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求愛⑪

「あんなすーちゃんでいいの?」 「お前こそ!何でオレなんだよ?他の候補様のほうが全然優秀なのに」 「え?優秀ってどういう意味?」 え?どういう意味? 「……嫁として」 「嫁として優秀って何?床上手とか?」 藍田は笑いながら『すーちゃんって、あんなシュッとしてるけど、絶対むっつりスケベだよね』と、遠くの皇を、指で弾くような動作をした。 確かに、それは合ってる、と、思う。 「雨花はすーちゃんみたいなああいう外見が好みなの?」 「は?外見は別に……重要じゃないし」 皇を指して、外見は重要じゃないとか、てんで真実味ないけど。あんな整ってる人間、そうそういないのに……。 でもそれは本当だ。皇の外見が良いから好きになったってわけじゃない。 いや、外見も……そりゃ好きだけど。それだけが決め手ってわけじゃないから! 「外見は重要でしょう?雨花は自分が綺麗だから、そんなことが言えるんだよ」 「はぁ?」 綺麗とか言うな!オレは男だ! 「僕ももう少ししたらさ、きっとすーちゃんほどではないにしろ、背が伸びてカッコ良くなる予定だから待ってて」 「……」 誰が待つか!外見は重要じゃないって言ってるじゃん! 藍田を無視して教室に戻ろうとすると、藍田がオレの前に手を伸ばした。 「……何だよ」 「あんな、誰を選ぶかわかんないすーちゃんより、僕にしておきなって。僕、本当に大事にするよ」 「何でオレなんだよっ!」 面倒になってブチ切れた。 鎧鏡の嫁候補なら誰でもいいくせに、しつこいんだよ!他をあたれ! 「お前、鎧鏡の嫁候補って肩書き持ってれば、誰だっていいんだろう?」 「そんなわけないだろっ!」 藍田は真剣な顔でオレに怒鳴った。 ちょっ……ビックリ、するじゃん! 「雨花がいいんだ!」 「は?何で?」 「え?何で?えっと……最初は綺麗だなーって思って。それから、何かすげー可愛いって思って。うわーヤりてーって思ったから」 何、サラリと『ヤりてー』とか言ってんだ!こいつは!こんな可愛い顔してんのに! 「ケダモノか!」 「え?どこが?」 「……もういい!そこどけよ」 「もういいって、それ、わかってくれたってこと?」 「は?何を?」 「僕は雨花じゃなきゃダメってこと。……好きだよ、雨花」 うっわぁ……。何、さらっと『好き』とか言ってんだよっ! 別に何とも思ってなくても、ドキドキするじゃんか! 『好き』とか、この前知り合ったばっかのくせに! 「鎧鏡の嫁なんて大変なだけだよ?ともさん見てたらわかるでしょ?だからうちにお嫁においでよ」 ともさん?ああ、そっか。こいつ、母様とも顔見知りなんだ?っていうか、母様は全然大変なんて思ってなさそうだから! 「僕なら絶対雨花に苦労はさせない。一生雨花だけ大切にする」 「一生なんて、よくそんな簡単に言えるな。お前のほうがよっぽど安っぽいじゃん」 「簡単になんか言ってない!」 藍田は、握った拳を壁にぶつけた。 「ちょっ……」 びっ……くりしたぁ! その時、急に後ろから肩を掴まれた。さらに驚いて『ぎゃっ!』と声を上げながら、咄嗟にギュッと目を瞑った。 この香り……。ゆっくり目を開くと、目の前に皇が立っていた。 なんで? 「衣織、雨花に手出しをするなと言うたはず」 何でここにいるの?お前、中庭で楽しそうにご飯食べてたじゃん!塩紅くん、どうしたの? ふと中庭に視線を移すと、塩紅くんがこちらを睨みつけていた。 「っ!」 うわっ! 「誰かさんが安っぽい奴と一緒にご飯食べてるのを、雨花が泣きそうな顔で見てたから、慰めてただけだよ。ね?」 藍田はそう言ってオレに笑いかけた。 「なっ!泣きそうな顔なんてしてないっ!」 「……去ね、衣織。雨花はやらぬ。近付くな」 皇は、オレを抱えるように抱き寄せて、藍田を睨みつけた。 「それって、雨花を嫁に選んだってこと?」 「なっ!」 何を聞いてるんだ!藍田ぁっ!! 「その問いには答えられぬ」 ……だよね。 「じゃあ、雨花に近付くのはやめない。すーちゃんが雨花を選ばないかもしれないなら、雨花だってすーちゃんじゃない誰かを選ぶ権利があってもいいだろ。それが僕でもいいはずだよね」 「……」 身長差は多分……三十センチ近くあると思う。でも、皇よりも全然小さい藍田の威圧感は、皇に全く負けていないように見えた。 「聞いたよ?雨花に手を出そうとしてる奴らを、しらつきグループの名前を使って片っ端から脅したって。上流階級の坊っちゃんばっかのここじゃ、しらつきグループって名前の力は絶大だろうね。権力振りかざすとかするようになったんだね、すーちゃん」 「えっ?!」 それって、オレにぱったり手紙がこなくなった時の話?かな? 「ガッカリだよ。僕、すーちゃんに憧れてたのに」 「……」 「でも、僕にそんな脅しはきかないよ?わかってるでしょ?」 「雨花は渡さぬ」 皇の手に、力が入った。 「渡さない?雨花はまだすーちゃんのものじゃないんでしょう?すーちゃんが雨花に決めてないなら、諦めないよ」 藍田は口を結んで、皇を睨んだ。

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