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りぷれい④

✳✳✳✳✳✳✳ 午後の競技はほとんどがリレーだ。皇はもちろん、選抜リレーのメンバーに選ばれていた。 『これくらいの傷、リレーに支障ない』って言ってたし、今年こそは皇のリレー、絶対見るんだから!   午後一発目の部活対抗リレーに生徒会として参加したら、オレの今日の出番は全て終了だ。 部活対抗リレーは、それぞれの部のユニフォームを着て走るのが定番らしい。 オレたち生徒会役員は、制服で走って三位に入った。 リレーが終わったあと、先に着替えを済ませて一人で本部席に戻る途中、慌てた感じの一年生に呼び止められた。 「生徒会の先輩ですよね!あの!喧嘩してるんです!」 「えっ?」 その一年生の話では、体育館裏で一年生何人かが、一人を囲んで揉めているのを見たという。 「わかった!大丈夫だから君は席に戻ってて」 「え……大丈夫ですか?」 「うん。大丈夫だよ」 田頭やかにちゃんを呼んだほうがいいかもしれないけど、一人だけを囲んで揉めてるなんて、早く行かないとその子が危ないかもしれない。 オレも去年、体育館裏で先輩に絡まれたし……体育祭ってみんな血の気が多くなってるの?もう! 走って体育館裏に行ってみると、確かに一年のジャージを着た集団が円陣を組んでいた。 ……エイエイオー的な円陣じゃないんだよね? 「そこー!何してんの?」 生徒会役員に手を出す馬鹿はいないだろうと、軽い感じで声を掛けると、集団が一斉にこちらを振り向いた。その中心で、一人囲まれているのは、藍田だった。 「え……」 藍田?!お前が絡まれてたのかよ!っていうか、お前、強いんだよね?何してんの? 「うわあ!柴牧先輩じゃーん!」 「可愛いー!」 藍田を囲んでいた一年がオレに食いつくと、藍田は中心からスッと抜け出して、オレの前に立った。 「何だよ?衣織チャン、妬いてんの?お前のこともあとで可愛がってやるから待ってろって」 背の高い一年が藍田の肩に手を置くと、藍田はその手を取って舌打ちした。 「何で雨花が来るんだよ。せっかく穏便に済ませてやろうと思ってたのにさ」 「あ?」 「お前ら、この人に手ぇ出したら、全員ぶちのめす」 「ああ?衣織チャンがオレらをぶちのめす?」 藍田以外の一年は、馬鹿笑いで盛り上がってるけど……早く逃げたほうがいいと思うよ? 教えてやったほうがいいのかな?こいつすごい強いはずだから逃げてって。 このままだと、藍田が加害者になっちゃうかもしれないし。 「お前、僕とヤりたいって言ってたよね」 藍田の手を掴んでいた背の高い一年を、上目遣いで見上げた藍田がニヤリと笑った。 ああ、ほら、これヤバいって! 「な……んだよ?ヤる気じゃん」 いいからお前は早く逃げろって! 「そんなに僕とヤリたいなら、抱いて下さいって可愛くお願いしろよ」 藍田はそういうと、その一年の腕を胸に抱きしめるように掴み直して、一本背負いを決めた。 ……まじか。 藍田は、顔から地面に叩きつけられた一年の腕を後ろ手に捩じ上げて、そいつの背中を思い切り踏んだ。 「うああああっ!」 「藍田!やめ!」 藍田はオレのことなんか完全無視で『可愛くお願いしろっつってんだよ』と、もう一度背中を踏んづけた。 周りの一年!ビビッてないで仲間を助けろ!それだけ人数いたら、藍田を止められるかも……って、オレの中で、完全に藍田が悪者設定に……。 いやいや、藍田は正当防衛だから! 「気持ち良くしてやるから、大人しくしてな」 そう言った藍田が、つま先でコンッと、倒れている一年の足を蹴ると、途端にガクガクと震え始めた足から、完全に力が抜けてしまったのが見るからにわかった。 「ちょっ!駄目だって!」 藍田は、足蹴にしている一年のジャージのズボンに手をかけた。 こいつ!マジでヤる気?! 「藍田!それは駄目っ!」 藍田の腕を抱えるようにして止めると、藍田の動きがピタリと止まった。 「お前ら早く逃げて!早くっ!」 倒れている一年から藍田を離すように腕を引くと、藍田はあっさりそいつから離れた。 藍田を囲んでいた一年は、足に力が入らない奴を抱えるようにして逃げて行った。 「お前、何やってんの?」 「雨花こそ、何で来たんだよ?!」 抱えていた腕を乱暴に外された。プイッと後ろを向いて、藍田はその場にしゃがみ込んでしまった。 怖かった?のかな?そんなわけないか? 「大丈夫?」 肩に手を置くと、ビクッと藍田が体を震わせた。 「何で来たんだよ。僕は雨花を助けられなかったのに」 助けられなかった?ああ、棒倒しの時の話かな? 膝に顔を埋めてしまった藍田の頭を、ポンっと撫でた。 「僕が雨花を助けられたんだ!すーちゃんが僕を押しのけるから……」 藍田はそこでしばらく黙ったあと『嘘。本当は雨花を抱き止める自信なくて、怪我させたらどうしようって、すごいビビってた』と、ぽそりと呟いた。 こいつ……やっぱりいい奴だな。

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