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愛しい気持ち④
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生徒総会の準備は、予定通り順調に進んでいる。
今日はここまでで帰ろうという時、今朝の側仕えさんたちのウキウキ感を思い出した。
「はっ!」
「どしたの?ばっつん?」
「あ……ううん」
今日、うちの側仕えさんたちは、オレのところに渡りがあると思っているはず!それなのに、今日皇が天戸井くんに渡ると知ったら……側仕えさんたち、ガッカリするだろうなぁ。
「はぁ……」
「大丈夫か?ばっつん」
「あ、うん」
「ここんとこ毎日だから疲れたか?でもサクサク進んでるからさ。29日の祝日は、予定通り休もうな」
「ああ」
いや、田頭。ありがたいけど疲れてるわけじゃないんだよ。
あー、どうしよう……。って、どうにも出来ないけど。今日、天戸井くんに渡るとわかっても、みんな落ち込まないといいんだけど……。
もうすぐ七時。早ければ、そろそろ皇が渡ってもおかしくない時間だ。
オレは側仕えさんたちが心配で、焦りながら屋敷に戻った。
「おかえりなさいませ、雨花様」
「おかえりなさいませ!」
「た、だいま……戻りました」
迎えに出て来てくれた側仕えさんたちのテンションが高い。
え?もしや、まだみんな、今日皇がオレのとこに渡ると思ってる?あああああ!どうしよう。
「雨花様、29日の火曜日は、予定通り生徒会もお休みということで大丈夫でしょうか?」
いちいさんが、オレのカバンを受け取りながらそう聞いた。
「え?」
29日の火曜日?あ、そういえばさっき、予定通り休もうって、田頭が言ってたっけ。
生徒総会前だけど、29日の祝日くらいは休もうってことになって、学校も生徒会も休みの予定になっていた。
「あ、はい。休みです」
「良かったです。では若様にそのようにお伝え致しますので」
「え?」
若様に?え?皇に?
「先程、若様よりご連絡頂きました。火曜、雨花様が予定通り休めるようなら、月曜に渡っていらっしゃるとおっしゃっておいででした」
いちいさんは、オレが渡した生徒会の予定表を、ピラリと取り出した。
「えっ?!」
月曜日、渡る?!
「雨花様はここのところ、本当にお忙しいですから。土日もお休みなく生徒会のお仕事でいらっしゃいますし、こちらに帰っていらっしゃれば高遠先生の授業で……。お休み前日のお渡りでしたら、ごゆっくり出来ますでしょう。私共もそのほうが安心でございます」
いちいさんは『さすが若様ですね』と、ニッコリした。
「お渡りの翌日は祝日ですので、お毒味役様もいらっしゃらないでしょう。万が一に備えて、若様のご朝食の準備も、抜かりなくせねばなりませんね」
いちいさんはもう、ウキウキだ。
はあー……良かったあ。側仕えさんたちが、ガッカリしないで。
皇がそんな連絡をわざわざしてくれたなんて……。
皇……ホントにオレのために、渡りを抜かしてくれたんだ。
うわあ……にやける。
けど、朝ご飯は一緒に食べないよな、多分。
いちいさんがウキウキしてるとこ、申し訳ないんだけど。
「あの、いちいさん?皇、朝は一緒に食べないと思います。前、うちで朝食を食べた時、家臣団さんたちに注意されたみたいで……一人だけ優遇しないようにって」
「……」
そう言うと、ウキウキしていたいちいさんが、急に立ち止まった。
「いちいさん?」
「……あ。失礼致しました。そのようなことまで、家臣団が口を出すとは……」
「え?」
「いえ。……雨花様は何の心配も要りませんよ」
いちいさんはニッコリすると『今夜はうなぎですよ』と、笑った。
うなぎ……。きっと、今夜皇が渡ると思っていたからだろうなぁ。恥ずっ。でもこんな風に準備してくれてた側仕えさんたちを、ガッカリさせないで良かった。
皇……月曜日に、来るんだ。
「はあー……」
嬉しくて、ドキドキする胸を鎮めるように、大きく深呼吸しながらダイニングに向かった。
月曜の朝、学校はいつもより明らかに閑散としていた。
この土日から、自主的にゴールデンウィークに突入した奴らが多いらしい。みんな、海外とか行ってるんだろうなぁ。
でも……オレに、休みの奴らが羨ましいとか、そんな気持ちはさらさらなかった。
だって今日は……。
「ばっつん、おはよー」
振り返ると、見るからに南国風な小物を持ったサクラが立っていた。
……休みたいんだね、サクラ。わかりやすっ!
「おはよ」
「僕も早くバカンスに行きたい!とにかく今日はガツガツ仕事して、明日は絶対休むよ!ばっつん!」
「おー!」
「え?珍しくばっつんがノリノリ」
あ。つい張り切ってしまった。恥ずっ!突き上げた拳を、急いで下ろした。
「何?何?明日、何かあるの?」
「なっ!ない!ない!なんもない!」
「ええー?うっそーん。何かあるんでしょう?」
「ないってば!」
サクラは執拗に聞いてきたけど、ホントに明日、何かなんてない。
だって"何か"があるのは……明日じゃなくて、今日、だから。
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