうなってるんだ?がいくんは」
田頭が二人の背中を見ながら、オレに聞いた。
「……友達増えたんじゃん?」
「ふーん、そっか」
『僕が好きなのは鎧鏡くん』とか言ってた天戸井くんが、皇の友達じゃないことは、誰にでもわかることだろうけど、相変わらず田頭は、それ以上突っ込まないで納得してくれたらしい。
深く聞かないのは、それだけオレのことを信用してくれてるから、だよね。
そう思うと、田頭に色々と隠していることに罪悪感がわく。
いずれ話せる日が来たら、ちゃんと全部話すからね。
「ばっつーん!」
ガラリと教室のドアを開けて、塩紅くんが入ってきた。『一緒にご飯食べようよ!』と、持っていたお弁当を軽く上げてこちらに見せてくる。
野菜サンドを抱えながら購買から戻ってきたサクラが、塩紅くんの後ろから近付いて『B組に友達いないの?』と、声を掛けた。
どうもサクラは、塩紅くんがあまり好きではないらしい。
「サクラくんって、副会長のくせに言い方感じ悪いよね」
「はあ?サクラとか呼ばないでくれる?」
そっちかよ!
普通、感じ悪いって言われたことに、まずはツッコむだろ。
「ばっつん、一緒に食べていい?」
塩紅くんはサクラを完全無視して、オレに可愛らしい笑顔を向けた。
ここでいいって言えば、サクラがむくれるだろうし、嫌とか言ったら、塩紅くんが傷付くだろうし。
オレが返事に困っていると、ふっきーがお弁当を持ち上げてにっこりした。
「たまには僕とばっつんと三人でどうかな?ね?雨花ちゃん」
ふっきぃぃぃー!
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