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うつるんデス④

✳✳✳✳✳✳✳ 「何だ?その水着は?」 全身を覆うタイプの水着を着て更衣室の個室から出ると、皇がオレを見て顔をしかめた。 「お前がうちのとおみさんに指定した水着だろ」 眉を顰めた皇は『昨日のままで良かったものを』と、ぶつくさ言いながら更衣室を出て、準備運動を始めた。 お前が何と言おうが脱ぎづらかろうが、もう絶対こっちの水着で通すから! お前にはいやらしい気持ちが微塵もないお触りだとしても、素肌をペタペタ触られたらオレは……。 とにかく!昨日だってギリギリのところで平常心を保ってたんだっつーの! 水着で勃たせたりしたら、即アウトでしょ!昨日、泳ぎうんぬんより、そっちのほうに気を使ってたオレの身にもなれ! お前に触られたら……だって……どこ触られても、オレ……。 「わあああああっ!」 もう!変な想像で反応しそうになったじゃん!いかーん!もう!ホントヤバい!何これ?!何の修行なの?!プール特訓が終わる頃にはオレ、絶対何か悟ってる! 「何を騒いでおる?」 涼しい顔の皇が、腕をコキコキ鳴らして、水泳帽とゴーグルをつけた。 う……スクール水着に水泳帽とゴーグルなのに、なんでそんな決まるんだよ。 こいつなら、ブーメランパンツでもふんどしでも、さらーっと着こなすんだ、きっと。 「そなたも体を動かしてから入って参れ」 皇はそう言って静かにプールに飛び込んだ。 あっという間に25メートルを泳ぎきった皇を、オレはただぼーっと見つめていた。 「もう良いのか?」 「あっ!う!うん!」 お前に見惚れてて、ぼーっとしてたとは言えず、準備運動もそこそこにプールに入ると、皇がすぐにオレのところまで泳いできた。 皇は帽子とゴーグルを外すと『プールサイドに手をついて、平泳ぎの足の動きだけしてみせろ』と、腕を組んでオレを見下ろした。 皇の言う通り、プールサイドを掴んで、平泳ぎの足の動きをすると、皇は『開きが甘い!』と、オレの内腿を押さえて、さらに足を開かせた。 「ぎゃああっ!」 「あ?痛かったか?準備運動をきちんとしておらぬのであろう?」 「ちが……ちょっ……」 確かに準備運動はしてないけど、そうじゃなくて!そんなとこ触られたら、ヤバイんだってば! 「そなた、いつもは余がどれだけ開かせようが、痛いなどと申さぬであろうが」 どれだけ開かせようが? ……。 ……。 「なっ!んの話してんだよ!バカ!バカ!」 皇に足を開かれるのなんて……いやらしいことをする時くらいしかないじゃんかー!バカーっ!恥ずっ! 「しっかりやらねば終わらぬぞ?無理にせぬゆえ、そなたの出来る限り足を開いて、爪先までまっすぐ伸ばしてみよ」 「……ん」 そのあと皇は、無駄にオレの足の裏を触りながら『相変わらず柔い足の裏をしおって』とか言いつつ、平泳ぎを教えてくれた。 こいつ、足の裏フェチなんじゃないの? まあでも、足の裏ならまだ大丈夫。さっきみたいに内腿とか触られたら絶対ヤバいけど! 反抗すると、また無理矢理押さえられそうだからと、皇の教えに忠実に泳いでいるうちに、平泳ぎも前より進みが速くなった。 「ねぇ、オレ……泳ぎの才能あったんじゃん?」 「あ?余の指導の賜物だ」 「……はいはい。アリガトウゴザイマスー」 今日のタイム目標を達成したところで、二人でプールから上がった。 帰り仕度を済ませて外に出ると、オレの迎えの車しか来ていない。 「あれ?皇の車は?」 「あ?聞いておらぬのか?今日はこのままそなたのもとに渡る」 「えっ?!」 聞いてないよ!いちいさん! ……って、まあ、別にオレは、何の準備もないけどさ。 皇がいつ渡ってきたって、学校で突然始まるよりは、全然精神的にも、余裕……だし? 「あ?不服か?」 「べっ……つに。え?一緒に乗って行くの?」 「同じ場所に帰るのだ。わざわざ二台に分かれることもなかろう」 「そっか」 うわ……ちょっ……何か、嬉しい。 鎧鏡家のことは内緒だから、皇と一緒に登下校なんて、今までなかったよね?! あ、皇が迎えに来てくれたことはあったけど……こんな風に一緒に学校を出るとか……何か、新鮮。 「ねぇ、皇」 「ん?」 「ちょっとだけ、歩いて帰ったら駄目かな?」 「あ?」 歩いて下校とか、そういう、ふ、つーのことを、皇と一緒にしてみたかった。 「危ないかな?」 「そなたに何かあれば、余が守ると言うたであろう」 「じゃあ、歩いて帰ってもいい?」 「……曲輪までか?」 「曲輪まで歩いたらどれくらいかかるかな?」 「一時間はかかるまい」 「えー?お前の足でなら、だろ?」 「そなたの足でも、だ」 「うっわー、何かその言い方、ムカつく!」 「……並木道を抜けるまでで良いか?」 「うん!」 運転手さんに謝って、皇と二人、トウカエデの並木道を歩き出した。

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