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愛しい気持ち①

4月25日 晴れ 今日は……オレに渡りがあると思われる日……です。 月曜日、駒様に渡りが伝えられてから、今日で五日目。 今日、皇はオレのところに渡ってくる……と、思う。 相変わらず五番目なのは変わらないんだなと思いつつ、オレはすでに、それを当然のように受け入れている。 側仕えさんたちにとっては、ものすごーく久しぶりの『若様のお渡り』だ。 三月の梅ちゃんの誕生日以来だから、一ヶ月以上ぶりになる。 実際のところは、学校で、その……しちゃってるから、その……シてないって訳じゃ……ないんだけど。 渡りの伝達は、夕方以降に来ることが多い。朝から渡りが伝えられることは稀だ。 まだ渡るという伝達は来ていないのに、すでにウキウキしている側仕えさんたちの空気感の中、恥ずかしさで俯きながら朝ご飯を食べて、学校に向かった。 昼休みのチャイムが鳴ると、皇はランチ当番のふっきーと一緒に教室を出て行った。二人と入れ違いに塩紅くんが教室に入って来て『ばっつん!一緒にご飯食べよ!』と、お弁当箱をフルフル振って見せた。 っていうか……昨日ランチ当番を邪魔したオレのこと、怒ってるんじゃないの? 人に嫌われるのは、慣れてない。 いくらそれが、皇を取り合うライバルだろうが、昨日あんな風に塩紅くんに睨まれて、ずっと胸がザワザワしていた。 「え?オレと?」 「うん」 ニッコリ頷いた塩紅くんは『天戸井の話聞いてよ』と、耳打ちしてきた。 嫌われたわけじゃないんだと、ホッとした気持ちになって『うん』と、お弁当を持って席を立った。 うるさそうなサクラは今、購買に行っている。 サクラが帰ってくる前に早く教室を出ようと、オレは急いで田頭に、塩紅くんと一緒にご飯を食べると伝えて、生徒会室直通エレベーターに乗った。 生徒会室棟なら、どこかしらの部屋か空いているはずだ。 五階でエレベーターを降りると、生徒会室のあるフロアは、シンと静まり返っていた。 たまに、委員長たちや部長連中が、ここで作業をしながらお昼ご飯を食べていたりするんだけど、今日は誰もいないらしい。 塩紅くんと二人で、生徒会室でお昼を食べることにした。 「天戸井くんに何か言われたの?」 「聞いてよっ!」 塩紅くんはソファに座ると、荒々しい手付きでお弁当を開いた。 オレもお弁当を開いて『いただきます』と、手を合わせた。 塩紅くんに、食べられない分は捨てたら?なんて言われた日、ふたみさんにお弁当を減らして欲しいと、思い切ってお願いした。 ふたみさんは特に何ということはなく『雨花様には多いかとは思っておりました』と、笑ってくれた。 お重弁当は変わらないけど、中身はオレが食べ切れる量になっていた。 さすがふたみさんっ! 「うん。何て?」 「今日、天戸井のとこにお渡りがあるって、わざわざ俺のとこに言ってきて!」 「えっ?!」 何……言ってんの? 「あいつ!俺より先にお渡りを受けるって、自慢してきたんだよっ!」 「……」 嘘だ。 「ばっつん?」 嘘だよ。 「……」 何で? 「そっか、ばっつんもあいつに抜かされたってことだよね?わかる!ショックだよね!オレも同じだからさー」 何でそんな嘘言うの? 「……」 だって今日は、皇、オレのところに来るはずじゃ……。 「順当にいったら今日はばっつんの番になるはずだよね?天戸井に負けた者同士、慰め合おうねー!」 「……」 ホント……なの? 「お渡りって、駒様から始まるって言うから、順番が決まってるんだと思ってた。でもばっつんより天戸井が先ってことは、違うんだね?」 いつ誰に渡ったのかとか、聞いたことなかったからわからないけど、いつも渡りが再開された五日目に、皇はオレのところに渡って来てたから、順番通りだったと思う。 この前までは……。 天戸井くんがランチ当番だった日、皇が午後の授業に出なかったことが、すぐ頭に浮かんだ。 「確かにさ、天戸井は見た目は綺麗かもしれないよ?見た目はね。だけど性格悪いよね?あいつ」 オレのことを抜かすくらい、天戸井くんのところに、早く、渡りたいって……こと? 「……」 その後、お弁当を食べながら、塩紅くんは何やら力説してたけど、適当な相槌を打っていただけで、内容は何一つ頭に入って来なかった。 もう駄目だ……って、どんどん落ちていく自分の気持ちを、どうしたらいいのかわからない。 吐き気がするくらい、気分が悪い。 上手く説明出来ないモヤモヤした気持ちが、頭の中をゴチャゴチャにして、昼休みが終わるのを待たずに、忙しいからと言って、塩紅くんと生徒会室を出た。 戻った教室には、まだ皇の姿は見えない。 オレが教室に戻ったのに気付いたサクラが、何かワーワー騒いでいたけど『ごめん』と言って、すぐに教室を出た。 「……」 教室を出ては来たけど、どこに行ったらいいんだろう? 自分でも何がしたいのかわからない。ただ胸がつかえて、苦しくて、気持ちが悪い。 どうしたらいいのかわからないまま、また生徒会室に向かうエレベーターのボタンを押した。 一人に……なりたい。 「雨花」 「っ!」 少し前まで、オレを『雨花』って呼び捨てにするのは、皇だけで……。 声が違うのはすぐわかったはずなのに『雨花』って呼び掛けに咄嗟に振り向くと、そこにいたのは、藍田だった。

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