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りぷれい①

5月9日 晴れ 今日は、絶好の体育祭日和です。 「選手宣誓!運動部総括、二年A組繁木深英(しげきみよし)!」 「はいっ!」 つい先日の生徒総会で、体育会系部のトップにあたる『運動部総括』に就任した梅ちゃんの選手宣誓で、体育祭が開幕した。 生徒会役員として本部席前に立っているオレにも、梅ちゃんが出て来た途端、生徒席がざわついたのがわかった。 生徒総会の時も、梅ちゃんの紹介の時、すっごいざわついたもんなぁ。 梅ちゃんの外見が、一般的な運動部総括のイメージとかけ離れてるからだろう。可愛い過ぎるもんね。 あの外見で運動部の猛者たちを総括出来るのかってことなんだろうけど、オレは誰より適任だと思ってるよ、梅ちゃん。 午前中の競技が始まった。 体育祭での生徒会役員の仕事の一つに、来賓の受付というのがある。 オレが一人で来賓受付席に立っていると、後ろから塩紅くんに『ばっつん、体調はもう大丈夫なの?』と、声を掛けられた。 塩紅くんと会うのは久しぶりな気がする。 「え?……うん。全然、元気」 だけど……なんでそんなこと聞いてくるんだろ?具合悪いなんて言ってたっけ? 「そう?俺の初めてのお渡りの日、ちーくん、誰かさんの看病をしてて寝てないって、速攻帰って行ったから、相当具合が悪いのかと思ってた」 オレに近付いてそう耳打ちした塩紅くんは、ちろりとオレを睨んだ。 看病してて寝てない?!よく言うよ! 「そう、だったんだ」 「候補の誰にでもそうしないといけないんだろうね、ちーくんって。俺も倒れた時、遠慮しないで付いててもらえば良かった」 「……そっか」 こんな話を聞くと、皇との秘密が持てたって嬉しくなる反面、オレにもそんな嘘をついていることがあるのかもしれないって、不安になる。 でもオレが塩紅くんの立場なら、他の人と一晩中ヤッてて寝てないから早く帰りたいなんて、本当のことは知りたくない。 看病してたって、嘘をついて欲しい。絶対わからせないように、ずっと嘘をついてて欲しい。 「元気なら良かった。そういえば梅様、可愛かったね、選手宣誓」 「ああ、うん」 「まさか梅様が運動部総括になるなんてビックリしたよ、生徒総会」 「オレは適任だと思うけど」 「ふぅん。梅様ってただちょっと運動神経が良くて見た目が可愛いってだけの子だと思ってた」 「全然違うよ。梅ちゃんは見た目は可愛いけど、すごくしっかりした人だよ」 「へぇ。……そういえばうちの生徒総会って、すごいんだね。初めて見たよ、生徒総会に花が贈られて来る学校なんて」 「あぁ、うん」 生徒総会に、親交のある学校やら、保護者、生徒、その他関係各所から『生徒総会開催祝い』という名目で花が届くのは、毎年のことらしい。 生徒総会は、生徒会が全てを仕切る行事だ。生徒会役員にとって、一番の見せ場ではあるんだろうけど……それにしたって、たかだか高校の生徒総会に花が贈られて来るとか……。 まぁ、講堂から校門までの長い道のりが花で埋め尽くされている様は、すごく華やかで、見てるだけでウキウキしたけどさ。 「置いてあった花の立札、鎧鏡って書いてあるのが多くなかった?」 「あ、うん。そうだったね」 総会開催祝いの花がどれだけ贈られるかで、その年の生徒会の人気度がわかるのだと、サクラが言っていた。 今年は特にすごかったらしい。 その半分近くが、鎧鏡家から贈られてきた花だった。 総会が終わったあと、贈られた花を生徒会室棟にみんなで運んでみたんだけど、全部を置けるわけもなく……置けない花は、オレが貰って帰ることにした。 皇が贈ってくれた花だと思うと、自分で持ち帰って、なるべく長く咲かせてあげたかったから。 ってことで、総会から一週間経った今も、梓の丸は花だらけだ。 「ふぅん。梅様の運動部総括就任祝いか。総括に就任するってすごいことなんだね」 「あ……ぅん……そう、だね」 もちろん、梅ちゃんの就任祝いの花もあるとは思う……けど。 生徒総会の翌々日だったか、花だらけになってるオレの部屋に皇が渡って来て『そなたの晴れ舞台を飾る花があれでは少なかったか?』って言って、笑ってた。 だからあの花は、梅ちゃんへのお祝いってだけじゃなくて、オレへの祝いの花だって……あったと、思うよ? いや、絶対あった! 「ねぇねぇ!そんなことよりさ!ちーくんの流鏑馬!」 「ああ」 そんなことよりって……オレには生徒総会は、重要事項なんだけど。 でも塩紅くんがそう言うのもわかる。 総会翌日の五月三日に、鎧鏡家の年中行事である『田植え祭り』が行われた。 今年のお米の出来はどうか、流鏑馬(やぶさめ)で占うのがメインの行事だ。 その流鏑馬の最後の射手が、皇だった。 もう何って……オレもその日の記憶は、皇の流鏑馬しか残ってない。 だってものっっすごおおおく……カッコ良かったから。 あれを見ちゃったら、生徒会に関係ない塩紅くんには、総会なんて”そんなこと”だよね。

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