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うつるんデス②
6月10日 くもり
今日は、プール特訓二日目です。
「ちーくーん!お昼行こ!」
今日ランチ当番の塩紅くんが、昼休み開始のチャイムと共にやって来た。
皇は、塩紅くんに腕を押されて、教室を出て行った。
「あいつ、ちょっと成績良かったからって何で英雄扱いになってるわけ?」
相変わらずサクラは、塩紅くんが好きではないらしい。
中間テストの結果発表以来、天戸井と塩紅くんは、B組の英雄扱いされるようになっていた。
天戸井くんは女王様、塩紅くんは姫様とか呼ばれて、取り巻きが出来ているらしい。
天戸井はここのところ、休み時間たび、ちょいちょい皇のところに来るようになっていた。
ふっきーは、あのなんちゃらオリンピックに出場するため、いつも先生に呼ばれているため、皇と一緒にいる時間が少なくなっている。その分、皇は学校で天戸井と一緒にいる時間が多くなったように思う。
オレはふっきーの定位置を守ろうと、何とか皇と天戸井の間に入ろうとしたりしてみたんだけど……天戸井がいる時に皇に近付くと、天戸井に綺麗な顔で凄まれて『邪魔!』とかハッキリ言われちゃって……。
そんな風に言われちゃうと、強く出られなくなっちゃうっていうか……だって天戸井、めちゃくちゃ怖いんだもん!ふっきーみたいにオレ、言い返せないよー!
天戸井の取り巻き連中は、女王様のお相手は鎧鏡くんしかいない!とか言って、二人を応援してるみたいで、天戸井と一緒になってふっきーを邪魔者扱いしているらしいと、サクラが教えてくれた。
「普通に凄いと思うよ?」
A組の生徒は、どことなく差別意識を持っている気がする。
自分たちは選ばれた人間だって自負しているっていうか……。
A組だけでいるとそうそう感じないけど、他のクラスと一緒になると、そこはかとなく漂うんだ。
そんなだから、B組だけじゃなく、A組の人間を苦々しく思っている奴らがいるのは知っていた。
多分オレも、A組じゃなかったら同じように思っただろう。
そんなA組の人間を負かした奴が、自分たちと机を並べている中にいたら、やっぱり『すげー!』ってことになると思うよ?それはオレにも、理解出来る。
「ちょっと!ばっつんは本当にのんきだね!今やあんな奴の弟扱いされてんだよ?怒りなよ!」
塩紅くんが転入してきたばかりの頃は、オレが塩紅くんの双子の兄とか言われてたのに、あの中間発表のあと、オレのほうが塩紅くんの双子の弟と呼ばれているらしい。
オレは全然似てないと思ってるから、兄でも弟でも腹も立たないけどさ。双子って言われてるのは、何言っちゃってんの?とは思うけど。
「別に、塩紅くんが言ってる訳じゃないし」
「いや!あいつが言い始めたのかもしれないじゃん!俺のほうが出来がいいんだから兄だよね?とかさ!言いそう!あいつ絶対腹黒だもん」
「どこまで塩紅くんのこと嫌ってんだよ。まあでも、そう言われてたとしても本当のことだし」
実際、どっちが兄でも弟でもないんだし。オレは全然気にしてないんだけど。
「もー!そんなんだと、がいくんかっさらわれちゃうよ!」
「え……それは……やだ」
「ぎゃ……」
「ぎゃ?」
「ぎゃばびぃぃぃぃ!!」
サクラがオレに抱きつくと『ちょっと!』と、声がして、サクラの体が剥がされた。
顔を上げると目の前に、サクラの襟首を掴んだ藍田が立っていた。
「おー!ベストオブ当て馬くんじゃん!素晴らしいタイミングだ!ぐっじょぶ!」
サクラは襟首を掴まれたまま、藍田に向けて親指を立てた。
「副会長、何度も言ってるけど僕が本命だからね?」
いやいやいやいや……。
藍田は、体育祭のあとくらいから、ちょいちょいうちの教室にやって来るようになった。
藍田がオレのとこに来ても、周りにみんながいるからか、皇は怒ってなさそうだし、オレも藍田を邪険にする理由もないから、普通に話すようにはなったけど。
だけど、お前が本命になった覚えはない!
「うわあ!当て馬が言いそうなセリフを吐いてきましたよ!でかした衣織!ぐっじょぶ!」
いつの間にかサクラは、藍田を衣織呼びするようになってるし。
「そのうち副会長にもわかるよ。ね?雨花」
「ない」
「ええーっ?!雨花、何、照れてんの?」
「はあ?ポジティブか?」
「いやいや、ばっつん!当て馬は、ポジティブたれ!さすがベストオブ当て馬!ぐっじょぶ衣織!」
「違うっつーの!」
毎日のようにオレのところに来るようになった藍田は、今ではすっかり、うちのクラスの奴らと顔馴染みで、みんなに可愛がられている。
中でもサクラは、藍田が大層お気に入りだ。
二年先輩のオレらに対して、藍田はてんで遠慮がない。
そういうところがいいらしい。
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