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求愛⑫
いつまでこの睨み合いが続くの?!と思っていると、藍田がふっと表情を緩めて、外を指した。
「今日のところは、あそこでずーっと睨んでる晴れ……だっけ?に免じて引くよ。このまますーちゃんがあっちに戻らないと、雨花がとばっちり受けそうだしね」
「え?」
藍田、塩紅くんのこと、気付いてたんだ。
「雨花がこんなことでいじめられそうになったら、鎧鏡の嫁候補だろうが、僕、あいつのこと消すからね」
「なっ……」
「すーちゃんは他の嫁候補から、雨花を守るなんて出来ないでしょ?すーちゃんにとって、雨花とあいつは同じ嫁候補だろうけど、僕にとっては、全然違う。雨花のことは、僕が守る」
「……」
「すーちゃん、早く戻ってあげなよ。僕も行くからさ。あいつが消されても、雨花のところにいたいって言うなら、止めないけど」
そう言うと、藍田は本当に行ってしまった。
「……衣織に何をされた?」
「何にも、されてない」
つっけんどんな言い方になってしまったのは、藍田の言葉に動揺したのと、未だに塩紅くんが、こちらを睨んでいるからだ。
せっかくのランチ当番の時間を奪われたーって、この前オレも藍田のこと、ムカついてたじゃん。
塩紅くん、ランチ当番をすごく楽しみにしてたし……相当、怒ってる?
……オレに?……なのかな?
「本当に、早く戻らないと」
促すように皇の腕を押すと、ジッとこちらを見た皇が、オレの両肩に手を置いて強く押し下げた。
オレは抵抗する間もなく、ストンっと廊下に膝をつけた。
「なっ、にす……っ!」
皇に文句を言おうと見上げると、オレの肩を掴んだまま見下ろしていた皇が、ふっとキスをした。
「っ!」
咄嗟に塩紅くんの顔が浮かんで、廊下の窓に目を向けると、今は視線よりも高い位置にある腰高窓からは、空だけが見えていた。
「あ……」
そっ、か。窓の下にしゃがみこまされたこの位置じゃ、塩紅くんから、見えるわけない。
「誰も見てはおらぬ」
「……」
「そなたを守るのは……余だ」
胸が……ギュウッと絞めつけられた。
「教室に戻れ。一人になるでない」
「……ん」
オレの手を引いて立ち上がらせた皇は、汚れを払うように、オレの膝を叩いた。
そのあと、オレが教室で田頭たちと一緒になったのを見た皇は、ふいっと行ってしまった。
「……」
「ばっつーん!ご飯食べてないよね?うんうん。早く食べちゃいな?」
すぐに話しかけてきたサクラは、気持ちが悪いくらい機嫌がいい。さっきまであんなに塩紅くんのこと怒ってたのに。
「え?あ……うん」
「そうだよね。ご飯より先にばっつんが……あ、いや……」
「ん?」
サクラはしばらく身悶えたあと『ああ!黙っていられないっ!』と、椅子から立ち上がって、オレの目の前に携帯電話を突き出した。
携帯の液晶画面には、廊下に膝を付けるオレの後ろ姿と、そのオレにキスしようとしている皇の姿が写っていて……。
「っ?!」
「はあ……ヤムヤムヤミー!」
そう言ってサクラが画面を操作すると、キスしそうになってから終わるまでの一連の写真が、次から次へと……。
連写ぁ?!
「これでGIF作って、エンドレス再生するんだ!あ!でも僕、家じゃないと作れない!そだ!かにちゃんなら今出来る!」
かにちゃん?!
「ちょっ!やめ!かにちゃんにまでバラすな!」
「え?かにちゃん、がいばつ知ってるよ?」
「は?!」
「っつか、がいばつを邪魔するものは、なんぴとたりとも許さない!」
前と同じヒーロー的ポーズを決めたサクラが、携帯を取り上げようとしたオレの中指を噛んだ。
「ぎゃあっ!」
なんぴとたりともって、オレもかよ?!
サクラはかにちゃんにGIF作成を依頼し、かにちゃんは『高いぞ?』と、普通に請け負った。おーい!
「いいよ。きみやす以外なら何でもあげる」
「ははっ!」
「照れてる場合か!田頭!サクラを止めろ!」
「いやぁ、こればっかりは止められないだろ?」
弱っ!田頭、サクラに弱っ!
かにちゃんが要求したのは、かにちゃんが『嫁』と呼んでいるアイドルが所属するグループのコンサートチケットだった。
サクラのうちの会社は、そのアイドルグループに衣装提供しているらしい。
サクラはそれを快諾して、二人は教室を出て行った。
「うあああっ!」
「まぁまぁ、悪用はしないだろうから」
そう言った田頭に肩を叩かれたけど……。
「そういう問題か!」
何が『誰も見てはおらぬ』だよ!一番面倒臭い奴に見られてるじゃん!
……でも。
「あの写真、絶対流出させるなよ!」
「ははっ。それくらいなら任せとけ」
あの時皇にキスされて……動揺が全部吹っ飛んだ。
サクラに見られてたのは、めちゃくちゃ恥ずかしいけど……さっきのことを忘れたくないし、なかったことには、したくない。
なんで中庭でお弁当食べてたくせに、さっき廊下にいたんだよ?
藍田に絡まれてたオレのこと、わざわざ助けに来てくれた……なんて、そんなこと、あるわけないか。
それでも……嬉しい。偶然でも、困ってたオレを見つけて助けてくれたのが、皇って、ことが。
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