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りぷれい④
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午後の競技はほとんどがリレーだ。皇はもちろん、選抜リレーのメンバーに選ばれていた。
『これくらいの傷、リレーに支障ない』って言ってたし、今年こそは皇のリレー、絶対見るんだから!
午後一発目の部活対抗リレーに生徒会として参加したら、オレの今日の出番は全て終了だ。
部活対抗リレーは、それぞれの部のユニフォームを着て走るのが定番らしい。
オレたち生徒会役員は、制服で走って三位に入った。
リレーが終わったあと、先に着替えを済ませて一人で本部席に戻る途中、慌てた感じの一年生に呼び止められた。
「生徒会の先輩ですよね!あの!喧嘩してるんです!」
「えっ?」
その一年生の話では、体育館裏で一年生何人かが、一人を囲んで揉めているのを見たという。
「わかった!大丈夫だから君は席に戻ってて」
「え……大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ」
田頭やかにちゃんを呼んだほうがいいかもしれないけど、一人だけを囲んで揉めてるなんて、早く行かないとその子が危ないかもしれない。
オレも去年、体育館裏で先輩に絡まれたし……体育祭ってみんな血の気が多くなってるの?もう!
走って体育館裏に行ってみると、確かに一年のジャージを着た集団が円陣を組んでいた。
……エイエイオー的な円陣じゃないんだよね?
「そこー!何してんの?」
生徒会役員に手を出す馬鹿はいないだろうと、軽い感じで声を掛けると、集団が一斉にこちらを振り向いた。その中心で、一人囲まれているのは、藍田だった。
「え……」
藍田?!お前が絡まれてたのかよ!っていうか、お前、強いんだよね?何してんの?
「うわあ!柴牧先輩じゃーん!」
「可愛いー!」
藍田を囲んでいた一年がオレに食いつくと、藍田は中心からスッと抜け出して、オレの前に立った。
「何だよ?衣織チャン、妬いてんの?お前のこともあとで可愛がってやるから待ってろって」
背の高い一年が藍田の肩に手を置くと、藍田はその手を取って舌打ちした。
「何で雨花が来るんだよ。せっかく穏便に済ませてやろうと思ってたのにさ」
「あ?」
「お前ら、この人に手ぇ出したら、全員ぶちのめす」
「ああ?衣織チャンがオレらをぶちのめす?」
藍田以外の一年は、馬鹿笑いで盛り上がってるけど……早く逃げたほうがいいと思うよ?
教えてやったほうがいいのかな?こいつすごい強いはずだから逃げてって。
このままだと、藍田が加害者になっちゃうかもしれないし。
「お前、僕とヤりたいって言ってたよね」
藍田の手を掴んでいた背の高い一年を、上目遣いで見上げた藍田がニヤリと笑った。
ああ、ほら、これヤバいって!
「な……んだよ?ヤる気じゃん」
いいからお前は早く逃げろって!
「そんなに僕とヤリたいなら、抱いて下さいって可愛くお願いしろよ」
藍田はそういうと、その一年の腕を胸に抱きしめるように掴み直して、一本背負いを決めた。
……まじか。
藍田は、顔から地面に叩きつけられた一年の腕を後ろ手に捩じ上げて、そいつの背中を思い切り踏んだ。
「うああああっ!」
「藍田!やめ!」
藍田はオレのことなんか完全無視で『可愛くお願いしろっつってんだよ』と、もう一度背中を踏んづけた。
周りの一年!ビビッてないで仲間を助けろ!それだけ人数いたら、藍田を止められるかも……って、オレの中で、完全に藍田が悪者設定に……。
いやいや、藍田は正当防衛だから!
「気持ち良くしてやるから、大人しくしてな」
そう言った藍田が、つま先でコンッと、倒れている一年の足を蹴ると、途端にガクガクと震え始めた足から、完全に力が抜けてしまったのが見るからにわかった。
「ちょっ!駄目だって!」
藍田は、足蹴にしている一年のジャージのズボンに手をかけた。
こいつ!マジでヤる気?!
「藍田!それは駄目っ!」
藍田の腕を抱えるようにして止めると、藍田の動きがピタリと止まった。
「お前ら早く逃げて!早くっ!」
倒れている一年から藍田を離すように腕を引くと、藍田はあっさりそいつから離れた。
藍田を囲んでいた一年は、足に力が入らない奴を抱えるようにして逃げて行った。
「お前、何やってんの?」
「雨花こそ、何で来たんだよ?!」
抱えていた腕を乱暴に外された。プイッと後ろを向いて、藍田はその場にしゃがみ込んでしまった。
怖かった?のかな?そんなわけないか?
「大丈夫?」
肩に手を置くと、ビクッと藍田が体を震わせた。
「何で来たんだよ。僕は雨花を助けられなかったのに」
助けられなかった?ああ、棒倒しの時の話かな?
膝に顔を埋めてしまった藍田の頭を、ポンっと撫でた。
「僕が雨花を助けられたんだ!すーちゃんが僕を押しのけるから……」
藍田はそこでしばらく黙ったあと『嘘。本当は雨花を抱き止める自信なくて、怪我させたらどうしようって、すごいビビってた』と、ぽそりと呟いた。
こいつ……やっぱりいい奴だな。
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