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求愛⑩

✳✳✳✳✳✳ 翌日、ランチ当番の塩紅くんがA組にやって来て、皇と一緒に教室を出ると、どよめきが起こったあと、ため息が聞こえた。 塩紅くんファンのため息かな?塩紅くんって、相当人気あるらしいもんね。 塩紅くんと皇が一緒に出て行ったあと、気付くと隣でサクラが、口を開けたままその場で固まっていた。 「サクラ?」 「……嫌な予感はあったんだ。あいつ、絶対がいくん狙いだと思ってた!」 だから塩紅くんに対して、厳しかったの? オレが『誰を好きになろうが、その人の自由だしね』と言うと、サクラは『はあ?!』と、オレに一歩詰め寄った。 「何?その達観っぷり!その相手ががいくんなんだよ?いいの?!」 「……」 だって、仕方ないじゃん。塩紅くんが皇を好きなのは当然のことだし。鎧鏡家のことは抜きにしても、オレが塩紅くんの気持ちを止めることなんか出来ないじゃん。 「がいくんのこと、好きなんでしょ?!」 「……好きだよ」 「うおおおおっ!デレたあああ!こんな可愛いばっつんがいるのに!毎日とっかえひっかえ違う奴とランチなんかして!がいくんの浮気者っ!天誅だよ!天誅!」 「天誅って……」 「笑ってる場合!?昨日なんか、天戸井と一緒に帰ってこないし!ばっつん以外とくっついたら、僕ががいくんを許さない!」 サクラはぷんぷん怒っている。 詳しい事情を話せないけど、仕方ないんだよ、サクラ。そういうシステムなんだもん。どれだけ大事にされても、自分以外を選ぶかもしれないっていうのが最初からわかってて、オレは……皇を好きになったんだ。 「ばっつん!そんなのんびりしてないで頑張りなよ!……あっ!」 サクラが驚いて見つめた先には、中庭でくっつきながらお弁当を食べている塩紅くんと皇がいた。 「くーっ!絶対、計算!ここからこんなによく見えるところで、あんなくっつきやがって!当てつけだよ!当てつけ!」 そうかな?でもそうだとしても、中庭にいる二人を見て、オレは少し、ホッとしてた。 特別な場所に連れて行ってって、皇におねだりするとか、塩紅くんが言ってたから、どこか特別なところに行くのかと思ってたから……。 「何喜んでんの!ばっつん!」 「え……喜んでるわけじゃ……」 いや、喜んでる、かも。塩紅くんが特別な場所に連れて行ってもらえないことを喜ぶとか……嫌な奴、なんだけど。 「あいつ……双子とか言われてるけど、ばっつんと似てるとこなんて、外見がほんのちょっとだけじゃん!」 「え?」 「え?」 「外見似てる?オレ的には、性格のほうがちょっと似てるとこあるかなって、思ってたんだけど」 自分で言うのもなんだけど、ちょっとおっちょこちょいなとことか、天然って言われるところとか。 「あんなんとばっつんの性格が似てるぅ?!何、寝ぼけたこと言ってんの!」 サクラはそう叫んだあと、自分を落ちつかせるように胸に手を当てて、ふぅっと息を吐いた。 「あいつのこと、深く知ってるわけじゃないけど、僕、人を見る目は自信あるんだ。あいつ、ばっつんににこにこしてるけど、全然友好的な感じがしない」 え?そう?オレは友好的だと思ってたけど……。 まぁ、万が一本当に友好的じゃないとしても仕方ないよ。塩紅くんはオレのこと『いいライバルになれそう』とか言ってたし。 スポーツなんかでのライバルなら、そのまま友情を育めそうだけど、恋敵ってそのあと友達になれるもの? オレ以外の誰かが、皇の奥方様に選ばれた時、オレ、その人と友好的に付き合っていけるのかな? 最終的には、鎧鏡家の奥方様と家臣って間柄になって、一生付き合っていくことになるんだろうけど……。 「……」 そんなことになった時、オレ……それを受け入れられるのかな?受け入れるしか、ないんだろうけど。オレじゃない誰かを選んだ皇を、一生近くで見続けるなんて……。 「ちょっと、トイレ行ってくる」 みんなと楽しくご飯を食べられる気がしなくて、教室を出た。 廊下の端まで歩いて来ても、中庭の二人が見えてしまう。 「はぁ……」 「すーちゃんは、雨花にため息しかあげられない」 「うわあっ!」 藍田っ?! 急に藍田が後ろから声を掛けてきたから、驚いて飛び跳ねてしまった。 「そんな驚かないでよ。ずっと後ろにいたのに」 「なっ……何の用だよ!」 「雨花と一緒に、すーちゃんのラブラブランチ観賞会」 藍田は、廊下の手すりに手をかけて、窓の外を覗きこんだ。 「あれが、晴れ?だっけ?ふぅん。何か安っぽくない?」 「は?安っぽいってなんだよ」 「え?そのまんまの意味」 「塩紅くんは医者の息子だぞ」 「そういう親の肩書きじゃなくてさ」 藍田があきれたような視線を投げてくるから、オレより背が低い藍田に、見下ろされてるような気分になった。

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