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能ある鷹⑤
5月19日 晴れ
今日は、中間テストの結果発表です。
高遠先生の採点だと、オレの平均点は89点だった。
平均点89点って、順位はどれくらいになるだろう。
神猛は、バーンっと30位までの人の名前が廊下に貼り出される。
ほぼA組の名前で埋め尽くされるその順位表は、いつもA組の前の廊下の掲示板に貼られることになっていた。
登校すると、A組の掲示板前にはすでに人だかりが出来ていて、いつもよりガヤガヤと騒がしい。何かいつもより人が多くない?
そんな風に思っていると、人だかりの中から『ばっつん!』と、塩紅くんが飛び出してきた。
「あ……おはよ」
「のんびり挨拶してる場合じゃないよ!」
「え?」
「ふっきーと天戸井がやり合ってる!」
「えっ?!」
ふっきーが?まさか!あのふっきーが誰かとやり合うとかあり得ないでしょ?
塩紅くんに手を引かれて人だかりの中に入って行くと、中間テストの順位表の前で、ふっきーと天戸井くんが向きあっていた。
やり合ってるって、取っ組み合いのケンカとかじゃなかったんだね?そりゃそうか。あのふっきーがね。
天戸井くんは腕を組んで、ふっきーを睨み上げていた。
「どしたの?」
恐る恐るふっきーに声を掛けると、天戸井くんがオレに返事をした。
「愛嬌だけですめくんに取り入ろうとしている方々は、黙っていてもらえませんか。あなた方は端から眼中ないですから」
「はあ?」
天戸井くん……いや!天戸井は、オレと塩紅くんを一瞥すると、そう言い放って、またふっきーを睨み上げた。
ちょっと!愛嬌だけで眼中なしって、オレと塩紅くんに言ってんの?!何!こいつ!
「愛嬌も振りまけない能面野郎が、ちーくんに選ばれるとでも思ってんの?図々しい!」
オレの後ろから、塩紅くんが苦々しく言い放った。
えええっ?!やっぱりキツいなー、塩紅くんって。
「キャンキャン吠えるしか能のない下劣な馬鹿と同列と思われているのかと思うと、身震いします」
「何ーっ?!」
天戸井に飛びかかりそうな塩紅くんの腕を掴んで止めると、天戸井は『そっちの馬鹿のほうが空気は読めるらしいですね』と、鼻で笑った。
「何ーっ?!」
馬鹿って言った?オレのこと馬鹿って言ったの?!っつか、天戸井、B組のくせに、オレのこと馬鹿とか言えないだろ!と、言おうとした時、順位表が視界に入った。
一位の名前の欄に『天戸井晶 』と書いてある。
え?
二位の欄には『吹立詠 』と、ふっきーの名前が書かれていて、総合得点を見ると、二人は一点違いだった。
「えっ?!」
嘘……。
一位不動のふっきーが二位転落?!しかも、この目の前の天戸井が一位って……。
呆然としているオレの耳に『キミが一番よく吠えてるじゃない』という、ふっきーの楽しそうな声が聞こえた。
っていうか、どういうこと?!
天戸井、B組じゃん!なんで一位なんて……ものすごい勉強したってこと?
「総合的に見て、僕と互角に戦えるのは、そこのメガネくらいなようですね。せいぜい精進して僕を脅かす存在になってくださいよ」
天戸井がふっきーに向けた人差し指を、ふっきーはギュッと握った。
「人を指差すと不快にさせるって、教えて貰わなかったの?だったら今覚えてね。指差されるのって不快だからやめて」
ふっきー!
天戸井は、ふっきーの手から乱暴に指を抜いて、またギロリと睨んだ。
「知ってますよ。不快になっていただけたようで嬉しいです」
うわぁ……こいつ、性格悪っ!
「お前が一番下劣じゃん」
塩紅くんがそう言うと、天戸井は小さく舌打ちして『馬鹿とは話になりません』と、人だかりから外に出て行った。
ホント、何なのあいつ!
あいつが、お昼ごはんを皇と二人で食べたいなんて言って、ふっきーといざこざを起こしたあと、あいつとはほっとんど接点なかったけど……やっぱり強烈だな、あいつ。
「ふっきー」
「おはよう、雨花ちゃん」
ふっきーは、あんなことがあったのに何だか楽しげだ。
え?いいの?
「すごい人だね、あいつ」
「愉快だね」
「ほんっっっっと、嫌い!天戸井!」
塩紅くんは、ものすごい憤慨してる。
まぁ、あれだけ馬鹿馬鹿言われたらね。
「俺が馬鹿なら、俺より下のばっつんどうなるんだよ!」
「は?」
塩紅くんにそう言われて、順位表を上から目で追うと、三位に皇が入っていて、九位に塩紅くんの名前があって、オレの名前は十二位のところに……。
オレ的には今までで一番成績が良かったのに……何、この敗北感。
っていうか、何で天戸井も塩紅くんも、B組なのにそんな成績いいんだよ!
「塩紅くん、A組でも良かったんじゃないの?」
「え?うん。成績だけならね?でも修学旅行に行ってないから、A組には入れられないって言われたんだ。総合力が計れないからって」
総合力?!
そう言えば、修学旅行が三年のクラス分けの最終選考だって、言ってた……気がする。
あの修学旅行、そんな重要だったの?
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