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愛しい気持ち⑤

明日、生徒会は完全に休みになる。 そのため、いつもより長く委員長たちや部長連中と、総会やら体育祭の打ち合わせをした。 そろそろ終わりにしようかという時『チーン』と、エレベーターが止まる音が聞こえてきた。 遅いから先生が様子を見に来たのかと時計を見ると、ちょうど七時になったところだった。 いつの間にやら、もう七時だったんだ。皇、何時くらいに来るんだろう?いつも九時くらいが多いよね?今日は高遠先生の授業をお休みにしてもらったから、もっと早くても全然いいのに……。 そんなことを考えていると、生徒会室のドアが、ノックもなくおもむろに開かれた。 急に開けられたドアに、生徒会室にいたみんなが一斉に注目すると、全員の視線が注がれたドアの向こうに、皇が立っていた。 「え?」 何で? 打ち合わせをしていたみんなが、一様に不思議な顔をした。 オレも同じくポカーンなんだけど。 いや、こいつなら、ドアをノックせずに部屋に入るのは理解出来る。だけど……ここで何してんの? 「まだ、かかるのか?」 皇は腕を組みながら、唐突に田頭にそう聞いた。 「え?何か用事?」 さすがの田頭も、ポカーンとしている。 「迎えに来た」 「えっ!?俺を?」 田頭が自分を指差した。 んな訳あるか!……って、確かに皇、田頭に向けて言ってたけど……。 え?違うよね?オレ……だよね? でも何で?わざわざ迎えに来るなんて……。 「がいくんがきみやすを?!」 サクラが机をダンッと叩いて立ち上がった。 いやいや、本気でそんな心配すんなって。 ……って、えっ?!違うよね?皇、オレを迎えに来たんだよね? 「きみやすとがいくんだなんて!どっちが攻めるか問題になるじゃん!若干そんな揉め合い、見たいけど!」 見たいのかい?!っつか、どっちが攻めるか問題になるって、ちょっと待って!え?皇が迎えに来たのって、オレ、だよね? 「はいはい。どんどんややこしくなるから、ばっつんは早いとこ、がいくんと帰りな?」 かにちゃんは、オレの資料をささっとまとめて差し出した。 「あ……」 オレ……で、いいんだよね? 皇をチラリと見上げると『カバンは?』と、睨まれた。 「あ……あれ」 部屋の隅の机の上に、無造作に置かれたいくつもあるカバンを指すと、皇はその中から、迷うことなくオレのカバンを掴み上げた。 うわ……オレのカバン、わかってるんだ? 「ちょっと待った!迎えに来たって何?!」 サクラが、また机を叩いて立ち上がった。 「え?」 「そうかそうか!そうですかー!謎は解けましたよ!ばっつんがさっきから、ものすごいウキウキしてた理由が!はいはい!明日は何にもないって言ってたけど、明日じゃなくて、今日!何かがあるのは今日!どうですかー?んー?」 「ちょっ!」 ウキウキしてたとか!皇の前で何言ってくれちゃってんだよ!サクラー! 「ほら、どんどん盛り上がってうるさいから、早く行きな?」 かにちゃんに背中を押されて、皇と二人、生徒会室を追い出された。 『こんな時間にばっつん迎えに来てどこ行くのー?!がいくーん!』と叫ぶサクラの声が、エレベーターの扉が閉まるまで聞こえていた。 「……何してんの?」 サクラの話は完全無視!ウキウキしてたとか……恥ずっ!もー!そんなん、無視!無視!それより、ホント何してんの? 「こちらの台詞だ」 オレのカバンを持ったまま、皇はオレをギロリと睨んだ。 「は?」 「今日、そなたに渡ると前々より伝えておったはず。聞いておらぬのか」 「え?ううん。聞いてた」 だからウキウキしてたんじゃん。 「だのに、何故屋敷におらぬ?」 「は?まだ七時じゃん。何時に来るとか聞いてないし」 え?遅いから迎えに来たってこと?だって、七時あたりに来ることなんて、そうそうないじゃん。 皇はまたオレを睨み付けると、一階に着いたエレベーターから降りて、オレの手を強く引いた。 皇にグイグイ引っ張られて、迎えの車に押し込められた。 何だよ!すごい……嬉しかったのに!そんな怒ることないじゃん!そもそも渡りの時間も知らせて来ないくせに、いないとか怒るなんて、お前の都合ばっか押し付けんな! 「……」 車が走り出しても、ムッとしている皇に、オレもムッとしたまま黙り込んでいると『これよりそなたの門限は七時だ』と、腕を組んで睨んできた。 「はあ?」 門限?!生徒会の行事が入る時は、余裕で七時なんか過ぎちゃうよ! 「七時を過ぎる場合は連絡致せ」 「誰に?」 「余だ」 「連絡先知らないもん。お前が教えてくれないから!」 皇はさらにムッとして、隣に座るオレを睨んだ。 ふーんだ!怖くないもんね!と思っていると、皇はオレの腕を掴んで、胸に引き寄せた。 「っ!」 強く当たった皇の胸から、トクトク、心臓の音が聞こえて……ムカついてた気持ちが全部……何か、キュウって……溶けてった。

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