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りぷれい②
「馬に乗るちーくんとか、めちゃくちゃかっこ良かったよね!俺も乗馬習おうかなぁ?鎧鏡家なら敷地内で十分遠乗り出来るよね?」
「ああ、そうかもね」
「ばっつんは直臣衆のご子息様だし、当然乗馬も出来るんでしょ?」
「え?!」
鎧鏡の直臣衆って、乗馬が出来て当然なの?確かに、そういうイメージがあるのは何となくわかるけど……。
小さい頃からコロコロ変わる父上の趣味に付き合わされて、色んなことをさせられて疲れるー!とか思ってたけど……。
もしかしすると父上は、直臣衆として必要だと思ってたから、オレに色々な経験をさせてくれてたのかも。
「あ、ごめん。出来なかった?直臣衆のご子息様なら乗馬くらい出来て当然なのかと思ってた。ごめんごめん!でもそれが一般的だよね」
「あ……うん、乗馬出来ますって言っていいのか……」
「え?」
「日本では馬に乗ったことなくて……日本の乗馬って、どういうことが出来たら出来ますって言っていいのか……」
フィレンツェにいた頃、父上の休みたびよく馬に乗りに行っていた。
はーちゃんも、その頃はまだ一緒に住んでいて楽しかったなぁ。
ブドウ畑とかオリーブ畑の周りを馬で走って、チーズ作ったり、トリュフ狩りしたり、外で料理作ったり。
「は?日本では?」
「あ、うん。日本では、じゃないか。フィレンツェでしか乗ったことなくて。それも遊びでだし。乗馬っていうか……」
何か、乗馬が出来ますっていうのも気が引ける。馬には乗れるけど、父上に教わって遊びで乗ってたってだけで、ちゃんと習ったわけじゃないし。華道なんかみたいに、乗馬にも級とか段とかあるとしたら、オレはそんなの何にも持ってないし。
その時、来賓の方が一人来て、対応をしている間に、塩紅くんはいなくなっていた。
乗馬が出来ますっていうのは、皇みたいなことを言うんだ、きっと。
田植え祭りの時の皇の流鏑馬……本当にすっごくカッコ良かった。
馬に乗りながら弓を射るなんて。オレも別々にだったらどっちもやったことあるけど、両方いっぺんになんて、絶対無理。
ホント皇って、日常生活以外ならなんでもやれちゃうんじゃないの?
「ばっつん!そろそろ出番だよ?行こっか?」
「うん!」
副会長として来賓の接待をしていたサクラが呼びに来てくれて、100メートル走に出るため列に並んだ。
100メートル走が終わったあと、借り物競走と棒倒しに出れば、オレの午前中の出番は終了だ。
100メートル走は、去年と同じく六人中六位だったけど、借り物競走は、お題が『生徒会長』っていうのを引き当てたから、田頭に手を引かれて一位のゴールテープを切れた。
この学校に来て初めて一位になれたよー!と、喜んだのも束の間、サクラが怖い顔でやって来て『きみやすは譲らないからね!』とか、涙目になられちゃって……。
いやいや、要りませんて。
そんなサクラを納得させているうちに、棒倒しの順番が来てしまい……また田頭の指揮で、オレは去年と同じく攻撃班になった。
今年も一年A組から倒して行こうという作戦になり、一年目指して走って行って、去年と同じように棒を守る一年の肩に足をかけて、去年と同じように棒の一番上にある旗を取りに登っていくと、去年と同じように足を引っ張られて、オレの体は去年と同じように背中から落ちて行った。
デジャブ?とか、冷静に思っていたオレの頭の中には、こんな風に落ちて行ってるけど、きっと大丈夫だろう、なんていう、よくわからない自信があったように思う。
「雨花っ!」
落ちていくオレの耳に、藍田の声が聞こえた。声のほうに視線を向けると、落ちていくオレを抱き止めようと、腕を伸ばしている藍田が、オレのすぐ下にいた。
無理!無理!どいて!このまま落ちたら、藍田のこと潰しちゃう!
と、目を瞑った瞬間、オレはドサッと、柔らかい腕に包まれていた。
「っ!」
えっ?!藍田?!と、そっと目を開けると、目の前にいたのは、去年と同じ、皇だった。
「えっ……」
いつの間にそこにいたの?
皇は、すぐ隣で唇を噛んでいる藍田に『いくら雨花が軽いからとて、お前に落ちてくる雨花は抱き止められぬ』と、背を向けた。
藍田はさらに唇を噛んで皇を睨んでいたけど、皇はオレを抱き上げたまま、砂煙が立ち込めるその場から離れた。
安全な場所にオレをおろした皇は『攻撃班になるなど、止めるべきであった』と、顔をしかめた。
「あ……ありがと」
「良い。怪我はないか?」
「うん」
頷いたと同時に視線を下げると、皇の足から血が出ているのが目に入った。
「あっ!」
ここまで去年と同じとか……。
足から血が出てるから保健室に行こうと、皇の腕を掴んだ。
『大丈夫だ』と言う皇の手を引いて、保健室に向かった。
保健室についてから、養護の鈴木先生が本部席にいたのを思い出した。
慌てて保健室に来ちゃったけど、本部席で治療してもらえたんだった。
わざわざ戻るのもなんなので、皇を椅子に座らせて、血が出ている足の消毒をした。
「痛い?」
「いや、大した傷ではない」
「去年とおんなじだね。オレが落ちて、助けてくれた皇が足の怪我して……」
「違う」
「え?」
「去年そなたは……このように余には触れなかった」
皇の足に絆創膏を貼るオレの手を、皇の手がふわりと包んだ。
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