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能ある鷹③

✳✳✳✳✳✳✳ 「大変申し訳ないのですが、これしか手に入りませんでした」 お弁当を食べ終えた頃、温室にやって来たのは、微妙に変装して、何かを抱えている誓様だった。 皇の電話の相手、誓様だったんだ? オレの前にやって来た誓様が、抱えていた物を、オレにうやうやしく差し出した。 学校指定のジャージだ。 「あ?」 皇はジャージを見て顔をしかめた。 確かに制服じゃないけど、でもこのズボンを履いてテストを受けるより断然いいからっ! オレたちがお弁当を食べている間に、誓様が急いでどこからか調達してきてくれたのに、不満げな顔するなよ、もう!ついさっき、誓様に褒美取らせるとか言ってたくせに。ホント殿様なんだから。 そういうところが、皇っちゃー皇なんだけど……。 いやいや、皇に文句を言うのもなんだよね。オレのために頼んでくれたんだから。 「誓様!本当にありがとうございます!」 誓様の手を取ってお礼を言うと、すぐ皇に引き剥がされた。 ちょっとー! 「いえ。用が足りず誠に申し訳ないことでございます」 「いえっ!全っ然!めちゃくちゃありがたいです!すいません、誓様に変なことお願いして……」 誓様に頭を下げると、誓様はオレよりさらに低く頭を下げた。 「いいえっ!雨花様が恐縮なさることなど何もございません!若様のご指示で動いたまででございますので」 「誓、もう良い。()ね」 誓様を睨み付けた皇のことは見もせず、誓様はオレに向けて頭を下げると、温室を出て行った。 「誓様って面白いね」 「あれは、主と認めぬ者への扱いが酷い。余は鎧鏡の次期当主というに……」 ジャージにササッと着替えながら、二人のやり取りを思い出して吹き出した。 誓様があんな態度なのは、皇のことを認めてないからじゃないのに。 「誓様ね、皇付きの忍びになるのが目標なんだってよ?」 笑いながらそういうと、皇はびっくりした顔をして『そなたはいらぬ事ばかり知っておる』と、そっぽを向いた。 これは……珍しく照れてる、のかな? 皇の顔を覗き込んでニヤリと笑うと、首に腕を回されて抱き込まれた。 「うわっ!」 「そなた一人で清々しい顔をしおって」 あ……そうだった。オレばっかり……気持ち良く、なっちゃって……。 ズボンのことで慌てて、騒いで、皇のこと……考えてなかった。 「あ、え……っと」 どうしよう。今更、何をどうしたら……。 あわあわしていると、皇が小さく吹き出して、オレをきつく抱きしめた。 「余は……そなたに触れただけで……満たされた」 皇……。 もぅ……何だよ!ものすごい、恥ずかしくて……めちゃくちゃ、嬉しいじゃんか。 胸が縮んだみたいに痛んで、皇のジャケットをギュッと掴むと、鼻で笑った皇に『だが次の渡りは覚悟しておれ』と、頭にキスされた。 「なっ……」 触れるだけで満たされたとか、言ってくれたの今さっきのことなのに!次の渡りは覚悟しておれって、さっきと言ってること全然違うじゃん! 「そろそろ戻るか」 そう言われて時計を見ると、次のテストまで、あと15分というところだった。 「うわ!急がなきゃ!」 バタバタしているオレを、優雅に足を組んで眺めている皇を横目に、急いでお弁当をしまって、二人で温室を出た。 「皇、テスト出来た?」 「あ?……愚問だ」 はいはい。皇は大概、三番以内に入ってるもんね。 いっつもふっきーが不動の一番で、オレは今まで、二十番までには入ってるって感じだった。 でも今回は!高遠先生のおかげで、いつもよりイケてる気がしてる! 「ふっきーってすごいよね。いっつもどんだけ勉強してるんだろ?」 「勉強をしている姿は見たことがない。パソコンで何かをプログラミングしてばかりいるようだ」 「……そうなんだ」 皇がふっきーのところに渡った時の話、なんだろうな。 皇が他の人のところにも渡ってるのはわかってる。だけど、他の人のところでどんな風に過ごしてるか、聞いたことがなかった。 ふっきーの普段の生活を皇から聞くのは……思ってたより、ショックで……。夜伽をしたとか、そんな話でもないのに。 パソコンに向かうふっきーを、そんな風に見てるのかと思うと、オレを見下ろす皇の柔らかい視線に、泣きたくなった。

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