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愛しい気持ち③
「雨花ちゃんが言ってるその順番って、いつもの並び順のこと?僕は三番目ってことかな?」
ふっきーは笑いを堪えてるのが、バレバレだ。
『そうだとしたら、僕のところに三番目に来ることのほうが少ないよ?僕がお誓様の先になることもあるし、梅ちゃんの後になることもしょっちゅうある。雨花ちゃんのとこには、ちゃんと順番通り渡ってたの?すめ』と、また吹き出した。
『うん』と頷くと『そっか』と笑って、またオレの肩をポンッと撫でた。
「えー、僕も今度すめに言ってみようかな?先に梅ちゃんのところに渡るなんて!って。あははっ」
「……」
完全にバカにされてる!
楽しそうなふっきーをじーっと睨んでいると、ふっきーは『あ、ごめんごめん。雨花ちゃんがあんまり可愛いこと言うから、楽しくなっちゃった』と、笑った。
「笑い過ぎ!」
「あははっ。ごめんね」
みんなも順番通りじゃないのはわかったけど……でもそれは、皇がオレを抜かして、天戸井くんに先に渡る理由じゃない。
落ち込んだままでいるとふっきーは『まだ何かあるの?』と、首を傾げた。
「順番が関係ないのはわかったけど、結局オレ……抜かされたんじゃん」
もしかしたら、この前の昼休み、皇と天戸井くんは初めてそんなことになって……天戸井くんのことが、すごく気に入った……とか?!
皇、嫁とは体の相性がうんぬんとか言ってたし。もしかして、天戸井くんとすごい相性良かったとか?!
オレが妄想でどんどん落ち込んで行く隣で、ふっきーが『ああ!』と、何かを思い出したような顔をした。
「そう言えばすめ、雨花ちゃんが忙しいの気にしてたよ。生徒会の予定表を見ながら」
「え?」
「それでじゃないの?雨花ちゃんを抜かしたのって。総会まで忙しいんでしょう?」
総会まで忙しいって、オレ、この前皇に話した。
オレが忙しいから渡らないってこと?渡りを抜かしたのって、オレのため?
そういえば学祭の時も、忙しくしてたオレのところに、しばらく渡らなかったことがあったっけ。
でも……。
「違うよ。きっと皇、天戸井くんに早く渡りたいんだよ。この前の天戸井くんのランチ当番の時だって、皇、ずっと帰って来なかったじゃん」
「え?雨花ちゃんの時だって、帰って来なかったでしょうが。楽様の時は探し物をしてたって聞いたけど、雨花ちゃんの時は何を……」
「ちょっと待った!探し物?!」
探し物をしてたって言った?!
「え?うん。楽様の時の話?あれ?聞いてない?楽様が落としたお守りをずっと探してたって」
「はあっ?!」
何それ?え?ヤッてたんじゃないの?
「あれ?知らなかった?」
「知らなかった」
ヤってたと思い込んでたとか言えない。それが落し物を探してただと?!何だよ!そのオチ!本当なの?
いやいや。それでもオレを抜かして、天戸井くんのところに渡るのは、天戸井くんが気に入ったからなんじゃないの?だって、二時間も天戸井くんのお守り探すとか……。
「いや、でも、天戸井くんのために、二時間お守りを探し回ってたってことでしょ?」
そういう、その……いかがわしいことをしていたわけじゃなくても、天戸井くんのために、二時間探し回ってたなんて、やっぱり天戸井くんのことが気に入ったからじゃないの?
「楽様のため?そうかな?落としたのがサクヤヒメ様のお守りだとか言われたら、そりゃあ二時間でも三時間でも探すんじゃないの?鎧鏡家の若様としてはさ」
ふっきーは腕を組んで頷いた。
えっ?サクヤヒメ様のお守りだったから、ずっと探してた?
いや。いやいや、でも……そうだとしても、それだけじゃ、オレのために渡りを抜かしたって答えにはならないじゃん!
っていうか、だいぶ気分は浮上してるけど……。
「で?」
ふっきーは、ニッコリ笑って首を傾げた。
「え?」
「雨花ちゃんのランチ当番の時は、何をしてて遅れたの?すめ、教えてくれなかったんだけど」
「えっ?!」
何って……。
「ん?」
「えっ……と」
変な汗が出てきた。
「言いづらいことなんだ?へー。もしかして、いかがわしいこと?」
「っ!」
「あははっ!なーんてね。あるわけないよね。言いづらいことは聞かないでおくよ」
ふっきーはオレの肩をポンッとすると、思い出したように『順番通りに渡るすめ』と言って、また吹き出した。
それ、ツボに入ったんだね?どこが面白いのか、オレにはよくわかんないけど。
って言うか、それより……。
いかがわしいことがあるわけないって……どういうこと?
完全にいかがわしいこと……した、と思うんだけど。違うのかな?ああいうの、鎧鏡一門的にはいかがわしいこととは言わないのかな?
『あるわけない』の意味を聞けないまま、ふっきーと一緒に教室に戻った。
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