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愛しい気持ち⑬

✳✳✳✳✳✳✳ 「雨花がお前に礼を欠いたと悔やんでおる。雨花は余の言いつけを守ったまでのこと。……雨花が欠いたという礼は余が詫びる。すまなかった」 オレたちが屋上に着いてすぐ、藍田も屋上にやって来た。 藍田が目の前に来るとすぐ、皇はそう言って、藍田に頭を下げた。 「本当に、ごめん。心配してくれたのに、色々酷いこと言って」 そう言ってオレも、皇と一緒に頭を下げた。 「すーちゃんが僕に頭を下げるなんて……」 そう言って藍田はごくりと喉を鳴らした。 この二人の関係性って、いったい……。 皇、藍田には謝ったりしなかったのかな?本当の兄弟みたいな存在なら、そうなのかもしれない。喧嘩したっていつの間にかまた仲良くなってて……。はーちゃんとは年が離れてたけど、そんな感じだったもんね。 「っつか僕、雨花のこと怒ってないし。可愛い八つ当たりされて喜んでたくらいなんだから、謝らないでよ。すーちゃんからの謝罪を受ける義理はないけど、思う壺な気がするから、ムカつくけど受けとくよ」 そう言った藍田の言葉に、皇がふっと笑って頭を上げた。 「かたじけない。……これで謝罪は終わりだ。これ以上雨花に手を出せば、お前を全力で潰す。そのつもりでおれ」 そんなことを言う皇は、何だか苦しそうに見えた。 「ふぅん。何か余裕だね。ま、せいぜいそうやって余裕ぶってればいいよ」 藍田は『僕は雨花だけ見てるから、雨花の小さい変化にも気付ける。すーちゃんには無理だろうけどね』と言って、オレの足を指差した。 「足、痛いんでしょ?」 「っ?!」 痛い。確かに、足だけじゃなくて、腰とかお尻とか……もー、体中痛い!誰かさんのせいで……。 隣の皇を見上げると、伺うような顔でオレを見下ろしてたから、藍田の言うとおりだという意味で、何度か小さく頷いた。 「でしょ?ほら。こういう事の積み重ねって大事だと思わない?」 「……思わない」 オレにとっては、そんなの大事なことじゃない。 「え?」 「心配してくれて、ありがとう。足は大丈夫だから。じゃあね」 皇の手を引いて、エレベーターに乗った。 「……良いのか?」 「何が?」 「いや……良い」 皇は『やはりそなたには勝てる気がせぬ』と、オレをギュッと抱きしめた。 まだ誰も来ていない朝の教室は、空気がひんやりしてる。 もう昼間は汗ばむくらいの陽気だけど、朝方はまだまだ寒かったりするからなぁ。 「そなた、足は大丈夫なのか?気付かずにおった」 藍田の言ったこと、気にしてるのかな? 「あ、うん。……誰かさんのせいで筋肉痛なだけだし。ホントに辛いなら、ちゃんと言ってる。そういうのちゃんと言うって、約束しただろ」 「……そうか」 「藍田が言ってたこと、気にしてるの?」 「……ああ」 「気にすることじゃないのに」 皇がオレの小さい変化に気付かなくたって、そんなの全然構わない。知ってて欲しいことは、オレが伝えればいいだけだ。 何も言わずにわかって貰えることより、伝え合えることのほうが、オレはずっと大事なことだと思うよ? ……ちょいちょい素直になれないオレが言うのもなんだけど。 「それより……ありがと。藍田に謝れた」 一番窓側の、一番後ろの席に座った皇に近付いて、そうお礼を言った。 皇、オレのこと気にしてくれてたんだよね? 渡りのあと、夜中にわざわざいちいさんのところに連絡してくれたって聞いた時……寝不足が吹っ飛ぶくらい……嬉しかったよ。 「ああ。気が済んだか?」 「うん。……皇?」 「ん?」 「藍田のこと、怒ってないよね?」 「これ以上下手な手出しをすれば、容赦せぬ」 そんなこと言って、本当はそんなふうにしたくないの、バレバレだよ? 「大丈夫だよ」 「ん?」 「そんなことにはならないよ」 「何故わかる?」 「お前が大事に思ってる”弟”だから」 「あ?」 皇は、今も藍田を大事な弟みたいだと思ってるよね?全力で潰すなんて言いながら、苦しそうな顔をしてるくらいだもん。 皇が藍田と揉めるようなことには、絶対したくない。 オレがしっかりしてれば、大丈夫だよね。先輩の時みたいには、絶対にしない。 オレ……皇が藍田のことを大事に思ってるってわかった時、すごく、嬉しかったんだ。 皇が雨を好きな理由は、お館様と母様が屋敷にいたからとか……駒様を思って泣かなくなったとか、皇が誰かを大事に思っていることを知れるたび、すごく……嬉しくなる。 「大丈夫だよ」 椅子に座る皇を、ぎゅうっと胸に抱きしめた。 皇が大事だと思ってる人は、ずっと大事な人のままでいて欲しい。 今大事だって思ってるもの、いっこも減らさないで欲しい。 藍田は皇が信じてる人なんだから……きっと大丈夫だよ。 「不思議だ。そなたの大丈夫なぞ信じておらぬつもりでおったが……その気になる」 「お前、酷いよね?大丈夫だってば」 「……そうか」 皇……オレ、何かを大事にしてるお前が……ものすごく……愛しいんだ。 目を合わせた瞬間、どちらからともなく……唇を重ねた。

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