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うつるんデス③

腕を組みながら、オレと藍田を見ていたサクラは『うーん』と唸りながら、藍田の肩を叩いた。 「ごめんよ、衣織。お前は可愛いし、年下低身長攻めっていうのも、一定の需要は確かにある。だが僕は!所詮型にはまった人間なんだ!もう、がいばつしか愛せない!」 「はあ?」 「藍田、サクラは放っておけ。で?お前、何しに来たの?」 「え?雨花と一緒にご飯食べに」 「は?無理。別学年の教室には、用もないのにうろうろしたらいけない決まりだろ?自分の教室に戻れ。ハウス!」 「ええっ?!用はあるじゃん!好きな人と一緒にランチをするっていうさー」 「ハウス!」 ホントにこいつはヌケヌケと好き好き言うよなー。ある意味羨ましいよ。 オレは皇に、好きとか、言えないし。だってやっぱり、それを言っちゃったら……何か色々……困らせる気がするし。 それより、好きってはっきり言わなきゃ、皇に選ばれなかった時、別にお前のことなんてそんな好きじゃなかったし!って言えるし……ズルいんだ、オレ。 「ばっつん、いいじゃん!当て馬の仕事は、本命にヤキモチ焼かせることだよ?良し、衣織!窓際でランチだ!中庭から見える位置をキープ、プリーズ!」 窓際の机に向かったサクラをポカーンと見ながら、藍田は小さい声でオレに聞いた。 「ねぇ雨花。少し前から思ってたんだけど、副会長ってちょっとおかしいの?」 「……見ての通りだ」 サクラは『ベスポジ発見!』と、藍田を窓際の席に手招きした。 藍田……うちの副会長は、見ての通り、ちょっとじゃなくてだいぶおかしな人なんだよ。 みんなで窓際に席を移動すると、藍田はちょこんと小さい包みを置いて、中からおにぎりを取り出した。 「何、普通にここで食べようとしてんだよ?お前は!ハウスって言っただろ?教室に戻れ!……っていうか、お前、お昼ご飯それだけ?」 ふと見た藍田の前には、おにぎりが二個だけ置かれている。 「うん」 「少食なんだな」 いくら小さくて細いからって、少食過ぎないか? 「あー……今月厳しくて」 「え?何が?」 「食費。僕んち、自分の食いぶちは自分で稼げってうちなんだ。食費くれないから。でもバイトだけじゃなかなか食べていけなくてさ」 その話を聞いて、サクラが『バカー!』と、立ち上がった。 あ。何か、いやな予感する。 「お前!何て理想的な当て馬なんだ!くそ!年下低身長貧乏健気攻めか!属性4つも揃えてきやがって!良し!ご飯くらい、僕がお腹一杯食べさせてあげる!何がいい?ん?ばっつんのお弁当か?ほら、たーんとお食べ!」 サクラって、そういうの好きそうだもんなぁ。面倒見がいいって言うか、世話焼きって言うか。雑務全般をこなさなきゃいけない副会長にぴったりだよ。 オレのお弁当を藍田に差し出したサクラは『良し!毎日昼においで!副会長命令だ』と、藍田の頭を撫でた。 っつか、それオレのお昼ご飯ー! 「ばっつんは少食だから、これ半分以上食べても大丈夫だからな」 「何故オレの腹事情をお前が判断するー!」 とは言ったものの……藍田がロクな物を食べてないんなら、お昼くらい食べさせてあげても……。と、思ったところで、藍田はサクラが差し出したオレのお弁当を拒絶した。 「施しはいらない」 お! 「……お前、カッコいいね」 あ。サクラが、素で褒めた。 「あざっす!」 藍田はおにぎりを一口食べて『すぐに僕が雨花にもっと美味しい物、食べさせてあげるからね』と、笑った。 「うおおお!ちょっとー!何、この子?!ただの可愛いいい子じゃん!きょわい!しかも、そんな可愛い見てくれで、ばっつんを攻めたいバリタチなんでしょ?ある意味奇跡!当て馬にしとくにはもったいない!良し!がいくんがあんまりにも浮気するようなら、衣織にばっつんを進呈しよう!」 「えっ?!ホント?!」 「ちょっ……何でサクラがオレの所有者みたいになってんの?!」 「大丈夫!僕に任せて!」 サクラが親指を立てて、オレに良い笑顔を向けた。 「何がだよ!微塵も任せたくないわ!」 サクラとぎゃあぎゃあ言い合っていると、それまでかにちゃんと一緒に黙っていた田頭が『藍田』と、声を掛けた。 「食べないのはもったいないぞ?どうせばっつん、全部は食べきれないんだから。残すのもったいないだろ?」 田頭はオレのお弁当からおかずをいくつか抜き出して、藍田に差し出した。 オレのお腹事情ジャストサイズに合わせて作ってくれるようになったふたみさんのお弁当がぁぁ! 「あ……」 藍田が伺うようにオレを見るから、オレは小さく何度か頷いた。 お弁当を残す予定はなかったけど、ここで食べるな!とは言えない。田頭、藍田がオレのお弁当を食べやすいように、あんな風に言ったんだろうし。ホント田頭って、生徒会長なんだから。 藍田は『あざっす』って田頭に笑いかけて、すっごく大事そうに竜田揚げをつまむと、よーく味わうようにいつまでも噛んでいた。 皇が、藍田は昔っからみんなに可愛がられてたって言ってたけど……うん、まあ、可愛いがられるだろうよ、こんなヤツ。

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