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りぷれい⑦
ぼたんは鎧鏡家の忍びで、誓様もそう。
ってことは、知り合いなんだろうけど……ぼたんは誓様より全然年下のはずなのに……ぼたん"様"?
あっ!ぼたんって言われて、今気が付いた!誓様って誰かに似てるってずっと思ってたけど、ぼたんだ!
「誓様とぼたんって、何か似てますよね」
同じ忍びだからかな?雰囲気とか、顔も何かちょっと似てる気がする。
「えっ?!似てますか?!そうですか?!あ……大変恐れ多いのですが……ぼたん様とは、いとこにあたりますので……それで、でしょうか」
大変恐縮?何かやっぱり……ちょっと……あれ?
誓様は『そうですか。似てますか』と、何度も繰り返して、しきりと照れている。
「あの……すごく、嬉しそう、ですね」
ぼたんに似てるのが、そんなに嬉しいことなの?えっと……こんなことを言ったら失礼かもしれないけど……誓様って、ちょっと変わってる?
「あっ!失礼致しました!つい……。ぼたん様は、我が一族の、次の頭 となるお方で……いうなれば、我が一族の宝、とでも申しましょうか……」
「えっ?!」
我が一族の次の頭?一族の宝?え?忍び一族、みたいな?
またまた現実離れした話になってきてるけど、ぼたんってそんなすごい子だったの?!なんでそんな子がうちにいて、オレのこと守れとか言われてんの?
「申し訳ございません!つい力が入りました」
「あの!誓様」
「あ!どうぞ、誓とお呼びください。候補様方に誓様だなどと呼ばれるたび大変恐縮で……。いくら主の命令といえども、若様の奥方様候補として生活するなど、私には到底無理な話で……」
「えっ?!」
今、何て?
「え?はい?」
「候補として生活するのが無理って……」
「え?」
あ、違う。そこじゃない。
え?ちょっと待って!落ち着け!オレ!
今の誓様の言葉に、ものすごい引っかかるところが……。
『いくら主の命令といえども』?ん?
「あ!」
「え?」
「それって、皇の命令で候補として生活してるってこと……ですか?」
誓様は、いくら主の命令といえども、候補として生活するなど無理って言った!
それって……皇の命令で、候補のフリをしてるって、こと?
「あ……いえ、違います」
あ……違うんだ?ちょっとがっかり。
誓様も梅ちゃんみたいに、候補を守るためのフェイクの候補様だったりして……なんて、都合いいこと考えちゃった。
そうだよね。だって駒様だって、上臈をしながら候補様なんだし……。
「私の主は若様ではありません」
「え?!」
違うって、そっち?!
「もう顔も割れてしまいましたし、雨花様にならお話してもいいですよね。私は、御台様より命じられ、若様の奥方様候補に選出されたのです」
「えっ?!」
母様に?
「行事の際など、一番近くで若様と候補様方をお守りするようにと、御台様より候補になるよう命を受けました。それが今では何故か若様の命令に従わされ……」
誓様の話は、皇に対する愚痴に変わっていった。
けど、ちょっと待って!先にハッキリさせてください!誓様の話の腰を折るのも申し訳ないんですけど、ごめんなさい!これだけは先にハッキリさせて!
「あのっ!あの、それって……じゃあ誓様は、皇とは結婚しないって、こと……ですか?」
「ああああ……まさか!私のようなものがそのような……口にするのも恐れ多く……」
口に手を置いてガタガタ震えた誓様は、がたいのいい男臭い外見なんだけど、性格は何か、面白い人みたいだ。
でもそれより!誓様は、梅ちゃんと同じ!
梅ちゃんと同じ、フェイクの候補様なんだ!うわぁ!
そのあと、誓様から母様や皇の話を聞いているうちに、体育祭の全競技が終了していた。
あああああっ!今年も皇のリレーが見られなかったああ!
……でも、いっか。すごい嬉しいことが一つわかったんだから。
誓様は……フェイクの候補様!
うああっ!どうしよう!めちゃくちゃ喜んじゃってる、オレ!
誓様がフェイクだからって、オレが嫁決定ってわけじゃないけど……でもだって……やっぱり、ライバルは少ないほうが、嬉しいし。
皇と誓様が夜伽、とか考えらえない!って思ってたけど、いや、考えないで良かったんだ。
誓様は違うんだ。はぁ……。
「若様からのご指示にはそえませんでしたが、雨花様にお詫び出来、お話出来たことで、胸が軽くなった思いでございます」
安心したような顔をした誓様は、そう言ってオレに頭を下げた。
そうだよね。誰かに隠し事をしてるって、すごく、胸が重いもんね。
「オレが誓様の正体を知っちゃったこと、もし皇に怒られるようなことがあったら教えてください。オレ、誓様は悪くないって援護しに行きますから」
「雨花様……はい!ありがとうございます!」
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