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りぷれい⑧

「誓様が、いつもオレに付いてくれている忍びさんだったんですね」 「あ、はい。若様の命で。しかし私は、御台様付きの忍びなんですよ?それが何故か若様にいいように使われ……。雨花様ならわかってくださいますよね?若様の有無を言わせぬ物言い」 「わかります!オレ、みんなに一回聞きたいことがあったんですよ!皇の電話の切り方!あれ、どうなんですか?」 「わかります!そうなんですよ!若様は昔から主語が抜けるというか、おっしゃりたいことをおっしゃるだけおっしゃって、こちらの話は聞かないと言うか……」 「わかります!」 「ですよね!」 それから散々誓様と、皇の”こんなとこが困る”って話題で盛り上がった。 「まぁでも……そんな若様付きの忍びになるのが、私の目標なんですけどね」 散々盛り上がったあと、誓様はそう言って笑った。 「そうなんですね。なれると、いいですね」 「はい。精進致します!ありがとうございます」 誓様の目標を聞いて、すごく嬉しかった。 誓様は皇のこと、困るとか言いつつ、大好きなんだなってわかったから。 そういうの、何かすごい、嬉しくなるよ。 誓様の話っぷりからして、誓様は皇のこと、ただただ鎧鏡の若様として崇めてるってわけじゃなさそうなのに、皇のことが大好きって、何か、嬉しい。オレが喜ぶのもおかしいかもしれないけど。 体育祭の閉会式が始まるという放送が聞こえてきたので、オレは誓様と別れて本部に戻った。 「待った待った!やり直し!」 「は?」 本部席に戻ると、サクラがオレに『もう一度手を振りながらこっちに歩いて来て!』と、指示してきた。 は?何? 面倒なので指示通り手を振りながら本部席に戻ると、次は手を組んで嬉しそうな顔をしろとか、その場で何度かジャンプしろとか、色々なポーズを取らされた。 「なんだっつうの!」 「僕に感謝して。ばっつん」 「は?」 「ばっつんは、がいくんのリレー、撮影しましたか?」 「は?」 撮影どころか、見てもいないっつうの。 「うんうん、ばっつんは撮ってないと思ってた。がいくんの素晴らしい走りは、ばっつんの心に永久保存されたってことだね」 「何言ってんの?」 「しかーし!心の記憶は色褪せるんだよ!そんな後悔先に立たずなばっつんに、がいくんの選抜リレー動画をプレゼントしてあげる!あとでばっつんの携帯に送っておくから!エンドレスリピート必至だよ!」 「サクラ……」 サクラー!サクラの盗撮に初めて感謝したよ! あんまり喜ぶのも恥ずかしいから『あっそ』とだけ言って、閉会式に参列したけど、内心、めちゃくちゃ喜んだ。 早くみたい!見たいよー! 屋敷に帰って夕飯を食べようという時、ポケットに入れていた携帯に、サクラから動画が送られてきた。 「あ!」 オレが小さく声を上げると、夕飯を食べにやって来たあげはが『どうしたんですか?』と、オレに駆け寄った。 「あ、今日のね、皇の選抜リレーの動画を、友達が送って来て……」 「えっ?!若様の選抜リレー?!見たいですっ!一緒に見てもいいですか?」 「あ……うん。いいよ」 そうだよね。みんな、こういう皇、見たことないだろうし。 他にも側仕えさんたちが集まってきて、みんなで一緒に見ようという話になり、オレの携帯の動画を、大きなスクリーンに映してみることになった。 「じゃあ雨花様、どうぞ。再生なさってください」 「はい」 サクラから送られてきた動画を再生すると、選抜リレーのスタートの映像が流れた。 皇はアンカーだ。二番手でバトンを受け取った皇が、スクリーンの中で走り始めた。 「あ!雨花様!」 「うえっ?!」 スクリーンの中の皇が走り始めてすぐ、オレが胸の前で手を組んで、皇を応援してます的映像がスクリーンに流れた。 うえええっ?! 驚いている間に、スクリーンの画面は、一番で走っている三年の大木を追い抜かそうとする皇に切り替わり、なんだったの?と思っていると、またピョンピョン飛びながら、皇を応援しているらしきオレの映像に切り替わった。 皇が一番でゴールテープを切ったあと、オレが手を振りながら皇に駆け寄っていく……みたいな映像になり……って、何だ?!これ! オレ、皇がリレーで走ってる時、ここにいなかったし。 ……サークーラぁっ!何、いらない映像、差し込んでんだよ!あいつぅっ!このためにいろんなポーズ取らせたのか!くっそー!断固拒否するべきだった!何だ、これ!こんな映像、みんなに喜んで見せちゃって……。ああああっ! 「雨花様、すごい可愛く映ってました!」 いやいや、あげは?そこじゃない。見て欲しかったの、オレじゃないから!オレはただ皇の走りをみんなと一緒に……。 うおおおお!恥ずかし過ぎるぅぅ! 「こんな風に雨花様の応援風景まで見られるとは……感無量でございます」 いや、いちいさん!違うんです!その応援してるオレは、作られたオレなんですっ! ……なんていう言い訳をする気力もわいてこず、オレは何だかいたたまれないまま夕飯を食べ終えた。 サクラ……許すまじ。 ……でも。 皇、かっこよく映ってたし……今日、いいこと聞いちゃったし……ま、いっか。 恥ずかしさで落ち込んだのも束の間、部屋に戻ったあと、もう一度皇のリレー動画を見てから、ホクホクした気持ちで眠りについた。

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